必要な事
なんだかんだでアルトとキャルンは結構な量を飲んだらしく、最後は二人してダウンした。といってもぐったりするような感じではなく、俺の話を聞いているのかいないのか眠たそうな顔をしているだけなのだが。
で、その代わりきちんとイグノスは話を聞いていた……なおかつエイナも姿勢を正しこちらの話を一言一句聞き間違いがないようにしていた。よって、彼女についてはあんまり食事も進んでいない様子。
「――そして、今日天使の宴を開催している運営側から話があって、俺のことを天使に言うよう伝えておいた。今回の敵……堕天使と推測しているアンヴェレートが脅威なら、俺のところに何かしら話を持ってくる可能性は高いな」
「なるほど、今は待つ段階か」
エイナが感想を述べる――ちなみにネフメイザの戦いについて、ソフィア自身が危うい状況になりつつあったのを聞いて顔をしかめたが、ソフィア当人が口添えしたため言及はなかった。
「しかし、アンヴェレートとかいう存在が言っていたことは気になるな。アイツとは誰のことだ?」
「今のところ不明だが、少なくとも味方じゃないことは確かだな」
肩をすくめながら俺は言う。
「ただ口ぶりからアンヴェレートとは別口……つまり、この宴の裏には複数の存在が陰謀を抱き、何かしら動いているわけだ」
「非常に面倒だな。それをルオン殿は止める、ということか?」
「ここまで関わった以上は、ね。それにこの戦いが『彼』に繋がる可能性もあるし」
「……神のような存在、か」
にわかには信じられない、という様子で呟くエイナ。
「……魔王は、俺達の大陸に狙いを定めたことに何か理由がある様子だった」
唐突に魔王の話。するとエイナやイグノスは顔を険しくする。
「当然、目的があったからといって魔王の行為が許されるわけではないが……魔王もまた、神という存在に関わっていた、なんて可能性も俺は考慮している」
「全ては地底深くに眠る存在が起源、というわけか」
「あくまで俺の推論だけど」
「堕天使の目的はなんでしょうか?」
ソフィアの疑問。俺は少し考え、
「少なくとも魔王のように目的があるようには思えないが……アンヴェレートについては魔物を生み出し天使側の情勢を探っていた様子。もしかして俺が倒さなければあいつも大々的に動いていたかもしれない」
「問題は、その強さだな」
今度はリチャルが口を開く。
「正直、魔王より強いとは思えない……それに特殊な魔力障壁もない以上、こっちは実力行使でなんとかなるはずだが……」
「魔王との戦いは、大陸にすまう存在が結集した結果だ。今回はそんな雰囲気もないから魔王より弱くともどうなるかわからないな……戦う人は多いけど」
「仮に、戦うとして」
ソフィアが言葉を向ける。
「ルオン様以外で対抗できそうな人物……となると?」
「宴の参加者においては……掲示板に載っている上位クラスで……うーん、当人の実力を見ていないからなんとも言えないな」
「私についてはどうでしょうか?」
「真正面から受けて対抗できるかは……」
どうだろう。しばし考え――
「可能性はあるんじゃないかな。ただ俺が戦ったアンヴェレートは分身だ。本体は間違いなくそれ以上であることを踏まえると、かなり大変なのは予想できる」
「まだまだ精進が必要だと」
「私やアルト殿では、難しいと考えるべきか」
エイナが言う。俺は素直に頷いた。
「そうだな、さすがに……ただ一度実力を確認しておきたいところだな」
「それはいつでも構わない」
自信ありげな彼女……ソフィアとエイナがどのくらい実力差があるのか気になるな。
竜の大陸でソフィアについては……四精霊と契約した魔王の時と比べれば見劣りしているが、竜精と共に戦ったことで確実に強くなっていると思う……あ、そういえば。
「ソフィア、光属性の魔法を竜との戦いで使っていたよな?」
「ルオン様も扱うあの光の槍のことですか?」
「ああ。いつ習得したんだ? というか、習得できたのか?」
――彼女は精霊と契約していたので、中級以上の魔法を扱うことはできる。ただ光や闇といった属性については、精霊と契約しても習得しにくい。ゲームではその辺り曖昧で、一応精霊と契約した人物なら中級以上の光魔法を習得できた。
ただ、精霊との契約外の属性なので、非常に険しい道なのだが……。
「竜精であるフォルファさんと契約したことで、コツをつかんだといいますか」
「コツ?」
「フォルファさんは天使混じりでしたよね? その兼ね合いで光系統の魔法を上手く扱えることができたのです」
つまりあれか。フォルファとの連携が実質精霊との契約のようになっていた、ということか。
「……そういえばソフィアは、最上級の魔法を行使することはなかったよな」
「旅の間に色々とやっているのですが、まだ修練が必要ですね」
「光属性の魔法とか挑戦してみないか?」
「ルオン様が行使されているあの光の剣ですか?」
頷くと、ソフィアは口元に手を当て考え込む。
「制御が大変そうですよね。味方に被害が及ぶような形にはしたくないので、満足いくまで使いたくはないですし……今から修練して堕天使との戦いに間に合うかどうか」
「この戦いに間に合わせなくてもいいよ。じっくりやればいい」
――ただ彼女の場合は切り札となる『スピリットワールド』がある。剣で直接叩き込む必要はあるが、あれだけは別格の威力を持っている。攻撃面について、そう悲観的にならなくてもいいだろう。
「あとは、防御面かな」
「防御、ですか」
「現時点で十分なのかもしれないけど……今回は魔王との戦いと違ってどうなるか予想もつかないから、色々やっておきたいな」
強力な防具か、新たな魔法の構築か……アンヴェレートの様子から考えると、何が起きるかわからない。ああした存在と向き合った際、俺がいなくとも防げる態勢を構築しておきたいところだ。
「天使の力を借りることはできないのだろうか?」
リチャルの言葉。まあ俺が協力するのと引き替えに……とかでもいけそうか?
これで天使側が「必要ない」と言われたらそれまでなんだけど……この辺りは会って交渉するしかないな。
「話としては、こんなところか?」
エイナが確認を行う。こちらが頷くと、彼女は「なら」と声を発し、
「重要な点だが……私やアルト殿が仮に共に戦うとしたら、どういう役割になる?」
「……どんな戦いになるのかわからないから、なんとも言えないのが実情だな。ただ、巨大な魔物と戦う場合は俺やソフィアと一緒に、ということになりそうだけど」
「それが無難でしょうね」
ソフィアが同意……しかし、一緒に戦うとなれば結構な大所帯になるな。これが吉と出るか凶と出るか。
まあ今ここで考えても仕方がないか。話を進めよう。
「明日以降だけど、天使から話が来るかもしれないから、俺は町で待機しようかと思う」
「ルオン様、私はどうすれば?」
「ソフィアの意思で決めて構わないよ」
彼女はしばし考え、
「なら、一つ思いついたことがありますので」
「お、何だ?」
問い返すと彼女はエイナへ視線を移し、
「共に戦うとあらば、しっかりと力を見ておく必要がありますよね」
「……なるほど、なら俺も立ち会おうかな」
「ソフィア様、望むところです」
エイナもやる気を見せる――というわけで、明日はソフィアとエイナが刃を交えることになりそうだった。




