迷宮に隠された力
まず襲い掛かってきた悪魔に対し、俺は容赦なく水平斬りを放つ。アナスタシアと同じような攻撃。意図したわけではないが、あれだけ見事な攻撃だったので、影響を受けたのかもしれない。
悪魔は防御したのだが、それを平然と無視し体を両断。断末魔の悲鳴を上げることすらなく、消滅という結末を迎える。
「さすがじゃな」
後方から喜悦を大いに含んだ侯爵の声。それを無視し、俺はさらに剣を振るう。
一方ソフィアもこのくらいの魔物ならば余裕らしい。俺と同じ悪魔を縦に一刀両断した後は、続けざまに後方に控えていたデュラハン型の魔物と向かい合う。
鎧そのものである相手では、一撃というのはさすがに難しいか……などと一瞬思ったが、懐に飛び込んで斬撃を叩き込むと、轟音と共に魔物が吹き飛ぶ。
そして鎧が大いに破壊され――動かなくなった。
「思ったよりも柔らかいですね」
……魔物にとってはキツイ評価だろうな。
「二人に任せると怖いものなしのようじゃな」
さらに後方から侯爵のコメント。ちょっとやりにくさを感じながらも、俺は通路の先を確認。後続から魔物がやってくる。
ただ、大量に押し寄せてくるというよりは、断続的に来るといった感じだ。この魔物が最奥の存在に操られているのかわからないが、動きはあまり活発ではない。
さらにその質は、今まで大陸を回ってきた中で最も高いのは事実。ユスカやカトラでは対応できないところもあるだろう。
しかし、俺が予想していたのとは異なっている。本来はもっと強化されているはずなのだが――
「また来ましたね」
ソフィアが言う。見れば、直進してくるオーガの姿。
「先ほどのリッチ以外、直接攻撃系ばかりですね」
「確かに。こっちとしてはやりやすいけど」
返答しながらも迎撃開始。攻撃をすり抜けるようにして一閃。魔法などを使う必要もないレベル。
端から見れば圧倒しているように見えるわけだが……後方でアナスタシアが視線を送っているのがわかる。ただ俺も全力にはほど遠いので、彼女としてはいつ本気が見られるのか期待している、といった感じだろうか。
続けざまにソフィアもオーガの攻撃を軽やかにかわし、反撃。頭部を狙った刺突。ケーキにフォークでも刺すようにあっさりと頭に剣が入り――消滅した。
「うむ、見事」
アナスタシアからまたも称賛の声。それに俺は肩をすくめた。
「魔物の質が想定よりは低いこともあるよ」
「ほう、これでも低いのか。しかし野にいる魔物と比べれば相当高いぞ?」
「物語の中ではもっと強いのがいたんだよ」
語る間に、俺達の前に左右に分かれる通路が現れる。正解は確か左だ。
「こっちに」
呟き先へ。と、ここでアナスタシアが発言した。
「魔物の質については、この迷宮の特性があるのかもしれん」
「特性?」
「わしは入ってすぐにわかったのじゃが、どうもこの迷宮は、外部から魔力を取り込むような性質がある様子」
侯爵は俺に視線を送った。
「現在、ルオン殿が知っている迷宮と比較し魔物が弱いということは、何か経緯があって強くなるのじゃろうな。考えられるとしたら一つか」
「それは?」
聞き返すと、アナスタシアは笑みを浮かべる。
「原因は、そうじゃな……物語の中でここを訪れるタイミングというのはいつの話じゃ?」
「戦いも終盤に差し掛かった時だ」
「ならば明瞭じゃろう。ネフメイザとの戦いはそれこそ大戦乱とまではいかないものの、わしら侯爵とのぶつかり合いで魔力にも大きな変化が生じた。それにより迷宮の魔物も強くなった」
ということは、現在はそれほど魔力的な変化がないということだろうか?
