敵の推測
外に出て、渓谷内を使い魔でざっと確認する。地底で戦った影響は、どうやら出ていない様子。
「町まで戻ってソフィア達と合流しよう。あ、そういえばアルト達とも話をしないといけないな」
ソフィアがどの程度まで事情を説明しているのか……というわけで、戻ることにする。
俺は迷いなく森を出て街道に出る。その間に、アンヴェレートについて考察してみた。
『ルオン殿、あの者は言動からすると、天使だろうか?』
「おそらく、な。ただ普通の天使じゃない……それこそ物語で語られていた特性を持った、本物の堕天使だ」
ゲームの戦い――今から二十年も前の話だが、その時に堕天使となったのか、それよりも前か……どちらにせよ相手が天使なら、情報を得るにはやはり天使からだろう。
「もし俺の推測が間違っていたとしても、上級クラスの魔物を生み出す存在だ。天使がそんな存在に気付いていないとは思えないし、確実に干渉してくる……と、思う」
『あの敵を倒したことで、掲示板でも上にいくだろうな』
お、ガルクもそう推測するか。期待大かな。
とはいえ、本日掲示板の順位が更新されたわけで、結果がわかるのか少しして、か。どのくらい数値を得たかによって、色々立ち回り方を考えよう。
そんな結論を出し、俺は町へ戻った。時刻的には夕刻前といった感じ。まずは宿へ向かう。
リチャルが泊まっている宿へ。するとロビーに彼の姿が。
「あ、ルオンさん。大丈夫だったのか?」
「ああ、問題ないよ。ソフィアとロミルダは?」
「ロミルダが宿で休んでいる。ソフィアさんはアルトさん達と共に酒場へ」
「話をするためか……場所はわかるか?」
「ああ」
彼から店名を聞いてそちらに歩む。当該の場所はすぐ見つかり、中に入ると夕方前だというのに騒いでいる一団――アルト達の姿が。
「ん、おー! 戻ってきたのか!」
アルトが手を振り呼び掛けてくる。というか、出来上がっているな。
「いやー、しかし。本当助かったよ。ありがとうルオン」
「どういたしまして」
「ルオン様、お怪我は?」
次いでソフィアの問い掛け。こちらは「大丈夫」と応じると、彼女は安堵した様子だった。
「ご無事でなによりです」
「心配掛けて悪かったよ……で、地底にいた敵は倒した。ソフィア、アルト達にはどの程度話した?」
「今回、天使に会うためにここへ赴いたことと、今後他戦う敵がいるということを」
「敵の詳細までは聞いてないよ」
キャルンが頬杖をつきながら言及。彼女も飲んでいるみたいだが、あまり酔っている様子はない。
「あんまり詳しく話さなかったのは、巻き込みたくないから?」
「それについては……えっと、話に入る前に、他の仲間は?」
イグノスと依頼者のロナがいないのだが……。
「ああ、イグノスは宿にいる。酒は飲まないからな。で、ロナはルオンの頼みを叶えるために身内に会いに行っている。町からそう遠くない場所に住んでいるらしいから、明日にも引き合わせることができると言っていたぞ」
お、早速か……これはありがたいな。ロナの関係者から情報を得て、俺の技や魔法が高位の魔物に効きにくい根拠を探るとしよう。
「わかった。それでソフィアは飲んでいるのか?」
「いえ、事情を話さなければいけませんでしたし」
「無理矢理飲ますなんて恐れ多いしなあ」
と、言いながら笑うアルト。
「で、ルオン。竜に苦戦していた俺達が言うのもなんだが……もしよければ協力するぞ?」
「ありがとう。ただ今回の敵は、謎が多くてね。俺達も現段階で調べ回っている最中なんだよ」
「だが、そいつを相手にするために天使様のいるこの大陸に来たんだろ? よほどのことだと想像はできる」
ここでアルトはグラスをあおった。
「……ルオンが大変だと思うような相手だとしたら、俺達の出番はないかもしれない。だが、過去に組んだこともある。俺としては放っておけないな」
