巨獣の耐久力
魔物の餌か……さすがにその光景を見るのは嫌なので、できれば避けたいところ。というわけで俺は援護するべく、
「レスベイル」
名を呼ぶと大天使が出現。周囲の戦士が「おお」と声を上げるのを聞きつつ、俺はレスベイルへ指示を送った。
「彼を助け――」
言うや否や、さらに魔法使い達が渓谷へとはじき飛ばされる光景が――彼らは全員対策はしているようで、空中で静止するのだが……浮上できない様子。
「って、数が増えたら救助も大変だな」
「しかも、まずいことになりましたよ」
ソフィアが言う。何を、と言いかけた時俺も気付いた。
巨獣が空を見上げた。目線は確実に、魔法使い達へ向いている。
「……どうやら、時間を稼ぐ人間が必要みたいだな」
「そのようですね」
「ソフィア、俺は下へ行く。そっちは援護を頼む」
「上で、ですか?」
「魔法使い達を救助するまでは、上と下で動ける人間がほしい。何が起こるかわからないし……それに、森の中にいる魔物だって倒した方がいいだろ」
「わかりました。お気をつけて」
彼女の言葉を聞いた後、俺は崖へと身を躍らせる。一気に飛び降り地面に着地すると、巨獣は魔法使い達ではなく俺に視線を注いだ。
そしてバッジからは赤い光と警告音。最上級クラスの魔物……戦士から聞いた情報が正しければ、このレベルの魔物を倒せば武勲を得ることができるはず。
「……悪いが、倒させてもらうぞ」
明言の後、俺は剣を生み出し挨拶代わりの風の刃を放った。加減はしていない。まずはこれで相手の能力を見極める!
風の刃は巨獣の頭部に直撃。魔物は顔をしかめたが、ダメージはほとんどない様子。
『効いていないわけではないだろう』
ガルクの声が頭の中で響く。
『どうやらルオン殿の技もこの濃密な魔力により威力が損なわれているな』
「面倒だな……けどまあ、それならそれで相応の攻撃をするまでだ」
魔力を収束する。そして次に発した魔法は――氷属性最上級魔法である『スノウユグドラシル』だ。
魔法が発動した瞬間、巨大な氷の柱に巨獣を包み込み、一気に大樹を想起させる氷へと変化させる。巨獣はまともに魔法を受けて硬直する……が、すぐにパキパキと割れる音が響き始めた。
「動きを止めるのも難しそうだな」
氷が割れる。直後、俺へ向け巨獣が威嚇の咆哮を放った。さすがにここまでやられると怒って当然か。
『ルオン殿、どう動く?』
ガルクの質問。俺は色々思案し……巨獣が動き出したのを見て、どうするか決断する。
巨獣の口が大きく開く。どうやらブレス系の攻撃――刹那、その口から炎が溢れた。火を吹けるのか。
で、こっちは対抗すべく風の刃を放った。旋風がブレスと真正面から激突し……炎が舞い、俺の斬撃が巨獣に届いた。
バアン、と盛大な音がこだまする。とはいえダメージはほとんどない様子。なら――
次の魔法を構築している間に、レスベイルが救助活動を続ける。魔法使いやその指揮官についてはどうにかこうにか森へと戻る。救助が完了したなら俺の援護を……と一度は思ったが、目の前の巨獣がどんな行動をするのかわからない。ひとまず待機させどんな状況に陥っても問題ないようするのが正解か。
そこで、俺の新たな魔法が完成する。光属性最上級魔法の『ラグナレク』――
神霊ガルクですら耐えきれなかった魔法。果たして巨獣に通用するのか。
生み出した巨大な剣が放たれる。それは見事巨獣の胴体に直撃し……閃光と爆音が渓谷を包んだ。
濃密な魔力により威力が減っていたとしても、最上級魔法――しかも光属性攻撃をまともに受けて無事とは思えないが……やがて光が消える。後に残っていたのは、無傷とはいかない、多少傷を負った巨獣の姿。
「……というか、平然と耐えているな」
いや、この場合光属性に耐性があるといったところか? それを裏付けるかのように、ガルクが続いて語り出す。
『魔法に対し、明らかに耐性があるな』
「つまり、魔法が効きにくいと?」
『というより、思った以上に魔力障壁が障害になっているな』
む、となると今以上の出力か……あるいは障壁を上手くかわすためにやり方を変えるとか?
