竜精の力
俺が動くと同時、フォルファが魔力を両腕に集める。対抗手段と言っていたが、どういうことをするのか。
「先ほどの攻撃に対する礼として、こちらも見せてやろう」
なんだかやる気になったぽいな。俺にとっていいのか悪いのか。
魔力が収束していく。その具合を見るに人間のそれとは違う。
両腕に、らせん状の気流が発生しているように感じられるが――
「私の能力は極めて単純」
フォルファが語り出す。
「その力は身体強化を施すもの……先ほどの剣は見事だが、お前に耐えられるか?」
言葉と同時、飛ぶように駆けた。間合いを詰め、一気に俺へと肉薄する。
――ゲームにおいても、竜精の戦い方は高いステータスによるゴリ押しだった。特殊攻撃なども存在するが、驚異的なのはその攻撃力。一撃で戦闘不能に持っていくその能力は、ちょっとでも気を抜けばあっさりと全滅する。
単体攻撃中心なので、回復アイテムや魔法を使えば難なく対処できる――本来はそのはずなのだが、この竜精は違った。攻撃力が高く、あっさりと仲間が沈み、回復が追いつかないほどだった。
それが現実でも同じだとしたら……俺は受ける構えを見せる。
「ほう!?」
両腕に収束する魔力を見て狼狽えもしない俺に、フォルファは驚愕した様子。だが足は止まらない。そして拳と剣が――交錯した。
受けた瞬間、途轍もない衝撃が俺の両腕に到来する。高濃度の魔力衝突により、余波が周囲にまき散らされ、魔力のカケラが床などを打ち傷をつけていく。
「心配するなー」
ここで唐突に、アナスタシアの声が後方から聞こえた。ソフィアやロミルダについては問題ないということだろう。
対する俺は剣を握りしめ……完全にフォルファを押さえ込む。
「力についても、規格外というわけか」
冷静な声音でフォルファは言う。内心驚愕しているのか、それとも俺の能力に呆れているのか……今度はどう出る?
「ならば、これでどうだ」
まるで力比べをしているかのように、両腕の魔力がさらに高まる。この状態で押し返すつもりのようだ。
弾き飛ばされるのはまずい。俺も対抗すべく力を加える。ギリギリ、と剣と拳の鍔迫り合い。体力――もとい、魔力が先に尽きた方が敗れる。
ただ、こんな勝負一分や二分で終わるようなこともない。それこそ俺と竜精の魔力だと、どこまでもせめぎ合う。
フォルファとてさすがにそれは望んでいないだろう。ならばどうするか――相手は、愚直なまでに魔力を加える。
「……それ以上やったら、さすがにまずいんじゃないか?」
なおも体勢を維持しながら俺は告げる。
「魔力を収束しすぎて破裂なんて真似にはならないと思うが……」
「まあ、このままを維持し続けるのは相当負担になるだろうな」
そう言ってなお、俺を押し潰すがごとく力を加えてくる。少しでも剣を押す力を緩めれば――すっ飛ばされるだろう。
ならば、どうしようか……その時、背後から魔力が生じた。ガルクがロミルダに伝え、魔力収束を開始した。
「彼女がネフメイザという存在を倒す切り札、というわけか」
フォルファが理解したように声を発する。
「お前がネフメイザを押さえ、彼女でトドメを刺すというわけか」
「最終的にはそうなるかな」
「ならば、あの少女の力がどれほどのものなのかを証明しなければならないな」
……俺も彼女の全容を把握しているわけではないので、不安があるのも事実だった。けれど、次第に力が集まり――俺の予想を超えた魔力収束を背中で感じた時、これはいけると確信した。
「……どうする?」
俺はフォルファに問い掛ける。
「まともに食らえば、タダじゃ済まないんじゃないか?」
「そうかもしれないな」
余裕の表情を見せる竜精。まだ驚愕させるには遠いということだろうか。
さて、フォルファを俺の力により押さえているわけだが……準備が整うまでこの状況を維持し続けるのも一つの手。ただフォルファとしてはそれは避けたいだろう。となれば、均衡はそれほど経たずして破られる。
そう思った直後、フォルファが一気に退いた。俺は追撃を仕掛けるべくさらに迫ろうとするが、さらに後ろに下がり距離を置こうとする。
追随しようかとさらに足を前に出そうとして――フォルファが立ち止まる。直後、足に魔力が収束するのを感じ取る。
狙いは……相手を注視した直後、いきなり視界から消えた。けれど反応はできる。体を一瞬で傾け、横へ移動し俺をすり抜けようとする――
「させるか!」
即座に追随。フォルファはそれでもなお突き進もうとするが、俺はそれを剣を薙ぐことによって押し留める。
「狙いはロミルダってことか」
「彼女に力があるとわかれば、狙うのは当然だろう? まして、これだけ時間が掛かるのならなおさらだ。ネフメイザもそうするだろう」
もっともな話。フォルファは俺達を試しているようで、また同時に導いているようにも思える。
けれど、この戦いには勝利しなければならない……そう思った矢先、とうとうロミルダの技が完成した様子。
「さて、どうする?」
フォルファが問う。後は目の前の竜精に当てなければならない。
魔法で拘束する、あるいは先ほどのように力で無理矢理押し留めるとやり方は様々ある。どの方法でもよさそうな気はするが、フォルファとしてはどういうやり方が一番納得いくだろうか。
しばし、沈黙が生じる。ソフィアやアナスタシアも事の推移を見守るようで、無言に徹し俺が次にどう行動するかを観察しているのがわかる。
力押しで動くにしてもフォルファとしては先ほどの力がある以上、いくらでもやりようはあるか。ネフメイザがどのような策を用いてきても大丈夫な一手。それを示す必要がある。
なら、どうするべきなのか――俺は頭の中で算段を整え、
「レスベイル」
精霊を呼ぶ。背後に出現すると、フォルファが興味深そうに視線を送る。
「契約したものとは少し違うな」
「色々あって、自前の精霊を生み出すことになったんだよ」
「それもまた無茶苦茶だな」
彼女が応じる間に、レスベイルが動く――俺はこの精霊を利用し、色々できないかという検証を旅の中でしていた。
その一つを見せ、フォルファを納得させることにしよう。
「魔力も精霊とお前で分離しているのか。なるほど、厄介だ。しかし」
レスベイルが大剣を振り下ろす。それをフォルファは、わざと受けた。
「竜魔石の力はない。やはり通用しないぞ」
「わかっているさ」
魔法詠唱開始。これにはフォルファも反応を示したが、レスベイルが仕掛けてくるためか、切り結ぶ。
「今度は精霊を用いて時間稼ぎか?」
問い掛けた矢先、俺は魔法を放つ。
「封印の光鎖よ――全てを閉ざせ」
刹那、俺の周囲に色とりどりの縄を模した光が出現する。
「ほう、なるほど」
フォルファも理解したのか、呟いた。
俺が使用した魔法は『イモータルチェーン』という拘束魔法。光属性の上級魔法に分類され、相手を拘束する魔法の中で最も効果が高いもの。ただゲームではほとんど使わなかった。一定時間相手を拘束――ボス以外が対象となる上級魔法にふさわしい効果なのだが、魔法を維持するキャラが動けなくなり、なおかつ敵も魔法は使ってくる。よってそれほどメリットはない。
だが、今の俺ならば――そう考えた直後、光がフォルファを取り巻き、拘束に成功した。




