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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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異形の魔力

 宣言の後、最初に放った魔法は火属性最上級魔法の『エクスブロード』だった。


 炎熱が異形を中心に膨れあがる。本来ならば大爆発を引き起こし、この部屋中に灼熱をまき散らすのだが、アレンジを施している。爆発が内にこもるように調整し、異形となった騎士を焼き尽くす。


 炎が球形に広がり、轟音が鳴り響く。爆発の衝撃波なども球形の中で全て騎士に降り注ぐようにしているのだが……それでも室内に振動などをもたらす。


 焼き殺せるのではと思ったが――甘かった。やがて魔法が途切れ姿を確認すると、鎧は大いに砕け散ったが、漆黒はなおも魔力を湛え存在する。

 しかも、熱を相殺でもしたのか……室内に立ちこめる熱気がずいぶんと少ない。


『防御能力は相当なものだな。これだけの魔法……神霊であっても、既に勝負がついているぞ』


 ガルクが言及。俺は次の一手を考えながら、声をこぼす。


「こいつは作られた存在だよな……? どんな技術を使ったらこんなものを生み出せるんだ」

『古代文明というのもまた、調べてみると面白いものかもしれんな』


 疑問は尽きないが……今は攻撃に集中だ。


 時折漆黒の腕が俺へと迫る。直撃はいろんな意味で避けたかったので、剣で弾き対処する。無論、後方にいるソフィア達に当たらないよう配慮――レスベイルで防御しているが、これだけの力だ。念には念を入れる。


 俺は次の魔法を起動。再度『スノウユグドラシル』を放つ。業火の後、一気に凍り付けとなる異形。だが氷による拘束はそれほど経たずして、ヒビが入り始めた。

 その間に新たな詠唱を行う。次は――そう考えた時、異形の腕が拘束を脱し俺へと迫る。


 相当な魔力を秘めた一撃だったが、俺は剣で弾き飛ばした。耐久力は恐ろしいが、攻勢に転じるにしてもやや単調。この辺りは奥に眠っている何かを護衛するため、防御面を強化されたのだろうか。


 氷が割れる。その直後、腕が仕掛けてくる前に俺は前に出た。


「なら、次は――」


 魔力を刀身に注ぐ。刹那、漆黒は突如闇を凝縮し、間合いを詰めようとする俺へ騎士として形を成し、対抗しようとする。

 接近戦の場合、騎士の姿に戻った方がいいと考えたのか――知性があるのかと疑問を抱きながら、俺は技を繰り出す。


 放ったのは、『無明睡蓮』と並ぶ長剣における最上級技――名は『レイン・ファンタジア』。連撃系に属するもので、固有技を除けばゲーム上で最も威力のある連続攻撃だ。


 最初の剣戟を、騎士は長剣を模した闇で防ぐ。とはいえ回避できたのはその一度きり。立て続けに放った剣戟をかわすことはできず、次々と叩き込まれていく。


『魔力が減っていくのがわかるぞ』


 ガルクが言う。ならば――俺はさらに攻勢に出た。

 連撃技が終了した直後、さらに勢いをつけて剣を繰り出す。まったく同じ『レイン・ファンタジア』を決めると、とうとう異形も根を上げ始めた。


『――オオオオオ!』


 雄叫び。ただその声は力強く、虚勢を張っているようには見えない。


 すると外部に放たれる魔力が膨らんだ。この部屋にいる俺達を魔力の奔流だけで叩き潰そう、などというくらいの勢い。だが俺は超然としたまま、今度は単発技の『無明睡蓮』を相手の胸部に決めた。


