山の魔物
特に障害も無く屋敷に戻り、客室でアナスタシアと話をする。ソフィアも同席し、今後どうするのかを確認する。
「残る四竜侯爵、ザウルについてだが……」
俺が口を開くと、アナスタシアは嘆息した。
「資料に、決戦時は静観の構えを取っていたと書かれていたが……わしらの知らぬところで工作活動をしていたのかもしれんな」
「……俺が使い魔で動向くらい観察していたと思うけど」
「ネフメイザが警戒するよう通達していたのじゃろう。ま、元々ヤツを信じていたわけではないが、動向を探るのに色々する必要があるのは確定じゃな」
……ザウルの動きを抑えることができれば、決戦の時楽になるからやるしかないな。
「ルオン殿、ザウルと話をするまでにはまだ多少時間がある。これについてはひとまず置いておこう」
「ああ……で、俺達は今度どうする?」
「やっておくべきことは一通り終わった。決戦の際、犠牲者をゼロにするまでにはまだ仕込みが必要じゃろうが、精鋭に対抗する人物が四人いることに加え、竜魔石をすり替えたりもした。成果は上々じゃろう」
なら、次は……。
「資料では確か、魔物の討伐があったよな?」
「ああ、わしがルオン殿に依頼をするというものじゃな」
――アナスタシアはロミルダから事情を聞いていたため、今こうして共に組んでいるわけだが、前回の戦いでは「何の情報もなしに協力できるか」ということで、俺の実力を確認するのに魔物の討伐依頼をしたらしい。
「まあルオン殿の実力があれば苦労はせんじゃろ。というわけで、頼むぞ」
「……討伐については文章でちょっと書かれていた程度だから、それほど苦労はしないだろうな」
「じゃがこの戦いを契機にルオン殿を認めたようじゃから、それなりに働いたということで間違いない」
そう述べたアナスタシアは、微笑を浮かべる。ん、何か含みがあるな。
魔物の詳細については、数などを報告により知っているのかもしれないな。
「内容としては、山岳地帯から出現した魔物の討伐。数がそれなりに多いようじゃが」
「突如魔物が現れるのは、何か理由があるのか?」
「精鋭の騎士達が各地で動いておるじゃろう? 遺跡に踏み込み竜魔石を回収するなどしているわけじゃが……それにより、魔力のバランスが崩れたと考えられる」
「バランス、ですか」
ソフィアが言う。アナスタシアは彼女と目を合わせ、
「魔物が多量に出現するのは、大気中に存在する魔力に大きなひずみが生じた時じゃ。竜魔石を回収する他、遺跡に踏み込み今回精鋭の騎士が罠に引っかかりやらかした場合、大小魔力にも影響がある」
「彼らの行動により、魔物が増えたと」
「うむ、数が多ければ魔力を求め魔物達は山を下りるケースもある。この討伐依頼は、そうして平地へと歩もうとする魔物が相手じゃな」
……ま、この大陸で出現する魔物の質はそれほど高くないから、簡単に倒せるだろう。
「魔物が山を下りるのはあさってじゃ。その間は各々が修行を行うとよい。討伐が終わればすぐにザウルから書状が来る。余裕があるのは今のうちじゃろうからな」
「わかったよ」
方針は決定。俺達は部屋を出て、早速修行をやることにした。
魔物の討伐については、俺とソフィアも参加する。資料によれば二人で行ったと書かれていたし、彼女もフォルファとの連携を確認するのに丁度いい。
「ルオン様、剣の調子はどうですか?」
リチャルの竜で魔物の出現場所に向かう間に、ソフィアが問い掛ける。既にフォルファと連携しており、現在竜精は彼女の体の中に入っている。
「傍から見る限り、四苦八苦していたようですが」
「手掛かりがほとんどないからな。遺跡で発した力のままでは危なっかしくて使えないし、こればかりは決戦までに間に合わないかもしれない」
逆に全力を出すことは可能だから、例えばネフメイザが俺に対し強力な魔法を使ってきたら……とかいうシチュエーションなら、役立つかもしれない。
「状況的には、悪くないといった感じなのか?」
リチャルが問う。俺はそれに肩をすくめ、
「そうだな。ひとまず策は順調に進んでいるわけだし」
「あとは時を巻き戻す魔法の詳細が欲しいな」
「大きな謎として残っている部分はそれだな」
この辺りは神霊達に期待するしかないか……会話の間に、俺達は目的地に到着する。
真正面に山脈が見え、その一つへと繋がる街道が見える。周囲の地形は平原で、戦うのに問題ない。
「えっと、魔物が発生したということで周辺の住民は避難したんだったか」
アナスタシアからそうした話を聞いているので、街道周辺に人気はまったくない。
「数がそれなりに多いかららしいけど……もしかすると前回の俺は、魔物が出現したということで進んで協力を申し出たのかもしれないな」
「かもしれませんね」
同調するソフィア。さて、あとはここで待つだけなのだが……。
上空に使い魔を飛ばし、魔物の姿を観察しようとする。他に、例えば帝国側の騎士なんかがいるかもしれないので、人気がなくとも使い魔によるアンテナを張り巡らしているわけだが……そのうちの一体が、俺に報告をよこしてきた。内容は――
「……おい」
「ルオン様?」
「ちょっと待て、なんだこれ……アナスタシア、俺を驚かせたいとかそんな理由で、わざと言わなかったな」
ソフィアとリチャルは俺の声に反応し、訝しげな視線を送ってくる。
「ルオン様、何か予定外のことが?」
「ああ、まあ……いや、待てよ」
俺は口元に手を当て、
「よくよく考えると、資料に魔物の討伐とだけあったから、どの程度の数なのかまったく考えていなかったな」
「予想外に多いということか?」
リチャルの問いに、俺は首肯。
「ああ。そろそろ見えるはずだ」
前方に視線を移す。ソフィアやリチャルが目を向けた瞬間、魔物の姿が遠目ながら確認できた。
ただ、列を組んでいるのか――黒い魔物の姿が横一列に並び、平地を突き進んでくる。
「……あの、これは」
「原因、調査した方がいいんじゃないか?」
リチャルが目を凝らしながら提言する。
「予想していたよりもずっと多いぞ」
「上空から観察しているけど、百や二百を超えているな」
「これだけの数が、魔力の異変により出現したと?」
「正直、そう考えるにしても多すぎる。帝国側が何かをした、と考える方が妥当か」
アナスタシアを潰そうと考えたのだろうか? まあどういう目論見にせよ、止めなければならない。
「――レスベイル」
俺は精霊を呼び、指示を出す。
「あれだけの数だ。真っ直ぐ突き進む以外の魔物も出てくるはず。そいつらを見つけて始末、もしくは俺に報告を」
レスベイルが飛び立つ。すると今度はリチャルが発言。
「空を飛ぶような魔物はいないみたいだな。俺も竜に乗り上空から援護しよう」
「わかった。ソフィア、地上は二人でどうにかするぞ」
「はい」
返事を聞きながら、俺は一つ思う。
資料にはそっけなく書かれていたのに、大事になっている。まあ俺が最終的になんとかするから前回のリチャルも詳しく書く必要はない、などと考えたのかもしれないけど……。
魔物の雄叫びが聞こえ始める。俺達の存在に気付いたらしい。リチャルが竜に乗って飛び立ち、レスベイルも動き始める。
「……俺達しかいない方が都合がよさそうだな」
戦闘の中で手に入れた剣の検証もできる。ソフィアもフォルファとの連携を存分に確認することができる。
魔物が徐々に近づいてくる。その様はまさしく軍隊のように思え――俺とソフィアは、同じタイミングで走り始めた。