「そうか……どうするかは少し考えさせてもらえないか? 実を言うと、この宴においても色々と面倒事ができそうだし」
「それはあの竜とか、地底にいたらしい敵とかが関係しているのか?」
「ああ、そうだな」
アンヴェレートの存在は、先ほど戦った地底のさらに深くにいる存在が何なのかを知る機会にだってなるかもしれない……うん、ここでの情報収集はやっぱり重要だな。
「ソフィア、少し作戦会議といきたいんだが」
「わかりました。アルトさん、キャルンさん、それでは失礼します」
「おうよ」
「またねー」
手を振る両者に俺達は応じ、酒場を後にした。
「リチャルを交え話をしよう……あ、その前に得た武勲の確認をさせてくれ。ちなみにソフィアは?」
「やりました。現在の掲示板にある数値を参考にさせてもらうと、上位二十位くらいに食い込めるのではないかと」
お、それはすごい。
「ロミルダと分配された形ですが、相当な戦果ですね……ただルオン様が同じように得たかどうかは……」
「竜の戦いで、俺は防御しかしてないからな。ま、地底に存在していた敵を倒したから、その分加算されると思うし」
「どんな相手だったのですか?」
「それは後で」
というわけで連絡所へ。そして今回の戦いの結果得た武勲だが――
「……これは」
受付の女性が小さく呟いた。俺は首を傾げ、
「何かありましたか?」
「いえ……あの、今回戦った敵は人型でしたか?」
ああいった存在について、連絡が行き届いているのか? こちらが頷くと、女性は「わかりました」と答え、
「今回戦った魔物についてですが、これを検出したら運営本部に連絡せよと報告を受けておりまして」
運営本部-―もしかすると天使に会えるかもしれない。
「そうですか。俺は一向に構いませんよ」
「ありがとうございます。ではご報告させていただきます」
一礼した女性にこちらは「お願いします」と告げ、連絡所を出た。
「もしかすると、案外早く天使に会えるかもしれませんね」
これはソフィアの言。俺は頷き、
「それだけ強大な相手だったってことかな……受付の女性にまで連絡がいっている以上、運営はああいった敵がいるってことを認識しているんだろうな」
「後は結果待ちですか」
「そうだな。で、掲示板に張り出されるまでには時間が掛かる……この間にも魔物を狩るか、それとも俺の技や魔法が効きにくいという点について解決するべきか」
「それについても相談しましょう」
「ああ」
で、リチャルのいる宿に戻り……男性部屋の一室。ソフィアとロミルダが椅子に座り、俺とリチャルはベッドに腰を下ろし、
「まず、遭遇した敵についてだが……」
本題に入る。そこから俺の推測を述べると、リチャルが意見した。
「堕天使……ルオンさんの解釈で、おそらく正解だろうな。で、本拠地は空か」
「空にすみかとなる場所があるのか、それとも魔法か何かで隠れているのか……俺は後者のような気はするな。勘だけど」
「ならば、明日からはその堕天使の本拠地を調べると?」
ソフィアの言葉に、俺は頭をかきながら答えた。
「まず何より、情報が少なすぎる。今の状況ではあくまで推論で述べることしかできないので……まずは情報収集をしたいところ。これは俺の能力に関することを調べるのを合わせてやりたいな」
そこまで言うと、俺は肩をすくめた。
「ま、運営側が俺達に対し何かしらアクションを起こすのは間違いない……そうなれば自ずと敵の正体も判明する」
「ならば、ルオン様の魔力について調べるべきですね」
ソフィアの問い掛けに俺は頷き、
「そうだな。堕天使については運営側から反応を見てから決めることにしよう」
方針が決定。ただ俺の魔力……果たして解明できるのか。疑問に思いながら、今日のところは休むことにした。




