認めさせる方法
アナスタシアが発言するというのは、内心嫌な予感がヒシヒシとしたのだが……俺が何かを言う前に、彼女は話し始めた。
「例えば、そうじゃな……おぬしが望むものを提供する代わりに、こちらに協力というのは?」
「そんな物はない」
「では、何か願いなどはあるか?」
「私は何も願うことはない」
「ふむ、ならば今何を望む?」
「お前達がこの場から立ち去ることだ」
……会話をするたびに竜精の表情が険しくなっていくんだけど。
果てしなく嫌な予感がした。会話内容もこちらの言葉に梨のつぶてであるのは確定。アナスタシア、どうするのか――
「わかった。ルオン殿」
「ああ」
「懲らしめてやれ」
「早すぎるだろ!」
思わずツッコんでしまった。
「あきらめるなよ!」
「そうは言うがな、こっちが善意で申し出ているのにそれを全てはね除けられてしまう。他に手段がないじゃろ」
「いや、ちょっと待ってくれよ……」
今度は俺が前に出る。
「……俺達の存在が不快に思うのは無理もない。けど、話を聞いてもらえないか?」
「聞くだけならば」
「あんたはさっき、この迷宮がどうなってもいいと言った。とはいえ、こうした特殊な空間が大陸にそうあるわけがない。そうだろ?」
「一理あるな」
「そうだ。つまり、平穏を維持するためには将来くる可能性が高い脅威を排除すべきだと思うんだ」
「来ない可能性だってある。来た時に考えればいい」
「だが、敵が押し寄せてきた時点でもう遅いと思わないか?」
「……私に対処できず、滅んでしまうと考えているわけか?」
「そうだ。あんただってさすがに死ぬのは嫌だろ? なら、そうした障害を協力して排除すべきだと思わないか?」
竜精は長考を始めた。よし、いい傾向だ。
「あんたが外に出たくないというのはなんとなく理解できるよ。けど、大陸の状況はそれを許さないような形になってきている。俺達と協力してもらえれば、長くとも一ヶ月……それで事は済む。その期間だけ、協力してもらえないか?」
「私は何をすればいいのだ?」
「……竜精であるあんたの力を活用して、人間と連携する」
説明を開始。もし他人の体に入るということを不快に思うのであればこの時点で戦うことになってしまうわけだが――
「人間と竜精が、というわけか」
「ああ。あんたが知っている竜精も協力を申し出ている」
「うむ、事情はわかった」
お、協力してもらえるのか……沈黙していると、竜精は発言した。
「しかし、そういう話ならばお前達が敵を打倒するに足る存在なのか判断する必要があるな」
……結局、そうなってしまうのか。
「実力については、ここまで到達したことで一定の証明になっていないのか?」
「不十分だ。ネフメイザとかいったか? その存在が講じる策は相当なものであるようだな……私が協力するにしても、この力を扱えるだけの資質が必要だ。活用されず死んでしまうなどという事態は、笑い話にもならん」
その通りだが……竜精はさらに続ける。
「お前の後ろにいるソフィア……だったか? 彼女の能力が高いことは私にも理解できる。確かに連携するのならば、私としても申し分はないだろう。だが、問題はネフメイザとやらの野望を止められるかに掛かっている」
……だんだんと話が見えてきたぞ。
「私の役目は彼女と連携するわけだが……彼女はネフメイザと戦うことにならないかもしれない。つまり、この私の力を利用して首謀者を討ち果たすというわけではないということだ」
「……その可能性は高い」
「ならば、そのネフメイザの策を打ち破れるだけの力をお前が持っているのか……つまり、この賭けに乗っていいのかを証明する必要があるはずだ」
「うむ、結局戦闘じゃな」
嬉しそうに語るアナスタシアがむかつく。
「……わかったよ。証明できれば終わりか?」
「どう判断するかは、私が決める」
ゆらり、と竜精が体を動かす。納得させなければならないってことか。
