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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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光の中で見えたもの

 勝負が一瞬だというのは、俺にもよくわかっていた。ネフメイザから奪った魔力が尽き、『彼』に残された魔力は本来のものだけだろう。

 それを完全に消滅させれば、この場において戦いは終わる……とはいえ、消し飛ばす場合どれだけの力が必要なのか。


 そして駆ける『彼』は――全身に魔力をまとう。無策な突撃だが、それで十分すぎるほどの迫力が確かに存在していた。

 文字通り、捨て身の攻撃。俺はそれに相対するべく、刀身に魔力を注ぎ、剣を振りかぶる。


 その中で俺は気付く……喜悦の笑みを浮かべる『彼』の中に、確かな狂気が存在していることを。


「さあ! 終わりにしよう!」


 高らかに叫ぶ『彼』の声――俺はふと、『彼』自身が死にたがっているのではないかと考え……いや、そんなはずはない――そう自分に言い聞かせながら、相手に剣を放った。

 こちらの斬撃に対し、『彼』は右手をかざすことで応じる。刹那、剣と拳が激突し、俺達を中心にして烈風が吹き荒れた。


 一時、双方の魔力がぶつかりせめぎ合いとなる。そして俺が感じられるのは、『彼』が持つ濃密な魔力。この場にいる『彼』が本体から切り離された存在であることは間違いない。だがそれでも、強大な力を持っていることに変わりがない。


「ほら、どうした!?」


 挑発するように『彼』が叫ぶ。このままでは負けるぞ――ということを言いたいのかもしれないが、俺はそれに剣に力を込めることで応じた。

 次の瞬間、『彼』が放つ力をどんどん押し返していく。結果、相手はさらに口の端を歪ませる。


「……やはり、君は面白いな」


 俺自身の顔で告げる様は、とことん不気味な印象を与える。


「僕を次に楽しませてくれるのは、どうやら君のようだ」

「悪いけど、俺は遊ぶつもりはない」


 断言と共に、さらに腕に力を加える。


「お前は神でも気取っているのかもしれないが、容赦なく叩きつぶす」

「そう思うのなら、やってみるといい」


 左手をかざす。俺の剣を両手で受け、さらに魔力が迸る。

 俺と『彼』の動きに変化はない。双方が力を放出し――まるで力比べをしているようだった。


 こちらは鋭い視線を伴い、相変わらず笑顔を浮かべる『彼』を見据える……レスベイルの魔力探知を利用すれば、『彼』の体からどんどん魔力が消えているのがわかる。その消耗を考慮すれば、このせめぎ合いがあとどの程度で終わるのかを推測することができる。


「……このまま耐えれば、君の勝ちだね」


 やがて『彼』は言う――俺の心の声を聞いているかのよう。


「君の力なら、僕をどういうやり方でも倒せるだろう。けど、このまま耐えきっておしまいでは、少し寂しいな。それに、ネフメイザも浮かばれない」

「なら、どうするんだ?」


 冷淡な言葉を発した直後、『彼』がまとう魔力がさらに増す。


「一瞬……ほんの一瞬だ。僕が持ちうる全ての魔力を、その一瞬に注ぐ」


 ――瞬間的に出力を上げ、俺を超えるということか?


「それが何を意味するのか、君にも想像できるはずだ」


 ズアッ――全身が総毛立つほどに、魔力が膨れあがる。それを押さえようとして……刹那、さらに魔力が増していく。

 それはまさに、『彼』自身が持っている全ての魔力を全て一時の攻撃に費やすものだった。攻撃が終わった直後に自身の体が消えるというのが如実にわかるほど、あらゆるものを全て魔力に変える。


 捨て身、とは違う……ただ俺を驚かせようとする、戯れ。


「どうするんだい?」


 声が聞こえた――直後、俺は『彼』の意図を理解する。

 その狙いは俺じゃない。余波で後方にいるソフィアやロミルダを狙おうとしている。


 俺が防ぎきれない衝撃波だけでも、彼女達に十分なダメージが入るようにするつもりのようだった。無論、ソフィア達が防げないわけではないと思う。あるいは拡散する衝撃波の方向を変え、彼女達が攻撃を受けないようにする、ということも可能なはずだった。


 だが俺はしなかった。目の前で暴虐の力を発する『彼』に対し――真正面から迎え撃つ!


