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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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二人の奥義

 ユスカの検証は終わったので、次はカトラ……のつもりだったのだが、


「……ルオンさんか」


 アベルの声。見れば、廊下から庭園へ歩んでくる彼の姿。格好はユスカ達と大体同じなのだが、彼が着るとずいぶん様になるな。


「ここには何の用で?」

「ユスカ達の実力を再確認しようと思ってね……そっちは順調か?」

「ああ、侯爵のおかげで」


 肩をすくめるアベル。


「むしろ、ここまで順調すぎて不安に思うくらいだ」


 ……ネフメイザも彼についてはあまり干渉していないということかな。


「ならいいよ。今回の戦いではアベルさんが要になるから、気合い入れてくれ」

「ああ、わかっている」


 と、ここで彼はユスカ達に視線を送った。


「二人はどうだ?」

「まだユスカしか検証していないけど、十分すぎる戦力だよ」

「そうか……」


 と、彼は俺と目を合わせ、


「もしよければ、俺も参加していいか?」

「構わないよ。ちなみに鍛錬は?」

「怠っていない。時間を見つけては剣を振っている」


 ――表向き、アベルこそが中心に立っている状況。だからこそ負けないよう鍛錬を欠かさないのは理解できる。その成果を確かめたいというのもあるだろう。


「アベル君には次の仕事が控えている」


 ここでエクゾンが横槍を入れた。


「今の段階で怪我をさせるわけにもいかないな……ルオン君、打ち合いではなく彼の力量を判断してもらうだけで構わないか?」

「俺は大丈夫だけど……何で判断する?」

「アベル君の創奥義だ」


 ――エクゾンにも決めた創奥義『ラストオーシャン』。津波のような魔力を浴びせるものだが、その威力を向上させているということか。


「わかった。アベルさん」

「ああ」


 剣を抜く彼。そして俺と対峙すると、静かに魔力を刀身に注ぐ。


 俺が出会った時点で強くなっていたアベルはユスカ達と比べて練度は高い。もし以前よりも強化されていたら、精鋭の騎士どころかそれ以上の敵に対抗できるかもしれない。


「では、いくぞ」


 アベルは宣言し――剣を構える。彼の技は魔力の波が真っ直ぐ襲いかかってくるというものであり、範囲がやや広い。さすがに庭園なので多少攻撃範囲は絞るだろうけど、俺が回避する余裕を与えないくらいの規模にはできるだろう。


 あるいは、範囲を凝縮して威力を高めるか……? そこまで考えた直後、アベルは動いた。剣を掲げると同時、地面へ勢いよく叩きつける。


 来る――と思った直後、青い魔力が俺を飲み込もうと迫る。見た目は以前とほとんど変わっていないが、湛える魔力は全身全霊で放った前と比べて遜色ない……つまり魔力の総量が増え、以前全力で放っていたものが今は余力を残し扱える。


 俺もまた、彼に応じるべく左手をかざす。その先に壁状の魔力障壁を構築し――双方が激突した。

 俺の真正面で青い波が荒れ狂う。かざした左手には重みが伝わってきて、青が壁を破壊しようととどろく。


 すると、障壁を避けるように波が動いた――っと、もしかして動きを制御できるのか?


