王女VS騎士
翌朝、さすがに町の中で剣を振るわけにもいかなかったので、郊外へ出ることに。念のため魔物に注意しつつ、街道から離れた野っ原に到達した。
大きい木が一本あって。その根元に俺は座り込む。ソフィアとエイナが互いに向かい合い準備を進める中で、同行してきたアルトが口を開く。
「なんか、平和だよな」
「平和?」
「いや、魔物が跋扈しているし、ルオンさんの言う厄介な敵がいるわけだけど……人里近くだと平和だな、と思って」
確かに表面的にはそう感じるだろうな……堕天使の存在がなければ、魔物討伐による戦闘はあるけど、今までと比べてずいぶん精神的に軽い気持ちで宴に参加していたことだろう。
最初はそういう心持ちだったわけだが、だんだんとシリアスに……なんだろう、こういうことを引き寄せてしまうのか。それとも神とかいう謎の存在を調べることでどうしても関わってしまうのか。
「ルオンさん、どっちが勝つと思う?」
アルトが問う。俺は対峙し剣を構えるソフィアとエイナを見据える。声を発しようとしたが、その前に、
「私はソフィアだと思うなー。だって魔王と戦って以後もルオンと戦ってきたんでしょ?」
と、キャルンの言葉。しかしそれにアルトが反論する。
「いやいや、エイナさんだって結構やるだろ。掲示板に名が載るくらいなんだからさ」
「そういうアルトだって載ってるけど、竜には勝てなかったよね」
「痛いところ突いてくるな……って、エイナさんが竜に対抗できないって決めつけるのはよくないぞ」
「もし勝てないとなると、やっぱりソフィアの方が上じゃない? 倒したんでしょ?」
「――単純な力比べだったら、ソフィアが上だろうな」
俺の発言に、アルトとキャルンはこちらを注目する。
「ただまあ、エイナだってその辺りの事情は知っているわけだから、相応の対策はすると思うけど……」
双方にらみ合ったまま動かない。幾度の戦いを経てはきたが、共に騎士として訓練を受けてきた身。手の内なんかはある程度把握しているものと考えていいだろう。
そういうことなら、この沈黙も理解できる……と、エイナが動き出した。
先に仕掛けたのは彼女か。たださすがにソフィアも全力は出さないだろう。となれば純粋な剣術勝負、か?
エイナが斬撃を縦に放つと、ソフィアは真正面から応じた。それを受けると同時、甲高い金属音が平原にこだまする。
それは平和なこの空間を大きく切り裂く、試合開始の合図――瞬間、エイナが剣を滑らせながら足を動かす。それにより、一気にソフィアの横へ到達した。
身体強化を用いた能力――エイナ自身、ソフィアを追うために試行錯誤したと言っていたが、それが戦闘でもきっちり発揮されているのか。
だがソフィアは即座に対応。放たれた斬撃を弾くと、反撃に転じる。
彼女が繰り出したのは横薙ぎだが――外した。いや、正確にはエイナが一瞬で加速し避けた。
「――速いな」
アルトが感想を漏らす。うん、俺としても予想外だ。
エイナは鎧を身にまとっているので、動作も相応に鈍くなるというイメージを持っていたのだが、実際は違うようだ。彼女は移動速度を上げたと語っていたが、それだけで目の前の状況があるわけではないだろう。訓練による魔力量の底上げに加え、根本的な魔力強化……その成果は確実に現れている様子。
もっとも、ソフィアはここまでの戦いでそれに応じられるだけの経験を得ている――
ソフィアは剣を振って相手の動きを牽制する。それに負けじとエイナは速度で応じ……しかし、ソフィアは彼女の移動地点を予測して一閃した。
「っ!?」
意表を突かれたかエイナは剣で防御する。ガギン、と刃が噛み合ったと同時、不利と悟ったかエイナは退いた。
「あれ、あっさりと下がったね」
