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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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騎士と炎

 出口から外に出て、使われた形跡がないようにカモフラージュする。その後、使い魔の情報に従い移動を始めた。


「追う側も追われる側も一人か……どういう経緯かわからないけど」

『場合によっては追われる側を助けるのか?』

「いや、下手に介入するのはまずいだろう。ネフメイザが深く関わっている案件かもしれないし……それに、追われている方が悪人という可能性もあるし」

『なるほど、確かに』


 山岳地帯を俺は突き進んでいく……やがて、遠目ながら二人を視界に捉えることができた。

 声は聞こえないくらいの距離だが……対峙するのは騎士二人。追う側は男性。追われる側は女性。


 男性の方は褐色の肌と灰色の髪を持つ剣士。武器は大剣であり、並の能力でないことは遠くからでもわかる。

 もう一方の女性は男性と同じような装備ではあるのだが、どこか頼りなさげな……幸薄そうな感じに見えた。セミロングの金髪が揺れ、男性と対峙している。


「会話を聞き取るにしては遠いな」


 気配を隠す魔法を使って近づくか……と、ここで俺はあることに気付いた。


「……もしかして」

『どうした?』

「いや、あの男性騎士……精鋭の騎士の一人に特徴が一致している」


 そうだとしたらチャンスだな。

 俺は魔法詠唱を始め、気配を隠す魔法を使用。一気に二人へ接近する。


「――返してもらおうか」


 そして男性の声が聞こえた。


「断る」


 続いて女性の声。男性を威圧するような感じだ。


 双方既に剣を抜いているが、距離はある。女性の方が警戒し後ずさりしているのに対し、男性は少しずつ間合いを詰めようとする。


 ふむ、双方の格好から考えると、女性は帝国側に反旗を翻す組織のスパイか、裏切り者かな? そして男性は、何かを奪った彼女を追ってここまで来たという感じか。


『あの男は、なんという名だ?』


 ガルクが訊いてくる。えっと、資料によれば――


「確かバルヴォ=イザーデだったかな」


 五人の精鋭の一人で、魔法剣の使い手だったはず。


「……言っておくが、勝ち目はないぞ」


 バルヴォが発する。だが女性は応じない。


「まあ普通に考えて、バルヴォの要求を飲んでも結末は一緒だろうからな」

『この場合、ここで死ぬか牢獄で死ぬかだろうな』


 ガルクがコメントした直後、バルヴォが動いた。女性は即座に退却を決断。背を向け全力で逃れようとした。だが、


「無駄だ」


 一言。それと同時にバルヴォは剣を薙ぎ払うように振った。その刀身の先から、炎が生まれる。

 彼の得意な攻撃は火属性――刃から生じた炎は地面に触れた瞬間、導火線のように真っ直ぐ女性へ突き進んでいく。


 速度は相当なもので、あっという間に彼女の足下まで到達し、爆発した。山岳地帯にこだまする盛大な音。土煙が舞い上がり、その中から女性が転がるようにして出てくる。


「逃げられんぞ」


 宣告と同時、バルヴォは刀身から炎を出した。切っ先から炎がこぼれ、地面を焦がしていく。

 対する女性は剣を構え直した。戦う意志を示したように見えるが、隙あらば逃げようと考えているはずだ。


 バルヴォは構わず歩き出す。女性はそれに応じるように後退するが……これでは先ほどと同じだ。


『……ルオン殿』


 ここでガルクが発言する。


『女性の素性は判然としないが、彼女が今回の戦いにおいて我らと同じ皇帝を討とうとする者、という可能性がありそうだな』

「おそらくな……侯爵の手先か、それとも反乱軍の差し金か……ただ、やっぱり介入するのもまずいな。俺の存在は知られたくないし」


 この戦いに割って入ることはネフメイザに「前回とは違う」ことを悟らせることになるかもしれない……どうするか。


