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賢者の剣  作者: 陽山純樹
天使の箱船

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天使の宴

 ――潮騒が響く港町。そして船が来たことによって活気づく人々。


 船を下りた瞬間、軽く肩を回し俺は息をつく。船旅というのは生まれて初めてなのだが、結構疲れた。


「ルオン様、大丈夫ですか?」


 隣にいるソフィアが問い掛けると、俺はすぐさま頷いた。


「ああ、平気だよ。一人くらい船酔いする人間がいるかなと思ったけど、存外平気だったな」


 振り返るとリチャルとロミルダが下りてくる。顔色などに変化はない。


「着いたな……さて、新たな大陸というわけだが」


 リチャルは言いながら周囲を見回した。


「まずは侯爵の知り合いに会うわけだな」

「ああ。とりあえず行くとしようか」


 全員歩き出す。俺達のような旅人もそこかしこに見受けられ、特に目立つこともない。

 俺達は天使のことを調べるために、このマータッド大陸へ降り立った。とはいえまずは情報集めをしなければならないため、リチャルの言うとおり侯爵の知り合いに会おう。


 で、船旅の途中に聞いたのだが、俺達の故郷であるシェルジア大陸からも船が往来しているという。成果がなければ一度帰るという選択肢もありそうだな。

 港を出て町中へ入る……と、なんだかずいぶん賑わっている。


「冒険者が多いな」


 リチャルが感想を述べた。うん、彼の言うとおり俺達みたいな旅装姿の人がずいぶんと多い。港だから、と言ってしまえばそれまでだが、なんだか違和感を抱いた……何かあるのかな?