「――威力は十分だと、私は前から思っていた」


 その時、エクゾンが語り出す。


「しかし、ただ魔力の波を放つのでは仲間にも被害が出る……だからこそ、それを制御する術を体得してもらった」


 青い波は周囲を取り囲むように迫り――俺は剣を強く握りしめた。


 刹那、青の波が爆散する。瞬時に右手の剣に魔力を込め、それを介し波へ対抗すべく斬撃を繰り出した。

 結果、波は大きく勢いを失った。さらに剣戟を叩き込むことで威力を失い……やがて効果が消滅する。


「……なるほど、これは驚いた」


 そして俺は呟く。一方のアベルは「完全に相殺しておきながら何を言う」とでも言いたげに視線を送っていたが……ともかく、


「侯爵、次の仕事があると言っていたけど」

「ああ……君の方で何かあるのか?」

「カトラの能力を見て、精鋭の騎士とどう戦うか語ろうかと思ったんだが……」

「ふむ、なるほど……アベル君、どうする?」

「これからの仕事は少しだけなら先延ばしにできるだろうし、やっておくべきではないかと思うが」

「いいだろう。ではカトラ君、頼む」


 エクゾンは目配せ。彼女は頷くと、俺と対峙した。


 残る彼女だが、シャスタという竜精を宿している以上、他の二人と比べて身体能力が高いはず。そして創奥義……もし習得しているとしたら、高い能力を活かして一気に間合いを詰め斬りかかるか? それとも――


 カトラが走る。俺の予想通り動きは俊敏で、竜精と連携することによって相当力が上がっているとわかる。


「――彼女については、当初色々と悩んだよ」


 エクゾンの声が聞こえる。悩んだとは、どう鍛えようかという方針についてか。


「技量についてまだまだ発展途上であることを踏まえれば、ユスカ君と同じように鍛えて、決戦までに間に合うか微妙だった」


 俺とカトラの剣が交錯した。鍔迫り合いとなり、カトラは俺を押し返そうとする。


「竜精の力と彼女の技量……それを考慮した結果が、これだ」


 俺はわざと剣を引いた。彼女がどんな攻撃を仕掛けるか――それを見ようという思いから。

 次の瞬間、カトラは魔力を発した――刀身から茜色の光が現れ、さらにそれが形を成す。


 俺にとっては見覚えがあった。これは彼女の創奥義である――間近まで迫りながら見えたのは、翼を広げた鳥……技名が『クリムゾンホーク』なので、鷹をイメージすればいいだろう。


 ただ、その大きさは鷹どころか物語なんかに出てくる朱雀のように巨大……それが近距離で迫ってくるのは、相当な迫力があった。


 俺はそれを剣で受ける。直後、衝撃が手元に伝わってきた。

 勢いは体勢が不十分ならば吹き飛んでいたかもしれない――また同時にエクゾンの考えを察した。


 鷹が弾ける。俺の正面で炸裂したその力は巨大な魔力の奔流を生み、俺へ衝撃波となって注がれる。無論こちらはダメージゼロだが、一時視界が効かなくなるほどの力を放出した……これもまた相当威力がある。


 やがて魔力が完全に消え失せ、エクゾンが問う。


「今のはどうだった?」


 質問には答えず俺はカトラを見る。息が上がっているようなことはなく、まだまだ余裕の様子。

 先ほど行った侯爵の解説。そして彼女の能力を踏まえれば……。


「確認だが、彼女は一点特化か?」

「そうだ。創奥義を修得し、それを練り上げた。剣術についてもやっているが、ユスカ君達と比べて出遅れているのは否めないし、決戦までに完成は難しいと考えた……ただ竜精の力を借りれば、その能力で技量をフォローすることもできるだろう」


 なるほど、ね。


「わかった。参考になったよ」

「ならば、策はどうする?」


 ――創奥義を二つ所持しある程度臨機応変に対応できそうなユスカ。奥義を自在に操れるようになったアベル。そして竜精と連携することにより能力が高まったカトラ。


 精鋭の騎士について思い浮かべてみる。地水火風それぞれの能力を抱え、最後の一人は影を操る。


 ……彼らの動き方などをこれまでシミュレートしてきたのだが、決戦の時は一斉に襲いかかってくる。ならば俺達がやることは――


「……精鋭の騎士は五人。加え、彼らは連携して俺達を阻む」

「俺の技なら、それを分断できそうだが」


 アベルが言う。それに俺は頷きつつ、続ける。


「ああ、連携させないというのが何より重要だ。個々の能力は確かに高いが、ユスカ達の全力ならば崩せる可能性もあるだろう。この場合、再生能力をどうするかが鍵だな」


 そう述べた俺は……ユスカ達に視線を向け、


「少し、話し合いをしようか――精鋭の騎士達を倒すために」


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