『黙って見守るしかないということか?』

「……少し様子を見よう」


 ガルクの言葉に返答した矢先、バルヴォが動いた。刀身から炎を噴き上げ、それを地面に叩きつける。

 何が起こったか――炎が彼の前方で業火となり、津波のように女性へと襲い掛った。


「くっ……!?」


 女性は呻きながらも左手をかざした。その手から光が生まれ、対抗しようとする。


「何かするつもりらしいが、その程度では足らないぞ!」


 バルヴォは吠え、さらに剣を薙いだ。地面に剣が当たるたびにさらなる炎が生まれ、女性へ幾重にも重なり襲い掛かっていく。


「……これは、創奥義か?」


 その魔力の高まりから俺は推測する。断定はできないが、少なくともバルヴォの得意技と考えてよさそうだ。

 女性は光を当てて多少炎の動きを鈍らせたが――勝負になっていない。光はやがて炎に飲み込まれ、彼女もまた――


「……あ」

『ルオン殿?』


 問い掛けが聞こえた直後、俺は断定した。


「ガルク、俺達が割って入る必要はないみたいだぞ」

『何?』


 会話をする間に彼女の体が炎に飲み込まれた。刹那、爆炎が上空へと噴き上がり、轟音が周辺を満たす。

 火柱が空へと昇り、熱が俺まで伝わってくる。創奥義なのか判別は難しいが、少なくともバルヴォが放つ技の中で高い威力を誇るのは間違いないだろう。


「帝国に逆らった、罰だ」


 バルヴォが言う。そして炎が消え……残ったのは黒煙と超然とする彼だけ。

 やがて煙が晴れる。女性が立っていた場所は黒く焼け焦げ、先ほどまで人間がいたということが信じられないくらい、何も残っていなかった。


『……地面に何か落ちているな』


 ガルクが語る。それはバルヴォも気付いたようで、爆心地に近寄ると屈んで何かを拾った。


「無駄死にだったな、お前も」


 言い捨てると、彼は歩き始めた。女性がいた場所を振り返ることなどないまま……その姿が、消えた。


『……ルオン殿、先ほど介入する必要はないと言ったが』

「ああ、だって――」


 突如、黒焦げの地面がボコリと膨らんだ。

 見守っていると、地面から這い出てくる女性の姿。


「とりあえず、生き延びることはできたけど……結局、収穫はなしか」


 ため息を漏らす。彼女は何かを奪って逃げたはいいが、結局見つかり戦闘になった、ということか。


「……よし、あの騎士と彼女を使い魔で観察しておく」

『うむ、そうだな』

「特に女性の方が気になるな……侯爵の関係者か、あるいは……」


 呟く間に女性の方も去って行く。それを黙って見送った後、俺はコメントした。


「精鋭の騎士は、最後まで確認するべきだったな」

『最後、どうだったのだ? 女性から魔力が生じたのは理解できたが」

「炎に飲み込まれる瞬間に魔法……地面にある土を利用してゴーレムを作り出していたのがわかった」

『それを身代わりにして、本人は地面に潜り込んだと』

「そういうこと」

『しかし、結局経緯まではわからなかったな』

「それは使い魔で観察し、わかる範囲で調べるしかないな」


 ともあれ、精鋭の騎士の中で一人、その能力を確認できたのはよかったか。


 バルヴォが本気を出していたとは考えにくいが、押し寄せる炎は結構迫力があった。もし一騎打ちをする場合、あれを防ぐか耐えるかしなければならないわけだ。


『ルオン殿、戻るのか?』


 考える間にガルクが質問してくる。俺は頷き、懐から竜魔石を取り出した。


「ああ、そうだな。目的は果たしたわけだし、騎士達が遺跡を探索するまで待つことに――」


 その時だった。遺跡で竜魔石を手に入れた直後に感じた――視線。


『どうした?』


 ガルクは問うが、俺は無視して周囲を見回す。使い魔を通して確認しても人はいない。やはり気のせいか……?

 そう考えた時、俺はあることに気付く。


「……もしかして」


 竜魔石を見据えていると、


「――あら、気付いたの」


 突如、竜魔石から女性の声が聞こえてきた。


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