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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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魔力耐性

 俺はまず風の刃を放った。それなりに魔力を込めた代物だったが、頭部に直撃しても巨獣にそれほどダメージは与えられなかった様子。


「こういう攻撃では難しいみたいだな。なら――」


 直接攻撃に出よう。動きが緩慢な巨獣に対し、跳ぶように駆け接近する。


 巨獣は反応し、右前足を振り上げた――間合いに入ると攻撃をしてくるようだ。とりあえずそれをヒラリとかわし……直後、足が地面に叩きつけられ、地響きが生じるほどの振動が足下に生じる。


 まともに受ければ粉々になりそうな勢い。俺なら防げると思うが……魔法が効きづらいのもあるため、場合によっては魔力障壁も通用しにくくダメージをまともに受けるという可能性もゼロではない。


 そう考えると不安もあるが――俺は踏み込んだ。目指すは頭部。巨獣も気付いたか口を開け威嚇を行った。

 だが俺は構わず突き進み、渾身の剣戟を相手へと見舞う!


 その体に剣が入った瞬間、収束させていた魔力が解放された。衝撃波が巨獣の体を抜け、一時渓谷に俺の魔力が駆け抜ける。

 即座に後退し様子を窺う。際限なく魔力を吸収する剣により全力で叩き込んだわけだが……巨獣に確かなダメージを与えることができたみたいだが、決定打には至っていない。


「まったく通用していないわけじゃないが、相当耐性があるな」

『そのようだな』


 ガルクが同意する。しかし、原因は何だ?

 ソフィアやロミルダの攻撃は通用している様子なら、俺だけ何か影響が……? 疑問はあるが、まずは目の前の敵だ。


 頭部をたたき割る事ができればそれだけで勝負はつくはずなのだが、難しそうな雰囲気。ならば――


 巨獣が咆哮する間に俺は魔法を完成させる。使用したのは本日二度目の『ラグナレク』だ。

 その光の剣に巨獣は呼応する。標的を明確にし、こちらへ前足を伸ばす。


 俺を押し潰す気か……だがそれを横に跳んで避けると、すかさず剣を薙いだ。

 魔力収束を行った一撃――それもまた巨獣の肌を傷つけたが、やはり倒すには至らない。


 だが巨獣にも痛みはあったらしい。またも咆哮が響き、大きな口を開けまるで俺を食らい尽くそうと――

 その大きな口へ向け、俺は容赦なく魔法を解き放った。


「これで――」


 終わりだと宣告したと同時、口の中に巨大な光の剣が入り込み、爆散した。

 刹那、光と轟音が巨獣の周囲に満たす。口の中に放り込まれても衝撃波が周囲に生じ、巨獣の体がビクリと震えた。


 強固な外皮によって守られているのであれば、口の中に魔法を放り込めば……さすがに巨獣も無事では済まなかったようで、唸り声を上げ動きを無くした。

 とはいえ、消滅には至らない……本来ならここまですれば今まで遭遇した魔物は消え去った。しかしそうはなっていない。俺の魔法が効きにくくなっているというのは、確定的だ。


『……威力に比例し、障壁が強化されているようだな』


 ガルクがここで解説を行った。


『ルオン殿の技や魔法に応じて魔力障壁の強度が変化する……そんなことが可能なのかと思えるが、大気中に存在する魔力がルオン殿の魔法に反応し、自動的に強化されると考えればいいだろうか』

