流れる剣
劣勢にも関わらず、エイナは前に出る。そして渾身の一振りを――だがソフィアはそれを先んじて押し留める。
金属音と共に、両者の剣戟が止まった。力勝負においてもソフィアが上……これについては彼女の方が当然上か。
ただエイナの顔はあきらめていない、というよりこうなって当然みたいな雰囲気が感じられた。
「――ならば」
エイナが呟く。刹那、わずかに身じろぎした。
それと共に感じられる魔力――と、突然ソフィアが引き下がった。危険だと思ったのか?
それに対しエイナは果敢に攻め立てる。なおもソフィアは距離をとろうとするが、それをエイナが阻むような形だ。
「狙いはなんだろうな?」
アルトが問う。俺はエイナが発する魔力の流れを読もうとしながら、答える。
「ここまでいいところ無しだから、反撃には違いないんだろうけど……」
「けど、例えば魔法を使ったりする気配はないよな?」
「そうだな」
おそらく、瞬間的に魔力を発して押し込む、とかかな? そうした予測の直後、エイナがさらにソフィアへ迫る。同時、魔力がさらに発せられ――俺の目には、巨大な魔力の塊のように見えた。
自身を一個の弾丸と化すように、突撃するエイナ。魔力量は俺やソフィアからすればそう多くはないが、特攻とも言えるその攻撃には勢いがある。ソフィアとしてはガードするのはリスクもあり、できれば避けたいところだろう。
エイナの進攻速度は相当なもので……加え、俺には魔力の塊と化している先に何かがあるように映った。今の状態で体当たりを仕掛けても十分な威力はあるだろう。しかし、エイナにはまだ奥の手がありそうな雰囲気。
一方、ソフィアはそれを見て躊躇した……受けるか避けるか。ソフィアであっても警戒に値する、というわけだ。
両者が接近する――エイナのそれは無策にも等しい突撃。ここに来てソフィアも避けるべく動こうとしたが、次の瞬間、
エイナの魔力が弾ける――それはまるで彼女の体から抜け出たようにも錯覚し、魔力の塊がソフィアに、直撃した。
「おおっ!?」
キャルンが叫ぶ。途端、ソフィアの体を衝撃波が包んだ。それは白い光をも生み、一時俺達の視界から彼女の存在が消える。
エイナとしては容赦のない一撃だが、そうでもしなければ勝てないと感じたからだろうか。ともあれエイナの攻撃が始めて当たった。しかも攻勢の手を緩める気はないらしく、彼女は光に包まれるソフィアへと斬撃を見舞う――
次の瞬間、ガギンと音が聞こえてきた。光の中へ刃を差し向けたエイナの剣を、視界には見えないソフィアが受け止めた形。
やがて光が消えると、無傷のソフィアが姿を現す。エイナの攻撃が失敗したのか、それともこれ以上手があるのか……しばし見守っていると、エイナが口を開いた。
「先ほどの技は多少なりとも通用するかと思いましたが……無駄だったようですね」
俺から見て、エイナが苦笑するのを確認できる。やはり魔力量の違いから、エイナの攻撃はことごとくソフィアに通用しないようだった。
「やはり小手先の技術では、通用しないようですね」
ふう、と息を吐くエイナ。同時に大きく後退し……今度は刀身に力を集め始めた。
「ソフィア様、バールクス王国の騎士団が扱う技は知っていますよね?」
「もちろん。『流の剣』ね」
「はい。あれは剣に魔力を滞留させることにより、攻撃能力を上昇させる技法なのですが……」
と、エイナの刀身に魔力が加わり、さらにそれが気流でも発生するかのように回転し始めた。
「私なりに少々アレンジを加えたものです。私が扱える技術の中で、間違いなく一番威力のある技となります」
そこまで言うと、エイナは腰を落とし構えた。
「これで最後にしましょう」
「わかった」
ソフィアはあっさりと応じ、同じように姿勢を低くする。双方が動かなくなり、風の音以外耳に入ってこなくなる。
無論、これは相手の出方を窺っているだけなので、すぐに均衡は破れるだろう――そんな予想をしたと同時、ソフィア達はまったく同じタイミングで走り出した。
ソフィアはどの程度の出力で応じるのか――エイナが剣にまとわせた魔力を解放する。まるで旋風が生じたかのようになり、それに対抗すべくソフィアも剣をかざした。
それと共に生じたのは、風の剣――どうやら魔導上級技の『風華霊斬』らしい。両者の刃が触れ合うと、凄まじい突風が生じた。
アルトやキャルンが瞠目し、イグノスは思わず後ずさりした。しかし唯一ロミルダだけは戦いの行く末を焼き付けるつもりなのか、じっと立ち尽くし戦いの経過を見守る。
エイナは……ソフィアの技を真正面から受け、耐えている。上級技を押し留めるほどなので『流の剣』という技については、相当な力を持っていると考えてよさそうだ。
だが結果――エイナの足が浮いた。力同士のぶつかりあいはソフィアに軍配が上がった。そして足が地面から離れた以上、彼女はただ吹き飛ぶしかなかった。
衝撃を受け倒れ込むエイナ。すぐさまソフィアが駆け寄ろうとしたが、彼女はそれを手で制止した。
「お気遣いは無用です……完敗のようですね」
立ち上がる。それと共に残念そうに息を吐いた。
「勝つのは難しいと思っていましたし、一矢報いれば……そう考えていたのですが、どうやらそれもダメだった様子」
「あの魔力の塊は良かったと思う」
「ありがとうございます。しかしあれは実質捨て身ですからね……正直、今回の戦いで役に立つのは厳しいのが実情。やり方を変える必要があるかもしれません」
……もしかすると、エイナはさっきの自身が魔力の塊と成すような技を結構使っているのかもしれない。そうなると案外彼女の戦法は強引だな。
「それで、いかがでしたか?」
エイナが問う。俺にも視線を向けてくるわけだが……どう応じるか。
「魔物と戦う時とは戦法や魔力量などは異なるが、それでもある程度能力を判断することはできたはず」
「――堕天使との戦い、今見せてもらった力がどこまで通用するのかわからない」
俺が発言。すると他の仲間達は全員こちらに注目する。
「ソフィアに圧倒されてしまった以上、あまり良い意見はできないけど……完全に邪魔になる、ということにはならないと思う」
「そうであってくれればいいんだが」
苦笑するエイナ。ソフィアとの戦いを経て、色々考えることがあった様子。
彼女とどこまで組むかわからないが、今後もずっと仲間として行動するなら戦力面についても考えなければならない……ソフィアの従姉妹であり、ゲームの主人公としても活躍していた彼女だ。素質については十分あると考えていいだろう。
ま、この辺りは魔物との戦いぶりなどを考慮して判断することにしよう……俺達はひとまず町まで戻る。天使側の反応を待つような状況なので、俺は一日休もうかと考えていたのだが――
仲間とは離れ、一人で何か情報がないかと連絡所を訪れた。すると、
「ルオン=マディン様」
受付の女性に呼び止められた。昨日の今日だが、何か進展が?
「あなたにお会いしたいという方が」
「運営の管理者ですか?」
その問いに、女性は首を左右に振った。
「いえ……その……天使です」
早いな。それだけ堕天使らしき存在について警戒しているということか。
「実は今、待っていらっしゃるのですが……」
「わかりました……あの、今回は仲間達を呼んでいいですか?」
さすがに天使相手となれば……すると受付の女性は頷いた。
「はい。こちらはお待ちしておりますので」
「わかりました。それでは少々お待ちください」
そう述べ連絡所を出て、小走りにソフィア達がいる宿へと向かった。




