事態の進展
連絡所の裏手に通され、客室らしき場所のソファに座り俺は待つことになった。
出された紅茶を飲みながらおよそ五分。ノックの後に入ってきたのは一人の男性騎士。
「ここに来てもらい、感謝する」
年齢は三十代前後といったところか。温和な雰囲気漂う彼は戦闘で前に出るというよりは、後方支援的な役割でもしているのかな、などと思う。
「私はジェイ=マロット。今回天使の宴に際し、運営を任されている人間の一人だ」
「結構偉い人だったりします?」
「階級としてはまだまだだが、将来を期待でもされているのか、こうして大役を任されたみたいだ」
ははは、と笑うジェイ。実務的な能力が高い、といった感じかな?
「さて……こうして呼び出したのは他でもない。君が倒したという存在についてだ」
「構いませんが、なぜこういう形で呼び出したのか……経緯と、それにより俺が何をすればいいのかを教えてください」
「ああ、もちろんだ。まず経緯だが、簡単に言えばああいった存在が出現するのを感知した場合、報告するよう義務が存在している」
「それは天使の要請ですか?」
「ああ、そうだ」
首肯するジェイ。堕天使という推測は間違っていないのかな。
「天使側は君が戦った存在について調査を行っており、魔力が少しでも触れれば宴の参加者に渡している魔法の道具が取り込むようになっている。つまり、そうした存在の動向を、天使達は欲しているというわけだ」
「で、今回俺に話を?」
再度頷くジェイ。なるほど。
「さらに言えば、あなたは遭遇した強大な存在と戦い、勝利している。この事実を鑑みて是非とも話を聞きたく、こうして場を設けた」
――運営側と話をできるのは喜ばしいことだが、それでも天使と会うことはできないか……いや、それは会話のやり方次第かな?
「で、具体的に何を言えば?」
「君が遭遇した存在について、詳細を知りたい」
「そうは言っても、俺が知るのは外見的特徴と名前……ただ、外見は当てにならないかもしれませんよ」
「なぜだ?」
「倒す前に、敵自身が分身だと名乗っていましたからね」
ジェイは沈黙する。どうすべきか悩んでいる模様。ふむ、ならば、
「あの、一ついいですか?」
「どうぞ」
「先ほどこうして場を設けたのには天使が関連しているとおっしゃいましたが……天使そのものがこうした場に来ることはないんですか?」
「現段階ではまだ報告していないんだ。先ほど義務があると言ったが、こっちもある程度情報をまとめなければいけないから」
ああ、そういうことか……だとしたら彼にきちんと情報を伝え、天使が俺達の所へ来るように仕向けるべきだな。
というわけで、俺は彼に説明を行う。その間騎士は逐一メモをとり、天使にきちんと情報提供できるようにする。
一連の説明自体はおよそ十五分くらいで終了。その後、ジェイは俺へと尋ねた。
「それだけの力を所持している……さらにシェルジア大陸出身者ということは、魔王との戦いに関わっていたのか?」
……俺の名前について、運営側には伝わっていないみたいだな。
「まあ、そうですね……同じ大陸の出身者であれば、聞き覚えがあるかもしれませんよ」
さすがに自分から言うと信憑性とか欠けるかな、と思ったのでやや言葉を濁すと、ジェイは「そうか」と答えて話を打ち切った。アンヴェレートを倒したという事実で、実力の検証については十分、などと思っているのかな?
「ありがとう、話はこれで終了だ」
お、とりあえず聞き取りについてはここまでか……では、
「あの、一ついいですか?」
「どうした?」
「それを報告した場合、天使側から何かアクションはあるんでしょうか?」
問われると、ジェイはしばし間を置き、
「どうなるかはわからない。ただ、驚異的な存在……分身とはいえ、そういう相手を撃破した以上、何かしらあるのではないかと思う」
「……一応、俺は天使に会うという目的のために宴に参加しているんですが」
「天使に? 理由は教えてくれるのか?」
さすがに詳細を事細かに話すのは勘弁願いたいな。
「……事情がありまして」
それで納得してくれるかなと思ったのだが、騎士は「わかった」と一言。深くは詮索しない様子。
「もしよければ、その辺りのことを伝えておこうか」
お、マジか。
「はい、できれば……お願いします」
「いいだろう」
これは結構進展したのではないだろうか。ま、それだけアンヴェレートという堕天使の存在が脅威、ということなのか。
これで会話は終了し、俺は連絡所を出た。騎士が天使側に報告をして……その後、俺に興味が湧いてこちらに来る可能性は……うーん、俺やソフィアについてもう少し語っておくべきだったかな?
『まああれで十分だろう』
と、これはガルクの言。
『アンヴェレートという存在を撃破した時点で、天使側は興味を持つはずだ。それに加え、ルオン殿のことを自発的に調べ始めたなら……堕天使撃破に協力してくれと要請が来る可能性は極めて高い』
「そうかな……ま、どっちにしろ今は待つしかないか」
あとできることは、可能な限り俺の魔力について調べることか……とはいってもやっぱりこれ以上の調査は難しい。むー、時間が空いてしまったな。
宿に戻ると、なおもエイナは同じ席に座っていた。ソフィアはまだ戻ってきていないみたいだ。
声を掛けようか迷ったのだが……森にいる使い魔は、ソフィア達が戻ってくる姿は観測していない。ただ、時間的にはそんなに掛からないだろう――と、思ったところで森からソフィア達の姿が。
「夕方くらいには戻ってくると思う」
こちらの言及にエイナは「わかった」と応じ、なおもロビーで待ち続ける。なんか異様な雰囲気だな。
「あ、それとルオン殿。一つだけ頼みが」
と、彼女から要求。何かな?
「もし出迎えなどをする場合、ソフィア様に私がいることは伝えないでほしい」
「……そう要求するってことは、彼女と何かあったのか?」
「別に確執などはないので……ただ、お願いしたい」
まあ、彼女がソフィアに斬りかかるなどといった真似をしないのはわかっているので……とりあえず危険も無いだろうし、頷いた。
すると彼女は「ありがとう」と答え、やっぱり椅子に座ったまま動かない。どうでもいいがエイナ、その雰囲気によって客が寄ってこないぞ。
「ああ、それとエイナ。たぶん合流してから色々話をすると思うけど……それに参加するか?」
「もちろん」
頷くエイナ。俺達と関わる気マンマンといった様子だな。どうするかはできればソフィアと相談したいところだが……この調子だと何を言ってもついてきそうだ。
うーん、実力的なものを考慮して引き離すにしても、彼女自身掲示板に名前が載るくらいには強いし、難しいかな。ただまあ、ソフィアと組ませるというのは有効かもしれないし、彼女の実力を一度見て判断してもいいか。
とりあえず結論を出し――ふと、昼食をとっていないことに気付く。
「あー、エイナ。食事は?」
「ここで食べるつもりだ」
「わかった。俺は外でとるから、リチャルが来たらそう伝えておいてくれ」
「了解した」
敬礼しそうな勢いで答えるエイナ。それに俺は苦笑し、宿を出た。