「口の中に魔法を入れても一緒とはな」

『耐性が皮膚ばかりではなく、体内にまで及んでいるとなると、やはり魔力が関係しているだろうな』

「その魔力自体が特殊、ということか」


 ならどうする……? 考える間に巨獣は体勢を立て直す。


 その時、再度ソフィアやロミルダの攻撃が降り注いだ。タイミングとしてはなかなかよくて、俺は後退する。

 二人の攻撃が降り注ぐ。相当に力を入れたらしい雷撃が直撃し、巨獣は甲高い声を上げた。さらに紫色の矢が外皮に突き刺さり、大いに傷つける。


 間違いなく俺の魔法よりも効いているな……ロミルダの魔法も十分な威力。強固な外皮がずいぶんとえぐれ、確実にダメージが加算されているのがわかる。

 俺は防御に徹し、二人に攻撃を任せる方がいいか……? そう思った時、俺はレスベイルが空中で留まっていることを思い出す。


「……レスベイル!」


 そこで名を呼んだ。直後、天使が巨獣へ飛来し、大剣を叩きつけた。

 結果、外皮が大きく弾け飛んだ。どうやらレスベイルの斬撃も十分な威力があるみたいだ。


『ルオン殿の攻撃ではあまり効果がなかったにも関わらず、レスベイルならば通用する……?』

「神霊の力が混ざっているから、と考えることもできるな」


 ――巨獣にきちんと技や魔法が通用する条件としては、何か特別な力を所持しているから、とかだろうか。ソフィアは賢者の力を宿しているし、ロミルダは竜人で竜魔石の力を所持している。


 一方の俺は、確かに能力自体は高い。魔力だって相当あるし、魔王にも対抗できるだけの能力を保持している……が、ソフィア達のように何か特殊な力を抱えているわけではない。より正確に言うならレスベイルという存在を精霊として宿しているので、特殊な力がゼロというわけではないはずなのだが……力そのものを独立させているので、俺自身その恩恵にあずかれないというわけだ。


「ま、現段階ではそういった感じか……さて、どうしようか」


 現状でも少なくとも俺の魔法や技は通用している。よって力によりゴリ押すことも可能だが……時間が掛かりそうだな。


「とはいえ、それ以外に方法はないか」


 剣を握り直す。こちらが戦闘態勢に入ったことを悟ってか、巨獣は再度吠えた。

 対抗するように俺は三度目の『ラグナレク』を発動させる……ここまで連用したことはなかったので、正直驚いているし、なおかつなんだか楽しくなってきた。


 これだけの巨獣相手。俺達の力をもってすれば楽勝では――と考えていたが、どうやら一癖二癖もあるような相手らしい。ただそれでも俺達を止めるには至らない――


「ダメージが減ってしまうというのは面倒だが……」


 俺は呼吸を整え、切り込む準備に入る。


「でもまあ、それでもお前を倒すことはできる……行くぞ!」


 足を前に出した。刹那、刀身に魔力をありったけ注ぎ、横薙ぎを決める。

 巨獣は回避に移ったようだが、まったく意味を成していない。頭部に一閃入ったと同時、かなり重い感触が跳ね返ってきた。


 このまま両断できれば……と思ったが、そこはやはり巨獣の外皮は強固で、弾かれる。ソフィアの斬撃はどうなのだろうかと一瞬考えたが、さすがに真正面から切り込ませるわけには――


「ルオン様!」

「って、ソフィア!?」


 渓谷の底まで下りてくる彼女。新たな敵に、巨獣はさらに吠える。


「ロミルダはまだ上にいますが、私は下で戦った方がいいかと思い」

「そうか……で、どうも俺の攻撃が通用しにくいんだ」

「ルオン様の攻撃が?」

「何が原因かはわからないけど、俺の最上級魔法よりソフィアの上級魔法の方が効いている様子だからな――」


 言い終えぬうちに巨獣の咆哮。体を震わせる声だが、俺達は意を介さない。


「ソフィア、『スピリットワールド』を使えるか?」

「問題ありませんが、今使っている剣では無く神霊の剣を使用しないと剣が壊れる可能性が」

「ならそっちで頼む。ソフィアの全力がどの程度通用するのか……それを確認したい」

「はい、わかりました」


 同意した彼女は神霊の剣を取り出し、魔力を集め始めた。途端この渓谷内に、彼女の凄まじい魔力が発せられる……巨獣もにわかに警戒を始めた。どうやら彼女の剣が自身を打ち倒すものだと深く認識している様子。


 ならば――俺は呼吸を整えソフィアへ告げる。


「これで決めるぞ」

「はい!」


 返事の直後、俺とソフィアは同時に駆け出した。


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