「お祭りっぽくも見えますね」


 ソフィアもまた呟きながら思案する。


「明るい雰囲気ですし問題があるというわけではないでしょう」

「そうだな……とりあえず調べるのは後回しにして、要件を済まそう」


 俺は人混みの中を進んでいく。途中、目当ての人物の住まいを兵士などに何度か尋ね、通りを離れる。奥へ進むごとにどんどん人が少なくなっていく。


 該当人物の家近くは、閑静な住宅街といった雰囲気。大通りの喧噪が嘘のようで、遠くから子供達が遊ぶようなはしゃぐ声が聞こえるくらい。なんだか自然と小声になる。


「うん、この辺りのはずだけど……赤い屋根だったよな」

「あれではありませんか?」


 ソフィアが指差す。真正面に、それらしい屋敷を発見。


「正解みたいだな……うん、特徴も聞き込み通り」


 屋敷、といっても庭園があるようなものではなく、一軒家を少し大きくした、といった方が正確かもしれない。とりあえず玄関前まで近づきドアノッカーを叩いてみる。

 少し待ってみたが、反応なし。もう一度叩く。


「……不在でしょうか?」


 ソフィアの疑問に俺は屋敷を見上げ……その時、中から靴音が聞こえてきた。

 家主か、それとも侍女か……待っていると扉が開き、


「――あら」


 そうした声と共に姿を現したのは、白髪を持ち相応の年齢を重ねた女性だった。

 ぱっと見、小綺麗という言葉が頭に思い浮かぶ。背筋はピッシリとしており、ゆったりとした緑色のドレスは人に穏やかな印象を与える。


「あの、どちら様?」


 女性が問う。俺はすぐさま懐から書状を取り出し、


「唐突に申し訳ありません。私、アナスタシア侯爵の知り合いの者でして」

「……アナスタシアの?」


 眉をひそめながら、俺が握る書状に視線を移す。こちらはそれを差し出し反応を待つと、女性は書状を受け取り、


「そう、あの人の名前が出たということは、何かしらあるのでしょう。お入りくださいな」

「ありがとうございます」


 礼を述べ、中へ。内装はシンプルで、調度品なども非常に少ない。

 俺達は客室に通され、そこで待たされることに。その間に侍女がお茶を持ってきて、俺達はそれを飲みながら彼女が来るのを待つ。


「……そういえばルオン様」


 ふいに、ソフィアが口を開いた。


「この大陸の出来事が物語になっているのは理解できるのですが」

「ああ」

「……今までのように副題などはあるんですか? 天使に関するものだと思うのですが」


 そういえば、伝えていなかったな。


「えっと、二作目の副題は『エンジェリック・アーク』だ。天界のことを指し示した言葉だと思う」


 物語は終わっているけど、天使と関わる以上は副題――天界だって訪れることになるかもしれない。

 そんなことを考えていると扉が開き、女性が姿を現した。


「お待たせして申し訳ないわ。手紙の内容は読みました。友人を助けてくれたようで」


 ……中身は読んでいないけど、好意的なことが書かれていた様子。まあ当然か。


「私にお手伝いできることがどれほどあるかだけれど……あ、自己紹介がまだだったわね。私の名はエーネ=ハーツ。過去に国で宮廷魔術師の師団長をしていた者よ」


 その言葉にソフィアやリチャルは驚いた……なるほど、師団長ね。

 アナスタシアが協力を要請したのだから、並々ならぬ人物であることは予想できたけど……さて、どうしようかな。


「で、これには天使に関する情報が知りたいと書かれていたのだけれど」

「あ、その前にこの大陸の情勢などを教えてもらえると助かります」


 こちらの言葉にエーネは「いいわ」と答え、


「といっても、この大陸は現在大規模な戦争は起きていない……けれど魔物が多数いるから、平和と言い切るのは難しいわ。で、それに関連したイベントがある」

「イベント、ですか」


 ソフィアが口を開いた。


「大通りに旅人がずいぶんと多かったですけれど、もしかしてそれが理由なのですか?」

「そうよ……大陸の人々は『天使の宴』と呼んでいるわ」


 天使の宴? 疑問が頭の中をかすめた時、彼女は語り始める。


「二十年前、この大陸で騒乱が発生した。それは天使同士の衝突に人間が巻き込まれ、大規模な戦いになり……多くの爪痕を残し戦いは終結した。その後、天使達は天界へ入り、姿をまったく見せなくなった」

「けれど、最近姿を現した?」


 こちらの問いに、エーネは頷いた。


「そうよ。天使はこの世界にやってきた国々の偉い人達と話をした……この二十年傷を癒やすことに専念したそうで、その結果少しずつ天使も増え……やがて、人間達を巻き込んでしまったから、何かしようと思ったそうよ」


 エーネは俺達を一瞥し、なおも語る。


「色んな国々の人と話し合いの場を設け……結論としては、この大陸に存在する魔物の討伐を共に頑張ろうということになった」


 なるほど、天使が協力してくれるなら人間側としてはありがたいだろうな。


「ただ、天使も色々と理由があって、自らが戦場に立つのは難しいらしいの。そこでまず、支援という形で協力することになった」


 そう言うと、エーネは微笑んだ。


「ここからが少し面白い話。大陸の国々の中で、一人の王様がある提案をした。天使が協力してくれるということで非常にめでたく、また天使の名で人を呼ぶことができる……この大陸は魔物も多いから、戦力になる人物を常に欲しているの。で、討伐そのものをお祭りのようにして、他の大陸などからも人を呼ぼうということになった」

「それが『天使の宴』ですか?」


 こちらの問いに、エーネはゆっくり頷いた。


「武勇を見せ、天使のお眼鏡にかなった人は、武器など相応の報酬を天使からいただくことができる……場合によっては、天使と話をして何かしら願いを叶えることも可能らしいわ。また、そうした武具などの強化によって戦士が強くなれば、国々としてもありがたいし、場合によっては士官の道だってあるみたい」


 ――ほう、これは面白い。つまりイベントをきちんとこなせば、天使と接する機会ができるし、場合によっては武具などを手に入れることも可能か。もっとも、俺達が欲するような強力な武器はさすがに厳しいだろうから、上手いやり方を考えないといけないかも。


「つまり天使に会いたければ、宴に参加するべきだと」

「あなた達の望みを考えると、それがベストかしら」


 うん、話がわかりやすくていい……しかし天使の宴か。どこかで聞いたことがあるな。

 なんだったか……思い出そうとして、


「……あ」


 小さく呻いた。それに気付いたソフィアとリチャル。


「ルオン様?」


 名を呼ばれたが答えられない――これがゲームのイベントであることを思い出したためだった。


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