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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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宴の意味

 いよいよ天使と会うことになる……本来の目的からするとずいぶんと早い。ただ今はアンヴェレートという謎の存在がいることにより、どう話が転ぶかわからない。


 アルト達やエイナも一緒に話を聞くことになったわけだが……この人数だとさすがに通された客室で全員座ることは難しく、ソファに座ったのは俺とソフィアとロミルダだけ。他の面々は立っている。


 やがて、扉が開きまず姿を現したのは運営の人間であるジェイ。そして、


「――ずいぶんと人が多いわね」


 やんわりとした物腰の女性……腰まで届く長い黒髪を持つ、人当たりのよさそうな天使。

 といっても背に翼が生えているわけではない――元々持っていない天使もいるが、彼女の場合町を訪れているということで、消している可能性もある。


 彼女の場合は持っているのかそれとも……沈黙したまま俺は立ち上がった。それに合わせソフィアやロミルダも席を立つ。


「お初にお目に掛かります。ルオン=マディンといいます」

「初めまして。私はネル=ノーディア。宴の総責任者をやっているわ」


 責任者……いきなりトップがやってきたのか。それほどアンヴェレートの存在は気に掛かる、というわけか。

 そこから自己紹介を済ませるとジェイとネルの二人が座り、俺達もまた着席して話を聞くことにする。アルト達やエイナは立ったままではあるが、耳を澄ませて聞く構え。


「あなたの仲間も事情は把握しているようね……話をさせてもらう前に、一つ確認を。あなたの名を少し調べたところによると、シェルジア大陸で魔王と戦ったという情報を得た……」


 次いで俺の横にいるソフィアに目を移す。


「そしてあなたは……バールクス王国の王女様、でいいのよね?」

「はい、間違いありません」


 目を合わせ答えるソフィア。ジェイとネルはここで一度互いに顔を向け、


「……わかったわ。あまり前置きをしてもしょうがないから、単刀直入に話してさせてもらう。あなたが出会ったアンヴェレートの分身……いえ、そればかりではなく他にも同様の存在がいる。その討伐に協力して欲しいの」

「それはソフィア様達の腕を見込んで、ということでしょうか?」


 尋ねたのはソフィアの後ろで護衛のように立つエイナ。ネルは即座に首肯し、


「ええ、そういう解釈で間違いないわ」

「……すみません、一つ問題があるんですが」


 俺が手を挙げる。早いうちに言っておいた方がいいだろう。


「ジェイさんと話をした時報告しませんでしたが、俺の攻撃が通用しにくくなっています」

「通用しにくい?」

「はい。原因は今のところ不明ですが、どうやら魔力の質によってこういう現象が起きているようです。解決策も現在ありません。色々調べてはいますけど」


 ……その状況下でも敵を倒せているのがすごいと考えるか、それともリスクがあると考えるか。沈黙していると、ネルは「わかりました」と応じ、


「そうした制限があっても、あなたは彼女と戦うことができたというわけね」


 好意的に解釈してくれた様子。


「本題に入る前に確認ですが、アンヴェレートと名乗った存在は、何者ですか?」


 おおよそ結論は出ているが、確認。すると彼女は神妙な顔つきで、


「その様子だと、推測はしているようね……彼女は、瘴気などを取り込み天界に反目した、堕天使」


 やっぱりか。


「二十年前に大きな戦いがあり……その後天界は少しずつ復興していった。けれど、その中で力を得ようと動き回っている天使がいた」

「そのうちの一人が、アンヴェレートですか?」

「ええ、そうよ。もう一つ言えば、堕天使となった存在は、アンヴェレートを含め三人」


 数はそう多くないな。


「私達は、それを倒すために色々と策を講じながら、それと平行して宴を実行した」

「その意図は?」

「魔物討伐を大々的に行うことで堕天使を牽制する意味合いがある。三人のうち一人は魔物を大量に生み出すなど活発に動いていたのだけれど、宴が始まって以降は身を隠し魔物を作成している様子もないから、一定の効果があった」


 単に見つからないようにしているだけ、なんて可能性もあるが……そこは彼女達も推察して行動はしているだろう。


「同時に私達は宴の中で堕天使に対抗できる人材を探し始めた……堕天使となった彼らには、私達天使に対抗できる力を持っている可能性が極めて高かったから、協力者を探そうとしたというわけ。その中で、アンヴェレートの分身体を撃破したあなたの話を聞いたの」


 ネルがこちらを見据え、なおも語る。


「あなた達は魔王に打ち勝った……その力はきっとこの戦いに必要になる。協力して欲しい」

「……条件を提示しても?」

「構わないわ」


 まあ事情を話すしかないだろう……ただ現段階ではあんまり言いふらさないでほしいから――


「これから話すことについては、今はひとまずこの場で留めておいてもらえませんか?」

「ええ、いいわよ」

「……アンヴェレートはどうやら、瘴気以外に地底の奥深くに眠る存在の力を使っているようです」


 ピクリ、とネルは反応する。この様子だと――


「何か知っているようですね」

「あなたは、地底に眠る存在をどうにかするつもりなの?」

「別の大陸で騒動に関わって、そいつと戦いました。力を利用していた存在を撃破し、一応解決したんですが……とにかく、そいつのことを調べようと思いまして。戦うかどうかはわかりませんが、対抗する術を探そうという意思はあります」


 こちらの言葉にネルはじっと視線を送ってくる。ただその目には驚いているような雰囲気も見え隠れしている。


「……もしや、あの力を天使は利用しているんですか?」

「いえ……過去に調べていた、と言った方がいいかしら」

「できればそうした情報。ひいては、地底に眠る力に対抗するため、天使の力を借りて武具を作成したいと考えています」

「それが、あなたの対価?」


 質問に深く頷く。さて、カードは出した。あとは相手の反応を待つだけ。


「そう、どうやらあなた達は私の予想以上に今回の件と関わりがあるようね」

「だと思います」

「そうね……地底に眠る存在については私達も過去調べていたけど、先の大戦で資料も大きく喪失しているの。だからまず、資料が残存しているかどうかから調べないといけない」


 またずいぶんと厄介そうだな……沈黙していると、ネルはさらに続ける。


「でも、あなたの要求についてはきちんと履行することを約束するわ……協力、してもらえる?」

「はい」


 俺に加え、全員が頷いた。それを見たネルは「ありがとう」と礼を述べ、


「ならまず、堕天使について情報を提供するわ。とはいえこちらはどこに潜んでいるのかもわからないため、調べている最中なのだけれど」

「アンヴェレートは空を探せと言っていましたが……」

「地底がダミーなのは私達も認識しているわ。というのも、堕天使がどういう目的なのかを考えると、地底より空にすみかを作った方がいいでしょうし」


 ――その理由は、もしや、


「彼らの最終目標は間違いなく天界……ただ堕天使である以上、正規の手段で天界に行くことはできない。やるとしたら天界への門を開くために、長時間魔法を組み立て、発動条件を整えなければならない」

「今敵はその準備を進めている?」

「そうね。ただ向こうもその場所を特定できないようにしている。それについてはこちらに任せてもらうしかないわね」


 微笑を浮かべるネル。そして、


「宴についてはどうする? もし協力してもらえるのなら、色々と宴とは別に動いてほしいのだけれど……」


 どうするか……俺は少し考え、口を開いた。


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