天使の盾
「対価を約束していただけるのであれば、俺は宴の参加を辞退して仕事をしてもいいですよ。元々、先ほど言った対価が目的で参戦していたので」
それが果たせるのであれば、宴に対し頓着はない……それにネルは頷いた。
「わかったわ。他の方々はどうしようかしら?」
「……もし、ネルさんの提案に従った場合、私達はどう動くのでしょうか?」
質問したのはソフィア。当然気になるところか。
「先ほど、宴とは別に動く、とおっしゃいましたが」
「ルオンさん一人いれば、そこについては問題ないと思うわ。他の人達は……」
途端、悩み始めた。そこで俺がネルへ告げる。
「ネルさん、宴とは別の仕事……それは、堕天使を見つけることですか?」
「ええ、そういうことになるわね」
「ただ、相手もそう尻尾は出さないはず……それに、このまま堕天使との戦いに突入するのも不安要素があります」
俺はそう前置きし、ネルへ語っていく。
「この場にいる面々の中で、確実にアンヴェレートと戦えると断言できるのは……ソフィアだけだと思います」
「強くなる必要がある、と」
「はい」
「そしてあなたの場合、堕天使との戦いの先を見ている」
俺は頷く。その通りだ。
「天使……私達の力を集めた武具とは、どういう物を想定しているの?」
「逆に訊きますが、天使の力をより発揮できる武具とは?」
「そうね、武器よりも防具のような物が望ましいわね。ただ鎧では人によって着れないという可能性もあるわけだから、盾などが望ましいのかしら」
天使の盾――それはまさしく、ゲームで登場した物。
「大きさなどは自由にできますか?」
「例えば使用者に合わせて形を変えることも可能ね。それと」
と、ネルは微笑を浮かべ、
「力を結集した防具……それ以外にも、私達が生み出した力を集めた武器も提供する」
「……それは、ありがたいですね」
俺はここで、先ほどネルが述べたことについて言及する。
「ネルさん、アンヴェレートなどの堕天使は、天使に対し何かしら対策をしていると語っていましたが……」
「天使のことは天使がよく知っている……彼らは私達が動くことはわかりきっていたし、おそらく瘴気などを吸収し対応策を持っていると確信している。だからこそ、私達は人間と協力する事を選んだ」
「人間と協力すれば、勝機があると?」
「ええ。ただ、それには実力が伴っていなければならない」
――この大陸で起こっている戦いは、前世でソーシャルゲームとなっていた。俺もそれほどのめり込んでいたわけではないけど、もしかしてイベントなどでアンヴェレートなどの堕天使が登場する、なんてことがあったのかもしれないな。
ふとそんなことを考えながら、俺は「わかりました」と答え、
「ソフィアについては、防御面にやや不安があります……ここの対策ができれば、堕天使との戦いが楽になると思いますが」
「わかったわ。あなたには私達と共に堕天使撃破に動いてもらい……他の方は、強くなるために色々動く、といったところかしら?」
「そういうことになるかと思います」
「そう。なら――」
と、彼女は俺と目線を合わせ、
「最初にやってもらいたいこととしては、ルオンさん、あなたの目で誰が堕天使と戦うにふさわしいか。それを見定めてもらいたいわ」
「俺が、ですか?」
「もちろん私達もやるけれど、魔王を打ち破っただけの力を持つあなたが協力してもらえれば、盤石なものになると思うわ」
そういうことか……俺でいいのかという疑問はあったが、宴の運営責任者がそう語っているのだ。乗っかることにしよう。
「その過程で、ふさわしいと判断した方々に武具を優先的に提供するわ」
「わかりました……が」
ここで俺は――
「ガルク、ちょっといいか?」
『うむ』
向かい合うソファの間にあるテーブルの上に、ガルクが出現する。当然ネル達は眉をひそめ、
「精霊、かしら?」
「あ、えっと……神霊ってわかります? 本体では無く分身ですが」
その言葉で――ネルが目を見開く。
「神霊……あなたの旅に同行していると?」
「魔王との戦いの後、分身が旅についてきたといいますか」
『ガルクだ、よろしく頼む』
「こちらこそ……それで、彼に何を?」
「ああ、はい。ガルク、ソフィアは神霊の剣を持っているわけだが、それと天使の力って、競合しないかな、と」
『ふむ……我としては問題ないとは考えている。ただし、ソフィア王女に天使の力を結集した武具を、というのはやめておいた方がいいだろう』
「根拠があるのか?」
『さすがに力を集めた武具となれば、その影響は計り知れない。また、いくらソフィア王女とはいえ個人では扱える力に限界がある。同時併用した場合は武器の力を完全に扱うことは難しくなるだろう。天使最高の武具は、他の誰かに背負わせるべきだ』
まあそうなるよな……なら、
「ネルさん、俺としてはこの戦いを通し、天使の力を集めた武具を扱える人物を引き入れたい」
「来たるべき決戦に備えて?」
「はい。決戦があるのかどうか、という疑問はありますけど」
肩をすくめ、俺は続ける。
「現在、俺達には二つの武器があります。ソフィアが持つ神霊の剣。ロミルダが持つ皇竜玉……それぞれ精霊、竜の力を結集して創られた物。ここに新たな天使の武具が加わることで、大きな戦力増強になるのは間違いありません」
「けれど、それを扱えなければ意味がない」
俺は頷く――ソフィアとロミルダ。それぞれが所持する武器を完全に扱うのならば、天使の武具を持つことはできないだろう。
ならば、新たな誰かに……リチャルは厳しいので、新たに仲間を募ることになる。
「そうね、天使の力と相性がいい人物を探すというのもあるけれど、根本的に実力が伴っていなければ厳しいわね」
「なら、答えは一つですね」
ソフィアが語る。ネルにもわかっているようで、頷いた。
「武具を扱うにふさわしい人物を探し出す……宴を通してなら、十分可能ね」
「この場には、掲示板に名が載る人物が二人いますが……」
「それは?」
聞き返したネルに対し、エイナとアルトが手を上げた。
「ルオンさん達としては、信用に置ける仲間……あなた方がその力を手にするのが、望ましいかしら」
「そうですが、仲間だからといって採用するのは、エイナ達も納得しないでしょう」
彼らとしては、きちんと認められた上で、と考えているはず……それは正しいようで、エイナ達は一様に頷いた。
そしてネルは「わかったわ」と応じ、
「ならば、そうね……情報によると、掲示板の上位に位置する面々が、とある魔物の巣に集まるという情報があるの」
「上位、ですか?」
「ええ。現在獲得した武勲……最上級に位置する魔物を狩った人もいるわね」
実力はその時点でお墨付き、かな。
「とはいえ、ルオンさんとしてはまず会って話をしないといけないわよね? 実力があっても信用に置けなかったらどうしようもないし」
「はい」
「ならば、集まった時を見計らい、私が出て話をするわ」
「俺達のことは……」
「伝えるのは堕天使についてだけ。そこから、ルオンさんがお眼鏡にかなうか判断すればいいわ」
「――そこで」
と、エイナが口を挟んだ。
「私が実力を示せば、選ばれる可能性はあるな?」
「……そうだな。けど、無理はするなよ」
「わかっている」
彼女が頷いた後、ネルが締めとばかりに語った。
「では、場所は教えるから移動することにしましょう……出発するタイミングなどは任せるから、よろしくね」




