精鋭の騎士
俺が隠し通路から入った遺跡の入口は、山の頂上から見て反対側に存在する。精鋭の騎士達は真正面から入るので、今回は入口付近で待つことにする。
「精鋭の騎士が時間通りに来れば、まだネフメイザが描いた通りの状況になっているだろうな」
俺の方は既に準備完了で、あとは待つだけ――無論、気配を隠す魔法は使っている。
『ルオン殿、ここで少しばかり確認しておこう』
ここでガルクが話し始める。
『騎士の戦力分析というのが今回の目的だが、遺跡の戦いで全てを把握できるとも思えん』
「そうだな。彼らがどういった能力を持っているか……それを見極め、誰と戦わせるのがいいか参考にする、とかかな」
この遺跡でどの程度戦うのかによって評価が変わってくるけど……。
「おーい、ナシア」
「何かしら?」
懐に突っ込んだ水晶球に呼び掛けると、すぐに返答がきた。
「この遺跡に存在する罠とか魔物とか、詳細は知らないか?」
「私はこの遺跡の実験を受けた存在だから、内部構造を把握しているわけではないわ」
「そうか……」
「けど、魔物がたくさんいるのは知ってる」
ほう、それはいい情報だ。
「罠の類いはあまりなかったんじゃなかったかしら。ただこの施設は防衛機能は充実していたから、魔物が多いと思うわ」
「俺達にとってはいい状況だな。裏口から入った時点で魔物は残っていたから、騎士達もそれらを相手にするだろう」
と、会話をする間に遠方から騎士が現れた。全部で三人。二人が男性で一人が女性。他に兵士を伴っているわけではない。
その三人の中で、一人の男性が先頭を歩いている……見た目、二メートルはあるんじゃないかと思うくらいの背が高く、否応なしに存在感を見せつけてくる。
年齢は、四十前後といったところだろうか? 歴戦の騎士といった見た目だが、元々帝国の騎士をやっていたとしたら、素性が割れてもおかしくない……どこからか雇った人物なのか?
続いて別の二人を観察。男性は茜色の髪を持ち、周囲をキョロキョロしながら歩いている。背丈は先頭の騎士よりは低いが、それでも平均以上か。
唯一の女性は目の色と髪色が共に青色の美人。ただどこまでも無表情で、男性二人が話す間も無言を貫いている。印象的に、女性が一番怖そうに思えた。
「……着いたな」
先頭の騎士が声を上げる。えっと、名前は――
「年齢が高い騎士がアレキアス=ジュードム。茜色の髪を持っている騎士がコンラート=ヘルバン。で、唯一の女性がジュリア=ファナンという名だ」
『この中にリーダー格はいるのか?』
「精鋭五人の内、誰が隊長なのかは不明なんだよな……というより、五人がそれぞれ一定の権利を有し、独立して動いているという可能性もゼロじゃない。今回は遺跡探索ということで集まった……とかも考えられる」
「二人とも、今一度確認しておくぞ」
威厳のある声で四十代の騎士――アレキアスが言う。
「我々の目的は遺跡内の竜魔石奪取。加え、何か武具などがあればそれも拾得。金目の物は無視しろ」
「もったいないなー、マジで」
どこか軽薄な声を出したのは、コンラート。
「少しくらい懐に入れてもいいんじゃないです?」
「私は見て見ぬふりをするが、バレて叱られても知らんぞ」
……なんか子供をたしなめるような感じだな。アレキアスは任務を全うしようとしているが、コンラートはそうでもないらしい。
コンラートは傭兵稼業でもやっていたのだろうか。騎士というには軽薄そうな感じなので、そんな風に思えてくる。
「ジュリア、お前はいいか?」
アレキアスが問い掛ける。女性――ジュリアは無言で頷いた。
言葉を発しない……そればかりか目線もほとんど変えない。
「なあなあ、ここに来るまで全然喋ってないじゃんか」
世間話の体でコンラートが話し掛ける。
「ちょっとはコミュニケーションしようぜ?」
ジュリアは無視。騎士の格好をしていなければ、ナンパしようとして失敗しているようにも見えてくるな。
『存外、人間味があるな』
ガルクがここで評価する。
『ネフメイザが集めた精鋭……我は絶対に従うよう操っているのではと考えていたのだが』
「そういう魔法を仕込んでいる可能性は否定できないが、普段は自由にやらせているということなのかもな」
アレキアスが号令を掛け、中へと踏み込む。俺は足音を立てないように追随する。
遺跡の入口は岩場に囲まれ周囲からは見えないようになっている。見た目は単なる洞窟だが、奥へ少し進むと複雑な文様が刻まれた石壁に変わる。
「魔物の気配がする」
唐突にジュリアが声を上げた。表情や態度の通り、硬質で冷え切った声。
『彼女は気配探知に優れているのか?』
ガルクが疑問を発した直後、彼らの前に天使が出現する。俺が遭遇した頭部はあれど顔のパーツがない赤い天使。
俺は一撃で倒せたが、彼らも同じことをできるのか……?