「アベル殿の反乱組織が窮地に陥っていたように、ネフメイザが終始有利な戦いを進めてきたことは事実。それにより軍事衝突なども少なかったが故に、こういう状況となってしまったのではないか?」
その辺りが理由か……と、ここでソフィアが口を開いた。
「しかし、そうであってもこの大陸内においては質の高い魔物だと思います」
「一撃で粉砕しておいて、よく言う……ま、これは元々の魔力が多いからということじゃな。奥にいる竜精が発する魔力の影響で強くなっているとしたら……期待してもよいな」
『――しかし、変わった場所だな』
唐突に、今度はガルクが右肩に出現した。
「あ、ずいぶんと久しぶりだな」
『ルオン殿がそれを言うか……黙っていたのは色々試行錯誤していたのもある』
「試行錯誤?」
『シェルジア大陸にいる我の本体が、色々と動き出しているのがわかった。もしかすると、連絡がとれるかもしれん』
「お、朗報じゃないか」
『うむ、動いているという連絡が一方的に入ったので、どうにか本体と記憶を共有できないか試していた』
「で、結果は?」
『現時点ではできていない。しかし、可能性はありそうだ』
……ガルクの努力で連絡手段構築の問題は解決するかもしれない。
「もしそれができたら、ネフメイザの魔法については進展があるかもしれないな」
『結論が出たら再度話そう……話を戻し、この迷宮だが、ずいぶんと変わった魔力に満ちている』
「天使の力を持った竜精ですから、当然でしょうね」
ソフィアの意見。ガルクは一度頷いたが、まだ続きがある様子。
『それだけではないように思える……説明が難しいのだが』
「それは、もしや」
アナスタシアが声を上げた。
「竜魔石のような物がある可能性は?」
『判断は難しいが、確かにそういう魔力源が存在する可能性は否定できんな』
爛々と瞳が輝くアナスタシア……ゲームにおいてこの迷宮は宝の宝庫だった。けど魔王との戦いを通じて入り込んだダンジョンとかで、そういう物が見つかった試しはない。
とはいえここは形は違えど天使の遺跡のような場所。竜魔石という宝物が存在している可能性は十分にある。
「それを先に調べるか? それとも、ひとまず奥へ向かうか?」
俺が問うと、アナスタシアは「奥へ」と言った。
「余力があるうちに最奥の存在と戦うべきじゃろう」
「……一応言っておくけど、戦わずして説得する方がいいんだからな?」
「おぬしが言う最悪のケース……戦闘に入るパターンも念頭に置くべきじゃろう」
そうなのだが……まあいい。俺は彼女の意見に従うことにして、先へと進む。
見覚えのある分岐を通り、階層が深くなる。そこにおいてまたも魔物。今度は俺とアナスタシアが前に出た。
「連携といきたいところじゃが、さすがに難しいかのう」
「やってみないとわからないな」
言葉と同時、俺とアナスタシアは同時に剣を振るう。相手は今までと同じオーガやデュラハン。当然、両者の剣は一撃で魔物を両断する。
さらに後続からやってくる魔物に対しては、ロミルダの光が撃ち抜いた。さらに通路からやってこようとする魔物に対しては――突如、両手をかざす。
俺とアナスタシアは息を合わせたように左右に逃げる。魔物との間に空間が生じ、ロミルダは光を真正面に生み出した。
しかもそれは――剣とか槍とかそういう類いのものではなかった。一言で言えば、天使――それを象った光。
魔物に断罪するべく天使が恐ろしい速度で突撃する。魔物は応じることができず、その身に攻撃を受けた。俺からはまるで、天使が敵に抱擁するように映った。
発光が周囲を包む。見た目とは裏腹に爆音などはそれほど生じず――視界が元に戻った時、既に魔物は消失していた。
「見事じゃ。ロミルダも戦力として十分じゃな」
アナスタシアが断定。俺は同意するように頷き……まだロミルダは余力があるように見える。
皇帝の竜魔石の力……それをどこまでロミルダは体得しているのか。多少気になりつつも、俺は先へ進むべく足を踏み出した。




