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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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堕天使について

 天使の武具――それを誰が手にするかを今後の検討課題とすることに決まり、その候補者を見るべく俺達は移動を開始する。


 目的地はここから北――様々な国の国境付近に存在する巨大な魔物の巣。そこだけは周囲の国々もほとんど干渉しておらず、共同管理という名目はあるものの、実質どこの国にも所属していない空白地帯らしい。


「だからこそ、悪巧みもできるのよね」


 馬車で移動中、ネルが呟く。人数が多いので二台で移動しており、この車内にいるのは俺とソフィア、ロミルダとリチャル――そして、天使のネル。


「実際、堕天使の一人はその場所で色々と動き回っていた……他の魔物の巣にも干渉した形跡があるから、地底内で道が繋がっているのかもね」

「天使側はそこへ入り込んだりはしていないのか?」


 俺が尋ねる――何度か会話し、彼女が「砕けた口調で」と所望したので、普段通りに戻っている。

 で、ネルは苦笑した。


「瘴気が邪魔して調査が捗っていない、というのが正解ね。私達は瘴気の影響を受けて弱体化するなんてことはないけれど、相手が策謀を巡らせている場所へ踏み込むのだから、相当な備えがあるはず。だからこそ、私達も思うように動けなかった」


 相手は天使のことを知り尽くしているから……ってことか。


「今後はあなた達とも協力できるから、風向きは変わるかしら」

「……期待されてるってことか?」

「そう。よろしくね」

「わかった……さて、これから魔物の巣へ向かうわけだけど、一つ問題がある」

「あなたのことね」


 俺と目を合わせネルは語る――ひとまず移動を開始してからおおまかなことは伝えてある。もっとも、俺が転生した部分についてははしょっているので、そういう力を宿している、とだけ説明してあるのだが。


「それについては神霊様が調べているのよね?」

「本体に情報を渡して、調べてはくれている」

「ならこちらも天使としてアプローチしてみるわ。あなたの力が完全に発揮されれば、私達にとっても有益なことだし」

「お願いするよ」


 今は制限がある中で頑張るしかないけど……。


「それじゃあ、最初の話し合いの際に詳しく語らなかったけど、堕天使について説明しておくわ」


 そう前置きをしたネル。


「ジェイさんの方でも、説明はされているはずよ」


 つまりそれは、アルト達やエイナにも情報が渡っているということか。


「堕天使……アンヴェレートを含め三人いる。残る二人は共に男性ね」

「名は?」

「一人はヴィレイザー。相当活動的で、表立って動いていたのが彼ね。ただ魔力を解析し彼だと断定しただけで、その姿は確認できていない」

「天使であった時と比べ、別人みたいになっている可能性があるんですね」


 ソフィアの指摘にネルは首肯。


「次に、ロスタルドという天使……彼は一時期天使長になろうとしていた存在。それが戦いの後に出奔し、堕天使に……」

「彼らが堕天使となった理由は、わからないんですか?」


 さらなるソフィアの問い掛けに、ネルは首を振る。


「わからないわ。天界に恨みを抱いているといった様子はなかったみたいだけど……こればかりは、直接問い質さない限り無理でしょうね」


 と、ここでネルは表情を厳しくする。


「……最初の会話時点で話をしていなかったけれど、ロスタルドについては問題がある」

「というと?」

「彼もまた動いている……ようなのだけど、魔力を検知したのは魔物の巣ではない。町中なの」


 一時、馬車内が沈黙する。つまり――


「人間として活動している、と?」

「あるいは、天界に関する情報を収集しようと動いているか……どちらにせよ、ロスタルドもまた活動している」

「アンヴェレートも地底で動いていることから考えても、堕天使三人は何かしらやっていると考えて間違いないと」


 俺の言葉にネルは「そうね」と同意し、


「ロスタルドの魔力を捕捉したのはごく最近なのだけど……天使長にまで昇りつめようとしていた存在であるため、天界としては彼を一番警戒している。また、彼はどちらかというと裏方に回る方が得意だったようだから――」

「魔力を検知した以上、策謀があると考えて間違いない、と」

「そういうこと……で、ここで疑問が一つ」

「それは俺でもわかる」


 ここでリチャルが手を上げた。


「堕天使アンヴェレートが言っていたこと……それがヴィレイザーとロスタルド、どちらのことを言っているのか」

「両方って可能性もあるわ。そもそも彼らは同じタイミングで堕天したわけではないし、天使の時に手を組んでいた様子もない。ただし、それぞれが独自に動いて、誰かの作戦に乗じて目的を成す、なんて可能性も十分あるわね」


 相手の目的がわからないから、対応に困るよな……考えながら、俺はネルへ言う。


「アンヴェレートについては、好き勝手やっているような気がするけど」

「言動からすれば、二人が活動していることを把握し、面白おかしく観察している……なんて可能性が高そうね。だからといって警戒しないといけないけれど」


 ……天使がどのくらい動員できるのか俺にはさっぱりわからないけど、ネルの様子だと人的なリソースも足りてなさそうだな……。


「目先の相手は誰になりそうなんだ?」


 俺が再度尋ねる。それにネルは確信を伴った声で返事をした。


「ヴィレイザーだと思うわ。ロスタルドは、彼が派手に動いている間に、何かをするって解釈が私としてはしっくりくる」

「わかった。ロスタルドって堕天使については俺達じゃあどうしようもないから、そっちに任せるよ。戦いについては、こっちが頑張るさ」

「お願いするわ」


 そこでガタン、と一度馬車が揺れた。


「……それで、今回宴の上位ランクの人が来るわけだけど」

「そうね。順位で言うと三位から五位ね」


 と、彼女は懐をゴソゴソとやる。


「えっと、掲示板はまだ更新されていないけど、最新の情報によれば……トップスリーは変わらず、といったところね」

「ちなみにソフィアは?」

「もちろん上がっているわ。順位としては十八位。ロミルダちゃんが二十一位」


 一気に上がったなあ。


「エイナさんやアルトさんの名も入っているけれど……エイナさんは落ちているわね」

「俺達の名を掲示板で発見し、探していたみたいだからな。この期間はあまり戦っていないんじゃないかな」

「そうなの……ともあれ、まずは今回三人と会ってみて、気になったら相談して」

「わかった」

「どういう方達なんでしょうね」


 ソフィアが言う。雑談のつもりで発した言葉なのだろう。


「共に戦うとしたなら、真面目な方がいいけどな……」

「そういえばネルさん、上位の方々に騎士などはいないんですか?」

「いるわよ。二位の人がそう。けど、今回偽名なのよね。騎士の人が動き回って一位になったりするとヒンシュクものでしょ? だから、名を伏せているのよ」

「個人的には騎士の方がよさそうな気もしますが……」

「その人を指名する場合、国の方と交渉しないといけないわね」


 まあそうなるよな……どうするかは、会ってからだな。


 と、ふいに馬車が止まった。町に着いたかな。


「お昼時だから、ここで昼食をとりましょう……堕天使が動いている不穏な情勢だけど、焦っても仕方がないわ。腰を据えて取り組みましょう」

「そうですね」


 ソフィアは同意し、ネルと共に馬車を降りる。俺やロミルダ、リチャルも続き、外に出た。


 そうして旅は続いていく――俺はここで予感を覚えた。宴の上位陣との出会いに、堕天使との戦い。おそらく、俺達の敵である『彼』との戦いにおいても、重要なものになるだろうと。


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