戦士の依頼
――翌日。
掲示板の更新は朝のうちに行うらしく、朝食を済ませた俺達が町の広場を訪れた時、その作業をしていた。周辺にはそれを見守る冒険者達の姿。中には俺の戦いぶりを見ていた人間もいるようで、こっちを向いて何やら話し込んでいる人もいる。
「どのくらい上がっていると思う?」
リチャルが尋ねる。俺は得た武勲から推測し、
「他の冒険者達の数値も更新されているだろうから……昨日までの数値だと真ん中よりも上くらいだが、どうなっているかはわからないな」
「あとは、一位の人がどれだけ武勲を獲得しているか、ですね」
ソフィアが言う。うん、そうだな。
まあ一位を必ずしも目指さなくてもいいわけだが……それに、俺達の目的は一位になるというより天使と接触することなので、その目的が果たせたのなら、以後宴に参加しなくてもいい。
ただ天使が事情を知り「あなたの力を見せてください」みたいなことを言ってくる可能性はあるわけで、そうなったらより頑張らないといけない。最上級の魔物さえ倒し続ければいずれ一位になれるだろうけど……。
待っていると、とうとう掲示板が更新された。即座に順位を確認。結果、
「……丁度真ん中だな」
俺が五十位で、ソフィアが五十三位。で、ロミルダが多少差がついて九十二位。
どれだけ魔力を叩き込んだかによって武勲が決まるとしたら、俺の方がソフィアより多かったわけだ。実質トドメを刺したのはソフィアだが、その前にしこたま攻撃し続けたことが、この結果らしい。
「思ったよりも下ですね」
ソフィアが語る。次いで名前を記録したメモを取り出した。
「さすがに下の方々までメモしてはいませんが……見比べると、上位の数値がかなり上がっています」
「休む暇はなさそうだな」
俺は一位の数値を眺める。劇的に増えたわけではないが、確実に武勲を稼いでいる。
ただ、ここで異変が一つ。二位と三位……それが一位との差をずいぶんとつめている。
「ソフィア、前回の二位と三位の数値は?」
「あ、これです」
メモで示す。その数値を見比べると――
「……俺達が巨獣を倒したのと、同じくらいの武勲を稼いでいるな」
「ということは、彼らもそうした魔物を?」
「その可能性はある……ふむ、上位の面々は俺達と同じく最上級の魔物を標的にしているのか?」
「そもそも、ルオンさん達以外に倒せるのかと疑問に思うんだが」
リチャルのコメント。
「耐久性などを考慮すれば、それこそ魔王に対抗できるほどになるのか……?」
「私としては、何か対処の方法があるのでは、と思います」
ここでソフィアが口を開く。
「上位三人は、全てこの大陸の出身者と書かれていますし、最上級の魔物に対し何かしら対抗できる術があるのではないかと」
「ん、確かにそうだな……ということは、彼らに出会ってどういう風に戦っているのか尋ねてみるのもいいかな」
「競争相手に話してくれるかどうかは疑問だけどな」
俺は呟きながらこれからどうしようか考える。
渓谷へ再び赴き、最上級クラスの魔物を叩くのもいいが……俺の攻撃が効きにくかったことを調べる方を優先とすべきか? ただこっちの方は解明できるかもわからないんだよな。
迷うところだが……とりあえず今は魔物討伐に行こうか――ソフィア達に確認をとろうとした時、視線を感じた。
「……ん?」
ロミルダも気付いたらしく、目を細め周囲を見回す。遅れてソフィアやリチャルも反応し……俺は、こっちに真っ直ぐ歩み寄ってくる男性を発見した。
剣を背負った冒険者風の人物。目立った特徴はないし、地味な印象を拭えないのだが……彼はこちらに近づくと、
「あの、他の戦士から話を伺って、来ました……ルオン=マディンさんご一行ですよね?」
低姿勢な彼。こちらが頷くと、彼は恐る恐るといった様子で俺達へ続けた。
「その、もしよろしければ……頼みを、聞いてもらえないでしょうか」
「頼み?」
「はい。話を聞いてとんでもない魔物を倒せると知り」
俺はソフィア達に顔を向ける。全員がただ見返すだけなので、判断は俺がしていいという感じかな?
「……えっと、内容は?」
「その……」
首をすくめ、彼は言う。
「仲間が……渓谷の中にある洞窟に入り込んで、帰ってこないのです――」
戦士の名はロナ=イールト。酒場などで俺のことを知り、またソフィアやロミルダの姿を見て俺達が当該の一行であることを確信。話し掛けるに至ったそうだ。
確かにソフィアとロミルダは、宴参加者にしては目立つからな……で、俺は内容的に引き下がれないよな、と思い話をすることにした。
「他大陸の仲間なのですが、港で偶然知り合い以後共に行動するようになったんです」
俺達は酒場の一席を借りて話をする。丸テーブルを囲むように座っているのだが、全員の視線を一身に浴びて、ロナは少々緊張した面持ち。
「その中の一人は掲示板にも名が記載されている方なのですが……」
「実力があっても、洞窟に入って帰ってこないと?」
こちらの問い掛けに、ロナは神妙な顔つきで頷いた。
「はい。俺は怪我をして宿で療養していたのですが……仲間はその間に洞窟へ。その方々は強かったですし、最初は何も心配していなかったのですが……」
「不安になってきたと」
コクリと頷く彼。
「洞窟内には、外で暴れていた巨大な魔物と同等の力を持った存在がいると聞きます。その、もし仲間達が襲われていたとしたら、既に最悪の事態になっていてもおかしくないようにも思えますが……俺にはどうすることもできず」
「なるほど、な」
彼の言い分は理解した……うん、その魔物を倒すべく洞窟に踏み込めばいいだけだし、俺達にとって不都合はない。
「……仲間を探すのは特に問題はないよ」
「本当ですか!?」
「ああ。戻ってきていないというのは気がかりだし、俺としても様子は見に行くよ」
「ありがとうございます」
礼を述べる戦士。と、ここで彼はこちらを窺うような顔つきを見せ、
「あの、お礼とかですけど……」
「報酬は別に……あ、そっちが悪いと思うのなら、頼みが一つ」
「何でも言ってください。できることは限られていますけど……」
正直、望みは薄いかなと心の中で思いながら、俺は要望する。
「えっと、例えば渓谷のこと……いや、魔物の巣とかに詳しい人とか知っている人にいないかな? できれば魔力の研究をしている人が望ましいんだけど」
「魔力の研究、ですか」
うーん、やっぱり辛いかな……と思っていると、
「えっと、さすがに偉い研究者は無理ですが、そういうことを調べているという人が身内にいます」
「お、本当? なら会わせてもらいたいんだけど」
その人物で巨獣が俺の攻撃を耐えたという詳細を知ることはできないだろうけど……ま、その人物からさらに紹介してもらって、という可能性もあるし、会って損はないな。
「はい、それについては大丈夫だと思います……えっと、お礼の内容はそれでいいんですか?」
「ああ、問題ないよ。依頼、しっかり果たさせてもらう」
こちらの言葉に戦士は「お願いします」と述べる。
「で、仲間達についてですけど……」
「ああ、詳細を聞かないといけないな。まず、名前から教えてもらえるか? さっき掲示板に名が載っていると言っていたけど」
「はい、皆様と同じ大陸出身者なのですが」
そう前置きをして――戦士は語った。
「名はアルト=ムーンレイト……大剣使いで、二人の仲間と共に、宴のことを聞きつけ大陸を渡ってきたそうです――」