キャルンが述べる。それに俺が解説を行う。
「エイナとしては、速度強化が通用せず捉えられたと思ったんだろうな」
「実際、捉えたの?」
「おそらくな。どんなに能力を高めても、染みついた動きの癖とかは抜けないから……ソフィアならそういう癖は知っているだろうし、上手く見極めて剣を振った、といったところかな?」
今度はソフィアが先んじて攻撃する。最初の剣戟は真っ直ぐな振り降ろしで、エイナもそれは防御した。立て続けに二撃目。これも刃を弾いて避ける。
しかしソフィアは攻勢を緩めない。なおも前に足を出し三、四、と剣を決めていく。それを逐一防ぐエイナだが、途端に苦しそうな顔を示した。
「……速度を変えているな」
ソフィアの剣を振る速度が、一太刀ごとに変わっている。速くなるだけでなく、どうやら魔力の量などを変えて威力なども変えているらしい。
こうなるとエイナは剣に備わる魔力を瞬間的に判断し対応するしかないのだが……どうやらそこまで精密な分析はできない様子。いや、この場合それはできても即応できないといったところなのか? ともあれ、エイナは魔力を維持しソフィアの剣に応じるしかない。
緩急織り交ぜて繰り出されるソフィアの剣戟に、エイナは出力を高め続ける……ということは当然、エイナの方が疲れが先にやってくる。なおかつ魔力量もソフィアが上だろう。こうなれば、時間が経てば経つほどエイナが劣勢になるのは自明の理。
となれば――エイナは一転して踏み込んだ。ジリ貧である以上、賭けだが一気に形勢を覆すしかない。
とはいえ、ソフィアはそれも読んでいた――待っていたとばかりに彼女もエイナに合わせ動く。傍からは示し合わせていたのではないかと思えるような動き。観戦していたアルト達が「おお」と驚くくらいには、唐突な出来事だった。
ソフィア達の剣が交錯。魔法などは使っていないが、剣に込められた魔力は相当なものだろう。刃同士が触れた瞬間、刀身から魔力が一挙に放出されるのを俺は感じ取った。
そして始まったのは鍔迫り合い。とはいえ現状ソフィアが有利のはずだが――ここで押し始めたのは、エイナだった。
「お、いけるの?」
キャルンが目を見開く。ソフィアがわざと引き寄せて反撃という可能性もゼロじゃないが……と、ソフィアが下がった。押し負けたわけではなく、予想以上に力が強かったため後退したか。
エイナとしては、下がったことが罠か判断がつかないだろう……俺は百パーセント誘いだと思うけど。
エイナはどう思ったのか――前進を選択した。同時に刀身から魔力が溢れ、さらに全身からも魔力障壁構築のためか魔力が膨らむ。
それは捨て身のようにも感じられた――ここで決めなければ勝てないと考えた結果か。だが――
ソフィアは即応し、エイナの渾身の一撃をまともに受けた。刹那、ズアッ、と旋風が生じる。高濃度の魔力同士が激突したことによって生じた、衝撃波の余波だ。
この攻防、軍配はどちらに……と思った矢先、エイナが先に力尽き弾かれた。それにより生じた隙をソフィアは見逃さず、加速しエイナの懐へ滑り込んだ。
そうして放ったのはすれ違いながら斬る中級技『清流一閃』――無論加減はしているはずだが、それでもエイナが衝撃を受け倒れ込むくらいの衝撃はあった。
ソフィアは技を決めるとすぐさま体を反転。そこで、エイナは素早く立ち上がる……効いているようだが、動きに変化はあまりない。
「さすがですね、ソフィア様」
笑みを浮かべる。その強さを誇らしく思うようでもあり、またどこか寂しく思っているようにも見えた。
「ここまではソフィア様が圧倒……ですが、戦いが終わったわけではありません」
そう述べると、エイナは地を蹴り攻勢に出た。