『ルオン殿、これは少しばかり検証すべき案件だな』
そしてガルクは言うのだが……どういうことだ?
『例えばの話、今後ルオン殿が神とでも言うべき存在と戦う場合……こうした濃密な魔力の中で戦いを余儀なくされるだろう。この魔物の巣はどうやら我らのいる大陸とは大幅に異なる特殊な空間であり、魔法が通用しにくくなっている……来る戦いに備え、その辺りのことを是正した方がいい』
ああ確かに……となると、この場ではどうするべきか。
『此度における戦いについては、現状手持ちの技や魔法で対処するしかあるまい。ルオン殿ならば十分対処は可能なはずだが』
「ま、確かにな」
返答した直後、上から巨獣へ向け雷光が降り注いだ。それは魔法使い達が放っていたものとは比べものにならない大砲のような――ソフィアの雷属性上級魔法『ディバインロード』だな。
雷光が巨獣に激突した瞬間、光が周囲を包んだ。どうやら一片の容赦なく放った一撃のようで、凄まじい魔力を感じ取る。
ただ、俺の魔法があまり通用しなかったところを見ると――などと思っていたら、巨獣が声を上げた。それがどこか苦痛を伴っているようで……効いている?
「雷属性が有効なのか?」
疑問に思いながら俺は詠唱を開始。なら雷属性の最上級魔法を――
その時、レスベイルが魔法使い達の救助が完了したと報告をよこしてくる。よし、なら思う存分やれるぞ。
ソフィアの魔法が途切れた直後を狙い、俺は魔法を解き放つ!
そうして行使された最上級魔法『トールハンマー』は、正確に巨獣の体を撃ち抜き、その体を焼き尽くす――
『……む』
するとガルクが声を上げた。何事かと聞き返そうとした瞬間、さらなる巨獣の咆哮が聞こえ……ただ、ソフィアの魔法を受けた時とは異なり、こちらを威嚇するような雰囲気だった。
「ちょっと待て、通用していないのか?」
『確実に傷を負わしている。だが、ソフィア王女の魔法と比べ、どうも効きが悪いみたいだな』
「俺の魔法自体に問題があるってことか?」
こんなことを今までなかったが……やがて魔法が収まる。上空の使い魔がここで上の森にいる戦士達が待避し始めたのを確認する。これだけ強力な魔法をポンポン撃っている状況だ。さすがに危ないと思って避難を開始したか。
こちらとしては巻き添えがいなくなるので助かるが……しかし、面倒な問題が発生したな。
「ガルク、どう思う?」
『ソフィア王女が賢者の血筋であるからなのか、それともルオン殿の魔力が原因か……』
考察する間に、今度は紫色の矢が。ロミルダの攻撃だ。
それはまさに雨という表現が似合う……いや、数が凄まじいので爆撃といった方がいいかもしれない。
それが一切合切巨獣へと降り注がれる様は……なんというか、凄まじい。というかこれ、俺だから平気なものを、誰かいたら確実に巻き添え食らってるぞ。
そしてまたも渓谷内に響く巨獣の声……どうやら、
『効いているようだな』
ガルクが述べる。うん、俺の目からしても巨獣には痛手になっているのがわかる。
「こうなると賢者の血筋は関係ないな……何が理由だ?」
『わからん。しかしルオン殿、どうする?』
「……この巨獣には悪いけど」
そう言って、俺は笑みを浮かべながら剣を強く握りしめた。
「今後戦う魔物だって同じかもしれないわけで……色々と、実験をさせてもらおう」