「早速だな」
好戦的な笑みを浮かべながらコンラートが剣を抜く。
「アレキアスさんよ、俺が先陣を切るということでいいのか?」
「構わん。無駄な体力を使わずに済むからな」
「はっ、そうかい……それじゃあ、いくぜ!」
――この中ではコンラートが一番喧嘩っ早いか。彼は足を前に踏み出すと共に、刀身から魔力を噴出させた。
それに反応する天使。刹那、手に握る剣をかざし、コンラートを威嚇する。
だが、彼は一切気にすることなく間合いを詰める。
「おらあっ!」
やけに荒っぽい声と同時に放たれた斬撃は、剣で受けた天使を吹き飛ばすほどの力が加わっていた。大きく後退する天使。とはいえ体勢を崩したわけではないため、そのまま反撃に転じようとする。
だが、そこへ容赦なくコンラートが迫る。魔力がさらに膨らみ――刀身からパキパキと音が生じた。
「……氷、だな」
俺が小さく声を発したと同時、コンラートが剣に注がれた力を解放する。刀身が突如氷に包まれ、それが蛇のように天使へと伸び――先端が刃のようになって天使に直撃した。
さらに吹き飛ぶ赤い天使。剣を振り氷を破壊しようとするが、できない。一気に体が凍り始め、その体を拘束する。
「無駄だぜ」
コンラートが剣を振る。氷がまるで鞭のようにしなり、天使を壁に叩きつけた。
ズウン……と、室内に響く振動。すると、アレキアスが声を上げた。
「探索前に壊すなよ」
「さすがにこの程度じゃ壊れないと思いますがね」
陽気に答えたコンラートは、さらに剣を振る。天使の体が今度は地面に叩きつけられ、動かなくなる。
この場合、仕留めたんじゃなくて物理的に動けなくしただけか。
「どうします?」
「さっさとトドメを刺せ」
コンラートが肩をすくめた。もっと楽しみたいといった感じか。
ともあれ、遺跡内にいる敵にも余裕で立ち向かえるだけの強さを持っているのは間違いなさそうだな……。
コンラートは指示を受け、さらに剣を振った。すると一瞬のうちに氷が天使の体を覆い――突如氷が爆散した。
すると、残ったのは氷のカケラだけで、天使の姿が消滅していた。
『氷と魔力が衝撃波となって天使の体を砕いたようだな』
ガルクが言う。アレキアスが「先へ進むぞ」と号令を掛け、騎士三人は歩き出す。
だが、魔力に気付いたかまたも天使。しかも今度は数が多い。
「面倒だが、仕方あるまい」
アレキアスが声を上げ、全身に魔力をみなぎらせる。
「さっさと片付けるぞ」
その言葉と共に、騎士達は敵へ向け駆けた。




