未知の剣
異形の騎士が右腕の剣に魔力収束を終え、構えた。その動作は俺にどこか似ている……見よう見まねか。
「こっちの動きを真似ているみたいだな」
『相手の行動を分析したのだろうか? やはり異様な相手だな』
「それは規格外の魔力を持っている時点で理解していたよ」
静かに刀身に魔力を注いでいく。この魔力の収束方法についても、色々とやり方がある。その数は千差万別であり、極めるためには多くの時間を必要とする。転生してから強くなるべく戦い続けた俺にとっても、遠い道のりだ。
また何かの書物に書いてあったが、「手法については抱えている魔力量や質によって変わる」とのことなので、自分に合ったやり方を見つけ出さなければならないことも、時間が必要なことに拍車をかけている。
『ルオン殿、先ほど試すと言ったが、どうするのだ?』
「見た目、今までとそう変わらないよ。ただ技を繰り出すのとはやり方が違う。自分にあったやり方……それこそ、俺の魔力が余すところなく剣に注がれ、活用される……そういうやり方だ」
どれだけ技を習熟しても、やはりどこか魔力にムダな部分が出てくる。技にはある程度個人差によって変わるが、型が存在するためそのやり方に合わせるイコール本人にあった魔力収束などとはズレが出てくるというわけだ。
つまり注いだ魔力を完全に生かすためには、自分のやり方を見いださないといけないわけだ……例えばソフィアにとってはおそらく『スピリットワールド』だろう。
俺は今までの経験を剣に注ぐような気持ちで魔力収束を果たす――見た目にいつもと変化はない。
『動くぞ』
ガルクが声を発した直後、騎士が猛然と襲い掛かってくる。その鋭さは目を見張るものがあり、まさしく俺を滅するため、容赦のない踏み込みだった。
対抗するべくこちらも剣を振る。よどみのない剣戟は、騎士が振り下ろした剣と激突する。
漆黒の剣と俺の剣が一時せめぎ合う。フォルファの時と同じように鍔迫り合いの様相を見せ始めた時――突如、相手の力が一瞬緩んだ。
『魔力が落ちた――!』
そうガルクが断言した直後、俺の剣が漆黒の刃をはね除け、胴体へ。剣が体に振れた瞬間、まるで人間を相手にしているような確かな手応えを感じ取る。
そのまま一気に振り下ろす。上から下に入った斬撃は、異形の体に大きな筋をつける。
騎士は衝撃により後退……吹き飛ぶといったことにはならなかったのだが、これについては予想の範疇だ。
刹那、異形の体に魔力が生じる――それは敵が体の奥底から発したものではない。俺の斬撃の効果がまだ続いている。
次に異形の体から白い光が生じ――白く一気に染め上げた。
言うなればそれは白い火柱。異形の体を包み、何もできなくする。相手は一矢報いようと腕を伸ばそうとしたが、さらなる魔力の奔流により、とうとうその動きも止まってしまう。
『……どうやら、終わりのようだな』
ガルクが明言。光に包まれながら、とうとう異形の騎士が消滅していく。
凄まじい魔力を保有していたが、猛攻により撃破することに成功した。
俺は剣を消し、自身の右手を眺める。今の技は未完成だが、それでもトドメを刺すには十分だった。改善すれば、最上級技の上をいくものになるだろう。
『ルオン殿、最高の技にしてはずいぶんとシンプルな見た目だったな』
ガルクが感想を述べる。それに俺は肩をすくめた。
「まだ完成じゃないからな。どうなるかは今後のお楽しみだな」
「――終わったか、いやはや、とんでもない相手じゃったな」
後方からアナスタシアの声。振り返ると、ソフィア達と共にこちらに歩み寄る侯爵の姿。
「ルオン殿、大丈夫か?」
「ああ。しかしこの遺跡を生み出した存在は、とんでもないな」
「まったくじゃ。扉の奥にもう一体いるとかだと、さすがに面倒じゃな」
俺は扉に視線を送る。部屋のあちこちは魔法や技によりかなり損傷している……最上級魔法や技を連発した割には、損傷具合が少ないように感じられる。もしかすると、魔力を中和し破壊を防ぐような素材なのかもしれない。