圧倒的な力を見せつけて――と考えたが、竜魔石の力を用いて対処できない以上、竜精は「どれだけ力を有していても、それでは意味がない」とか言われそうな気もする。
ちょっと頭を使う必要が出てきたかも……さて、どう動くべきか。
「ルオン殿、いいのか?」
アナスタシアが確認の問い。俺は小さく頷き、
「ああ……ま、頑張るさ」
竜精が軽く腕を回す。やる気満々のご様子。と、ここで一つ気付いた。
「そういえば……名前を聞いていなかったな」
「私の名はフォルファだ」
「フォルファさん、ね……認めたら、協力してもらうということでいいのか?」
「約束しよう」
その言葉と同時――竜精、フォルファとの戦いが始まった。
俺は即座に詠唱を行い、まずは剣を生み出した。腰の剣を使わないと理解した直後、フォルファは眉をひそめる。
「竜魔石を利用したものではないな」
――まずは、最高の一撃を放って相手の反応を見よう。俺は長剣に魔力を収束させ、渾身の一撃を放つ。
使用したのは長剣最上級技――『無明睡蓮』。あっという間に刀身へ魔力が注がれ、部屋内に振動すら生じさせる。
その魔力の大きさに、フォルファの表情も変化した。凄まじい力――竜精にとってまさしく規格外の力に違いなかった。
そして一瞬で間合いを詰め、振り下ろす。
「ぐうっ……!?」
フォルファは反応し防御したが、それだけだった。斬撃を叩き込まれ後方に吹き飛び、壁面に叩きつけられる。
それだけではなかった。衝撃が竜精を通し背後に抜け、ガガガガと轟音を響かせ壁面中にヒビを入れる。
「おおっ……! とはいえ、これはさすがにやり過ぎか?」
アナスタシアが驚愕の声を発する。語る間もヒビが壁や、床面にすら入り始め――やがて止まった。状況は一変し、部屋の半分は無残な姿へ変貌する。
さすがにちょっとやり過ぎたか……まあ、部屋がつぶれなかっただけよしとしよう。
「……なるほど、な」
フォルファが言う。竜魔石を使用していないので、当然ながらダメージはない。
「その魔力が、首謀者を討てるという根拠の一つか」
「まあ、なんというか……相手を上回るための方策の一つではあるのかな」
「だが私には通用しない。竜魔石の利用はできない様子……その魔力を受けることができず、作られた剣では本来の力を発揮できないといったところか?」
俺は何も答えないが――肯定を意味する沈黙だ。
「確かにその力があれば……と、考えるところだが、それを利用しても首謀者は時を巻き戻したと考えるべきであり――今まで逃げられている。他に首謀者を上回る何かが欲しいところだな」
不十分――ネフメイザを直接討つための方法が見たい、といったところか。
「予定を変更して、私が協力しネフメイザとやらを倒すという手段もあるはずだが?」
「……どうするかはわからない。だが、ネフメイザに対し限界まで裏をかこうとすれば、ギリギリまで相手が思い通りにいっているという認識をさせたいところだ」
「つまり、私の提案は一つの手段であり、採用するかはわからないと」
……方法はある。戦いのことを記した資料には、俺とロミルダがネフメイザと相対したと書かれていた。彼女がフォルファを討ち果たせるだけの力――もしくは、認めるに足る力を示せば、承諾してくれるはず。
問題は、ロミルダが現段階でどれだけの力を所持しているのか全容を把握しきれていないこと。皇帝の竜魔石を取り込んでいる以上は並大抵の力でないのはわかっているが――
『……少女は一度修羅場をくぐりぬけている。信じてもいいのではないか?』
ここでガルクの声が。俺の考えと同じのようだ。
「了解……ガルク、伝令役を頼まれてくれるか?」
『いいだろう』
返事を聞いた直後、俺は剣を構え直す。
「先ほどと同じ技か?」
フォルファが目を細めた。
「これ以上部屋を破壊されてはたまらないな。こちらも対策を講じさせてもらうぞ」
「ああ、構わないさ……けど」
一呼吸置いて、俺は宣言する。
「その対策も、この力で消し飛ばすさ――」