「そうだ! それが見たかったんだ!」


 絶叫と共に『彼』は体の全てを魔力に変える。俺を覆うように――全ての力が俺に轟き、飲み込もうとする。

 それに対し、俺は刀身に魔力を注ぎ対抗する。最早剣の限界など知ったことではなかった。あらん限りの力を込めて剣を握りしめ、際限なく魔力を注ぎ、『彼』が放つ命を消し飛ばすべく――斬撃を繰り出した。


 次に生じたのは、閃光。音が全く聞こえないのは、もしかすると耳が拒否したからなのかもしれない。

 唯一感じられるのは剣を握る感触だけ。視界は白く染まり、これが現実なのかと一瞬疑うような光景が広がった。


 そうした中で、俺は光の先に何かを見つける。


「え……?」


 目の前ではなく、数メートル先に人が立っていた。

 剣を振り魔力が拡散したことで、気でも失ったか……そうとしか思えない情景。この場においてできることは、ただ目の前の人物を見続けることだけ。


 『彼』ではなかった。体を青い法衣で包み込む――黒髪の青年。


「――待っている」


 一言、聞こえた。俺は問い返そうとして――轟音が耳に響いた。


 気付けば『彼』と打ち合った状況に戻っていた。すさまじい魔力が生じ、剣が押し込まれようとする。

 それに力で対抗する。剣は押してもビクともせず、まるで巨大な壁に剣を叩きつけているようだった。


 しかし、それも短い時間で終わりを迎える。魔力が薄くなった直後、剣が動き始め、俺が勢い任せに振り抜いた。

 刀身から生じるのは魔力の刃。それが正面に放たれ、壁面を撃ち抜きさらなる轟音をまき散らす。


「――ルオン様!」


 そして後方からソフィアの声。振り向けば、こちらを必死に呼び掛ける彼女の姿。


「気配は消えました! 遺跡が崩壊し掛かっています! 脱出を!」


 気付けば、足下が小刻みに揺れていた。どうやらこの遺跡に限界がきたらしい。俺の最後の一撃がトドメとなったか。

 即座に周囲を確認する。ソフィアの言うとおり、『彼』の気配は消え失せていた。最初からいなかったと感じられるほどであり――


「ルオン様!」

「……ああ、わかった!」


 走り出す。それと同時、広間の壁や天井が崩れ始めた。






 アニメやゲームのように遺跡全体が崩壊……ということにはならなかったのだが、戦場だった広間を中心にずいぶんと遺跡が壊れたらしい。生き埋めになっても俺やソフィアならどうにかできたような気もするけど、さすがにそういう目に遭うのは避けたいので、さっさと脱出する。


 入口に到着すると、既にリチャルが待っていた。


「ルオンさん! ネフメイザは?」

「倒した。地底で遭遇した敵が現れたけど、そいつも追い払った」


 ソフィアやロミルダを乗せながら答える。最後に俺が飛び乗ると、リチャルは竜に指示を出し一気に飛翔した。

 次いでゴゴゴ、と遺跡が崩壊する音が。見下ろすと、遺跡の上部にある岸壁などが震えていた。


「すさまじい戦いだったみたいだな」


 リチャルが言う。俺はそれに頷きながら、


「俺達が入り込んでいる間、異常はなかったか?」

「何も変化はなかったよ」

「そっか……よし、では帝都へ戻ろう」


 俺の言葉にリチャルは頷き、竜に指示を出す。するとゆっくりと上昇を始める。


「……ルオン様」


 その途中で、ソフィアが名を呼んだ。


「最後の時……ルオン様の動きが一瞬止まりましたが」

「……その時のことを説明するのは難しい。あれが現実なのか、それとも夢なのか判断がつかないくらいだ」


 俺は言いながら、青年が放った言葉を反芻(はんすう)する。


「……待っている、か」


 何を意味するのか――胸中で考えた時、竜が帝都へ向かって疾駆した。


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