なおかつ扉は無事。とはいえ、この奥にまた同じような敵がいないとも限らない。
「ルオン殿、その場合どうする?」
「まだ余裕はあるから戦うよ」
「恐ろしいな……扉は誰が開ける?」
「ま、俺が一番安全だろうな」
ソフィアなんかは俺のことを心配する目を向けてきたが……こちらは問題ないとばかりに視線で応じ、歩き出した。
扉に近づき、罠がないかなど確認。魔力などは見当たらないので問題ないと判断。そして鍵は掛かっておらず、扉は開いた。
その奥――中央にちょっとした台座があるくらいで、何も無い真四角の部屋。ただ、その台座が問題だった。その上には――
「……剣?」
「の、ようじゃな」
俺の横に立ったアナスタシアがコメント。
「ふむ、あれほどの存在が守護していたにしては、ずいぶんとシンプルじゃが……」
『どうやらあれが、魔力を発しているな』
ここでガルクが口を開く。
『天使の遺跡で感じた魔力と酷似している。根源はこれか?』
「だとすると、相当すごい物、ってことかな?」
近づいてみる。その剣は俺が普段使う剣と比べ少しばかり大きい――大剣と呼ぶほどではなく、かといって長剣と言われると大きい。
「精霊のようなものが封じ込められている、とかでしょうか」
ソフィアが言及……さっきのような存在が封印されている、などと考えれば力が大きいのも納得、だろうか。
「どうする? 持って帰るか?」
アナスタシアの問い掛け。収穫というのはこれくらいしかないので、できればそうしたいのだが……持ち出して大丈夫なのか?
「握った瞬間、さっきの黒いやつが出てくるかもしれないぞ」
フォルファが冗談めかしく言う。うん、そういう可能性があるから躊躇しているんだけど。
少し考え……俺は部屋をぐるりと見回す。
「とりあえず、他に何かないか探してみるか」
――そうは言ったものの、極めてシンプルな部屋。ソフィア達も部屋を歩き回り怪しい物がないか探してみたが、これ以上奥はなさそうだった。
となると、いよいよ剣を調べるしかないわけで……。
「俺がまず触ってみるよ」
こちらの言葉に全員頷くのを見て、右腕に障壁を強くした後、手を伸ばした。
「触れて、何もなかったら持って帰ろう」
そう言った直後、柄の部分を握る。
刹那――突如剣が発光した。
「っ!?」
慌てて手を引こうとしたが遅かった。周囲を光が包み……やがて、消える。
後に残ったのは台座だけ。そう、剣が消えてしまった。
「消えた? 変わった特性じゃな。どこにいった?」
アナスタシアが部屋を見回す。そうした中、俺は自分の手のひらを見据える。
「あのさ、もしかして……」
「うん? どうした?」
「……剣を取り込んでしまったかもしれない」
驚く侯爵。それと同時、俺は少し拳に力を込め、先ほどの剣をイメージして軽く腕を振ってみた。
すると、手のひらから淡い光が宿り――先ほど消えた剣が出現した。
「ほら」
「……おおう、変わった特性じゃのう」
アナスタシアが剣に触れる。何も起こらない。
「ふむ、この調子だとルオン殿を剣の持ち主と決めたようじゃな」
「……初めて触った人間が持ち主になると?」
「そんなところじゃな」
役に立つのだろうか……? ひょんなところから剣を手に入れたけど、結果としてよくなるのかまったくわからないな。
「まあまあ、ルオン殿。収穫はひとまずこれだけじゃが、そちらは戦いを通して思うところはあった様子。目的は果たした故、戻ることにしよう」
――なんだか色々あったが、確かに当初の目的は果たしている。俺は頷き、仲間達へ告げる。
「侯爵の言うとおりだ……というわけで、帰るとしよう」
全員が元来た道を歩き出す。そこでアナスタシアが、最後に一言漏らした。
「ここについても大いに興味がある。戦いが終わったならば、調べることにしよう」
口の端には笑み。気になったら調べないわけにはいかない性質なんだろうな……そう思いながら、部屋を出た。