 吹き飛びはしなかったが、その体に大きく亀裂が入る。だがさらに魔力が膨らみ、俺を飲み込もうと闇が動く――ここで後退を選択し、様子を見ることにした。


『……ルオン殿は容赦がないな』


 嘆息でもするようにガルクが呟いた。


『ともあれ、今の攻防で大きく魔力が削られた。それほど決着は遠くなさそうだな』

「そうであってほしいけど」


 剣を構え直す。異形はまたも大きく形を変え、今度は天井まで届こうというくらいに膨張し始める。


「まったく、同じ形でいてくれれば楽なんだけど」

『こちらの都合は聞き入れてもらえないようだな』


 ガルクが皮肉げに言う。俺は苦笑し、今度は魔法攻めにしようと『ラグナレク』を起動する。

 その時だった――異形の先端がまるでランスのような形状に変化した。


 異形そのものが一つの武器となり、襲い掛かってくる。対する俺は防御するよりも早く『ラグナレク』を放ち、応じた。


 漆黒に光の剣が触れた瞬間、光と轟音が室内を満たした。こちらはさらに後退しながら気配を探る。光は異形へと収束し――やがて光が消えた時、デカイ図体に風穴を開けたのを確認した。


 ここまでで相当ダメージが溜まっているはず……それを表すかのように、異形の動きが鈍くなり始める。


「今のは、さすがに効いたみたいだな」


 呟くと同時、またも咆吼。俺の言葉に反抗でもするかのようなタイミング。

 俺はトドメを刺すべく、一気に魔力を高めていく。


『ルオン殿、次はどうする?』

「全力を出すのは間違いないが、それで倒せるかどうかはわからないな」


 そろそろ終わらせたいのは事実だが――ここで異形にまたも変化が訪れる。まるで漆黒が一つの生物のように固まり、俺の上背を一回り上をいく人型を形成。なおかつ右腕は、不自然なくらいに巨大。


「というか、こいつはどういう考えで変化している? 魔物を模したというわけじゃなさそうだが」

『不定形の魔物であるのは間違いなさそうだが、それ以外の詳細は調べてみないとわからんな』

「……ここで破壊する以上、検証は無理そうだな」


 異形が襲い掛かってくる。俺を押し潰すかのように、巨大になった腕を伸ばす。

 それに対抗するように、俺は二度目の『トールハンマー』を発動させた。雷光が俺の目の前で弾け、金色が一瞬で異形の体を包んだ。


 魔力が一気に喪失するような感覚。だが奥底から湧き上がってくるかのように、またも漆黒が轟く。


「際限ないように見えるけど……」

『確実に弱まっている。このまま押し切れ』

「了解、と」


 さらに魔法――異形はどうやら形成を立て直すべく魔力を使って再生してはいるようだが、それで精一杯という感じだろうか。


 もっとも、最上級の魔法や技を連発してこの結果なのだから、普通の人が同じことをやろうとしても無理だろう。後方にいるソフィア達でも上手くいくかどうか……と、考える間に異形にまたも変化が。


 突然、その漆黒が凝縮し始めた。新たな変化に対し俺はさらなる魔法を撃とうとしたのだが……今度は変化が急速であり、俺は攻撃をせず注視することにした。


 漆黒は着込んでいた鎧くらいまでの大きさとなる。相変わらず異常なほどの魔力を発散してはいるが、この変化に意味はあるのか。


『ふむ、いよいよ窮してきたか』

「何?」


 ガルクの呟きに、俺は眉をひそめる。


「魔力の量は変わっていないように見えるけど」

『表面上は、な。内部の魔力は確実に消費されている』

「終わりは見えているのか?」

『そう長くはないと思うぞ』


 人間と同じくらいのサイズに変化した漆黒は、ここで突如魔力を抑えた。威圧感が喪失し、まるで最初の時点に戻ったようにも思える。

 すると、右手をかざし長剣を生み出す。そこに、魔力を徐々に収束させていく。


「……学習しているっぽいな」

『ルオン殿に対抗するには、一点に力を集めた方がいいという判断か』


 まあ魔力が目減りしている状況でやるというのは、少し遅いような気もするが……。


「なら俺も、それに応じるか」


 こちらも魔力を刀身に注ぐ――ただ、単純に力を結集するだけではおそらく駄目だろう。ならば――


「ここで試してみよう」

『試す? 何を?』


 ガルクの問いに、俺は呼吸を整えた後、答えた。


「切り札の『創奥義』だよ。竜魔石の武器で満足に使えない可能性はあるけどさ……それでも、開発しておくべきだと思ってね。考えていた方法でどこまでいけるか……それを今ここで、試そうじゃないか」


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