最後の騎士
アベルと戦う炎の騎士バルヴォ……彼が上げた火柱が、戦士達の目を奪う。
「どうやら、そっちの策に負けたみたいだな」
残された最後の騎士。しかし戦意は喪失していない。
「ここであんたらをどうにかするのはかなり苦しいが……ま、やれるだけやってみようじゃないか」
どこか明るく語り……その周囲に、炎の壁が生まれた。
それは彼自身と、対峙するアベルを取り巻く。他の魔法使い達がすかさず壁に魔法を撃ち込むが、消えない。
「せめて、組織のリーダーくらいは倒しておかないとな?」
見た目は炎の壁だが、相当な力を注いで作られた魔法の障壁といったところか……レスベイルを通して見ると、炎が発生している場所以外にも魔力が存在し、障壁を形成している。レスベイルで援護するにしても、その障壁を突破しないといけない。
加え、さらに魔物が出現する。騎士達と戦いながら住民の避難も進んでいるが、ここにきてさらなる援軍。どうするか――
「ルオン殿、魔物を倒そう」
そこで近くにいたエイラドがレスベイルに向かって声を上げた。
「見ているんだろう? まずは住民が犠牲にならないことを優先だ。それに、次期皇帝となる人物……あの騎士くらい倒してもらわないと困る」
――思わず苦笑した。本来、皇帝となるべき存在である以上守らなければいけないわけだが。
「それに、アベル君も援護ではなく避難を優先しろと言うさ」
エイラドは一方的に告げ、周囲の魔物を倒し始めた。それに対し俺は……レスベイルを上空に飛ばしてアベルの様子を見ながら、魔法により魔物を倒し始める。
炎の中にいるアベルとバルヴォは向かい合い……アベルは魔力を剣に込めた状態で相手の様子を窺っている。
「さあて、始めようじゃないか」
嬉々とした、という表現が似合う声――刹那、刀身に炎を宿し突撃を行う。真っ直ぐアベルを狙ったものだが、それに対抗するかのように彼は『ラストオーシャン』を放った。
バルヴォは――回避するかと思ったが、予想を覆し真正面から受けた!
「おらぁ!」
声を張り上げバルヴォは青い波を押し返す。力と力の激突で、彼の方はほぼ気合いで押し返しているように感じられる。
その結果は……炎が一時アベルへ迫ったが、最終的には青が勝った。
「ちっ!」
舌打ちが明確に聞こえ、バルヴォは引き下がる……炎の壁を生み出し維持していることからも力はだいぶ落ちているはず。アベルの攻撃と真正面から相対し力負けする以上は、最早手が残されていないと思うのだが……。
アベルが踏み込む。好機と悟った彼は、決着をつけるべく間合いを詰め――次の瞬間、バルヴォの刀身から再度炎が吹き出した。
レスベイルで援護に入るべきか一瞬迷ったが、アベルの動きは変わらず、受けて立とうという雰囲気があった。
両者の剣が中間地点で激突する。金属音が高らかに響き、バルヴォの刀身から炎が生じアベルを襲おうとし、それに対抗するかのようにアベルが青い魔力を放出する。
青が迫る炎を飲み込み、あまつさえバルヴォを狙おうとする。先ほどと同じ結果だが、やはり力が落ちているということか。
バルヴォが素早く剣を引く。表情を窺い知ることはできないが、アベルがまったく動じていないこともあって、焦っているのではないかと思う。
さらに炎を生み出し切り返す。だがアベルはあっさりと対抗。真正面から弾き返し、逆に一歩前に出て剣戟を見舞った。
斬撃は――間違いなく当たった。衝撃によるものか、それともダメージを受けたからか……バルヴォは大きく退いた。
「……やれやれ、俺では無理って話か」
バルヴォが声をこぼす。
「陣頭に立っているだけあって、強いな」
「悪いが、ここで倒させてもらう」
容赦のない言葉と共に、アベルが追撃を行う。バルヴォは動かない。いや、衝撃により動けないのか?
ともあれ、これで決着か……そう思った矢先、バルヴォの体が突如、発光した。
「――っ!?」
唐突な変化にアベルも驚いたか立ち止まる。俺はバルヴォを注視。光を発し……いや、全身を炎で包んでいる。
「こいつは捨て身で、俺も再起不能になるんだが……ま、ここであんたを倒せば士気も下がる。役目は十分だろ」
全身に炎をまとったバルヴォ。捨て身と語っている以上、後戻りのできない技みたいだが……つまり、これを耐えればアベルの勝利か。
「さあ、最後の勝負だ!」
咆哮と共にバルヴォは突撃を敢行する。その熱量はどれほどのものかわからないが、灼熱は相当なものであると確信させられる。
それにアベルは、極めて冷静に『ラストオーシャン』を繰り出す。青い魔力が炎の体を包み、はね除けようと躍動する。
轟音と、炎の壁の外にも伝わってくる魔力。さらにズン、と地面を響かせこの激突が町にも多少ながら影響を及ぼしているのがわかる。
勝負の結果は――青が上空へと昇った。次いで一挙に炎の壁が収まっていく。それがどういう意味なのか理解しながら、俺は視界に入る最後の魔物を魔法で撃滅した。
レスベイルを地上に下ろすと、アベルの姿が。バルヴォは――彼の前に倒れ伏していた。
「騎士達を拘束し、避難を優先させろ!」
彼は指示の後、ユスカに近寄った。
「怪我は?」
「ありませんが、カトラは限界みたいです」
「わかった。既にルオンさんが城に入り込んでいる……私達は皇帝の下へ向かう。いけるかい?」
「大丈夫です」
頷くユスカ。それにカトラが申し訳なさそうな表情をしたが、アベルは微笑を浮かべた。
「少し休んでいてくれ。もしこの場に魔物が新たに出現したら、対応してほしい」
「わかりました」
その言葉の後、エイラドがアベルに近づく。
「俺もついていくが、いいか?」
「はい、助かります」
「ルオンさんと合流はしないのか?」
「目的が違うので」
アベルはレスベイルに目を向けた。喋ることができないのだが、頷くことで彼の意見に賛同した。
周りに戦士達も集まってくる。進撃する準備は整ったと言えるだろう。
「行くぞ!」
号令を掛け、アベル達は突き進む。精鋭の騎士達が倒れた今、最早障害はない。
アベル達が進むのは玉座の間。そこで皇帝とネフメイザと顔を合わせることになる。アベル達がネフメイザの悪行を暴き、倒す……彼らなら、十分勝てるだろう。
一方、俺達の方だが……上へ進むにつれ魔物の数も多くなっていく。とはいえ時を巻き戻すネフメイザがいる場所までそう長い時間は掛からない。これなら相手が何かをする前に到達できる。
残る大きな敵は人造竜だが……ソフィアと竜は今もなおにらみ合いを続けている。前回の戦いで使い魔がいなかったので詳細はわからないが、こうやって長時間対峙していたのだろうか? 疑問が頭の中をよぎる中、俺は剣を振るい魔物を消し飛ばす。
その時、人造竜がまたも咆哮。いよいよ始まるか――そう思った時だった。
『ルオン殿、ソフィア王女に伝えてくれ』
アナスタシアの声。
『ナシアによれば、人造竜が戦闘態勢に入ったと』
「わかった……ソフィア」
「はい」
「どうやら竜が動き出すらしい」
こちらの言葉に気を引き締め直す彼女。同時、竜が雄叫びを上げ、町全体を大きく揺らした。
ソフィアだけで対抗できるのか……不安もあったが、それを押し殺し、俺は彼女の戦いを見守ることにした。




