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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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数奇な人生

 かくして、俺とリチャルはレドと共に北にあるマーシェスタという町へ向かう。

 俺の魔力解析がそこできちんとできればいいんだけど……距離的にはおよそ一日といったくらいで、そう遠いわけでもなかった。


 出発して翌日の昼前に到着。そこそこ大きい町で、レドの研究室はどうやら国の公的な機関らしかった。


「ロナさんから詳しく聞いてないですけど、研究室を持っているということは偉い人だったりします?」

「いえ、単に共同研究室の一角に私個人のスペースがある、といった程度ですよ」


 それでもすごいような気が……中はまるで病院のような建物で、長い廊下を通り辿り着いたのは、資料や器具が散乱する雑多な研究室。


「あまり清潔感はないな」


 と、リチャル。それにレドは苦笑する。


「魔力研究なので、汚れていてもあまり関係ないですからね……確かに綺麗な方がいいんでしょうけれど」


 奥へ進むと、椅子が一つ。ただそれには右の肘掛けの部分に革のベルトが巻かれ、さらにその背後にはなんだかよくわからない器具が。


「えっと、これは私達が制作しました魔力調査用の装置です。具体的に言いますと、解析を行う方が着席し、革のベルトを介して魔力を後ろの装置に伝えます。で、検出した魔力を具体的に数値化するんです」


 へえ、こんな装置もあるのか……俺はシェルジア大陸でアカデミアなんかを訪れた経験がないので初めて見るけど、向こうにだってこういう装置があるのかもしれないな。


 さて、俺はレドの指示に従い椅子に座ると革のベルトを腕に巻いて魔力を注ぐ。何も変化は起きないが……と思っていたら、背後で何やら発光が。


「あ、そのままでお願いします」


 レドが背後に回り何やらゴソゴソ始める。で、リチャルは興味があるのか彼の隣に立ってレドが作業する様子を眺める。

 俺は指示された通り魔力を注ぐまま……およそ三分くらいだろうか。レドが「もういいですよ」と告げたので、こちらは力を抜いた。


「結果はすぐに出るんですか?」

「ええ、詳細については少々お待ちを」


 そこから紙とペンを手にとって何やらメモを始める。俺は椅子に座りじっとしていると……やがて、


「えっと、一応数値として出たんですが……」

「何かありますか?」

「といっても、数値だけ見てもわかりませんよね」


 そう言いながらも彼は俺に紙を差し出した。それを確認すると、見覚えのない単語といくつもの数字が並んでいる。


「説明しますので、少々お待ちください」


 レドは手近にあったテーブルの上を片付け始める。さらに三人分の椅子を用意し、彼は「こちらに」と告げた。

 そちらに移動すると、彼は解説を始めた。


「えっと、この装置では魔力の構成要素がどのような形になっているかがわかります。ルオンさんは水晶で検証できない魔力の持ち主でしたが、この装置を使うことにより、問題なく結果が出ました」


 そこまで言うと、彼は一度間を置いた。


「人の魔力というのは、合計すると十の構成要素が存在します。これは容姿などがそれぞれ異なるように、人によって構成は異なります。双子などでも同じというのは稀ですね」


 述べると、彼は紙にペンを走らせる。描き始めたのは、棒グラフのようなもの。


「それぞれの構成要素の詳細については省きますが……例えば十種全てがバランス良く存在しているケースもあれば、一つ二つがまったく含まれていないというパターンもあります。ただこれによって魔法や技に大きな違いがあるというわけではないので、解析でもしなければ違いはわかりませんが」

「普段魔法や技を使う分には問題ないと?」

「ええ。魔力構成が違っていても、使用者が問題なく魔法や技などを扱えるよう、無意識に変換しているようです。そのメカニズムなどはまだ解明されていませんが……」

「そうですか。で、俺はどういった構成要素に?」


 問い掛けると、彼はさらにペンを動かす。どうやら俺の数値を棒グラフで書いている……十種のうち九種は同じ長さだが、一つだけ倍以上に長い。


「ルオンさんは全ての構成要素が平均以上なんですが、その中で一つ、突出しているものがありますね」

「突出?」

「はい。先ほど述べた十種というのは、簡単に言いますとどういう魔力の影響を受けたかによって大きく決まります」


 首を傾げる俺。レドは笑みを浮かべながらなおも続ける。


「都市部で暮らしている人と、農村部で暮らす人では魔力の構成要素が大きく変わってくるのです。魔力というのはあらゆる物に宿り、町でも人工物に宿りますし、農村では草木や動物に宿ります。そうして接しているものの影響を受けやすい……ただ、構成要素自体は基本母胎の中にいる時や小さい頃の時点でおおよそ決まりますので、大人になって急激な変化というのはあまりないようです」

「レドさんが書いているこれは、どういったものに強く影響を受けたかを表していると?」


 俺の質問にレドは「そうです」と答えた。


「ルオンさんはどれも比較的影響を受けているのですが、先ほど言ったように一つだけ突出しているものがあります。ただこれは、十種の構成要素の中で一番謎に包まれているものなのです」


 ……うーん、聞けば聞くほど不思議だ。


「謎、というのはどういうことだ?」


 リチャルが質問。レドは彼へ顔を向け、


「十種の影響を受けたものがなんであるかについては、膨大なデータに基づいた法則によって結論づけたものです。九つまでは割り出せたのですが、そのうちの一つだけ、法則性が存在せず未だに仮説というものなのです」

「その値がルオンさんは高いと?」

「はい、私自身見たことがないほど高い数値です」


 ……んー、なんか悪い方向に話が進んでいるような気もする。対策ってできるのか?


「その謎の値について、わかっていることは?」


 リチャルがさらに問う。レドはしばし考え、


「共通点はないに等しいですね……あ、でも過去にそういう方々を調べてみると、奇妙な事実がありました」

「奇妙?」

「はい。多くの方がずいぶんと数奇な人生……様々な出来事に遭遇しています。そうは言っても、その出来事の内容に共通点はありませんが」


 数奇な人生、ねえ……どう解釈したものかと考えていると、リチャルがさらに尋ねた。


「その出来事について、どういったものが?」

「あ、えっと。例えば政争に巻き込まれ捨てられてしまった貴族の子供であったり、それこそ小さい頃から世界各地を転々として大成した魔法使いであったり……ああ、面白い方もいましたよ」


 と、レドは手をポンと叩き、


「前世のことを記憶している方がいましたね」


 ……え?


「その人物の前世はこの大陸で有名な騎士だったのですが……記録が残っていたので調査したところ、出生やいつ騎士になったのかなど、公的に公表されていない事実についても事細かに語ったらしく、真偽としては転生したのだと結論が出ていましたね」


 ……いやいや、まさか。


 俺自身転生した身だけど、レドが語っているのはこの世界の人物からの転生で、俺のような形とは違う。でもまあ、数奇な運命と言われればそうか?


 半信半疑な俺に対し、リチャルは表情を変えないままさらにレドへ尋ねる。


「……俺の魔力を測ってもらえないか?」


 その問い掛けにレドは「構いませんよ」と応じ――どうやらリチャルは何かを察したようだが……俺は彼らの動向を見守ることにした。


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