指導役
カトラとシャスタが悪戦苦闘している間に、日が暮れ始める。どうしようか考え始めた時、シャスタが修行をやめて俺達に言った。
「今日は泊まっていくといい」
「……あの小屋に全員眠れるスペースがあるのか?」
「女性三人はきちんと泊めよう。男どもは知らん」
コイツ……俺はリチャルに顔を向け、
「竜を呼べるか?」
「可能だが」
「待て待て。竜精に関してもう少し話すべきこともあるだろ。きちんともてなすし」
なんだか「泊まっていって欲しい」という雰囲気だな。久しぶりに客人が来て、嬉しいのかもしれない。
「ちゃんともてなすから。今日はそうだな、野菜や肉をたっぷり煮込んだ鍋にしよう」
食べ物で釣るのか。けど、竜精についてはもう少し話すべきだろうし、いいか。
「わかったよ。他の面々もそれでいいか?」
「私はルオン様に従います」
「うん、ルオンお兄ちゃんに従う」
「俺も構いませんよ」
「私も」
「ルオンさん、別にいいんじゃないか? 明朝出発できるよう、竜は呼んでおく」
口々に同意の言葉を述べたので、俺はシャスタに告げた。
「じゃ、そういうことで……とりあえず、夕食にしようか」
「うむ」
はりきった顔をして、シャスタは頷いた。
狭い小屋の中より開放的な場所で食事をする方がいい、ということで外で食べることに――たった一人で暮らすのにこんなサイズ必要なのかというくらいデカイ鍋を囲み、俺達は夕食をとる。鍋に野菜やら肉やらいろんなものが投下され、それをグツグツ煮込んだだけのものなのだが……正直、美味い。
「さっきの模擬戦で、竜精の力を利用し他者の能力を強化できることは実証できたな」
シャスタがトロトロに煮込まれた肉を口に放り込みながら言う。
「ネフメイザの野望を止めるのならば、ヤツの裏をかく必要があるだろう。この竜精と手を組むという手法は、意表を突くには最適だな」
「なら――」
「ただし、ここでヤツに逃げられてしまえば同じ手は通用しなくなるわけだ。野望そのものを止めるため、今回の戦いで仕留めたいところだ」
俺は深く頷いた。ソフィア達もまた同意を示す。
「で、ルオン殿。今後どうするかは考えているのか?」
「……あんたを通じて他の竜精の協力を得られるのなら、できれば話を通してもらいたいんだけど」
「心当たりはあるが、協力してもらえるかは微妙だな。中には帝国の人間と繋がっている者もいる」
「それはさすがにアウトだな……あ、そういえばネフメイザはそういう竜精に協力を仰がないんだろうか?」
「実際動いていない以上、相互不干渉か面倒なので関わりたくないのか、どっちかだろう」
そういうことなら、こっちとしては竜精探しの邪魔にならないので好都合か。
「ふむ、候補は多少なりともいるが……ユスカさんとカトラさんはこの手段を用いるということで確定なのか?」
「まだ検討段階だからなんとも言えないけど……シャスタさんが協力してくれるなら、カトラについては解決する」
「なるほど。ま、いいだろう。私も興味が湧いているし、ネフメイザが大陸を征服なんかしたら私の生活も窮屈になりそうだ。協力しよう」
あっさり……ここで俺が発言。
「ただし、今後カトラと鍛錬するのはエクゾン侯爵の屋敷にしてもらいたい。訓練によりカトラに何かあっても対応できるような態勢の中で頼む」
「うん、それが無難だな……で、この手法について問題点を上げよう」
シャスタは器を地面に置いて俺達に話し始める。
「人数集めるのが大変、というのは仕方がないとして……多少なりとも相性の問題だってあるかもしれない」
「竜精であるあんたにそういうのはわかるのか?」
質問に、彼女は目を細める。
「わからないというわけじゃないな。ユスカさんとカトラさんを比べると、カトラさんの方がよさそうだ、と直感的に思ったくらいだから」
皇帝候補、ということが関係しているのか? ただ、これは逆を言うとそのくらいの素質がないと竜精の力は得られない、ということに繋がるのだろうか。
カトラのように皇帝候補の力に関係する人物でなければ難しいとなると、やり方を考えなければならないし、ソフィアについても他の対策を講じる必要がある。
そう考えた時、シャスタから驚きの発言が。
「次によさそうだと感じたのはソフィアさんだった。この大陸の出身者ではないが、私と組んでも結構いいんじゃないか?」
「ソフィアと?」
「ああ」
頷くシャスタ。その言葉を全面的に信じて良いかわからないが……個々が持つ魔力の特性か、はたまた魔力量などが関係しているのだろうか。
ただ、そうなるとソフィアに対する策も機能する可能性が高いか。
「実は、ソフィアについても同じようにするつもりなんだ」
「ほう、候補はいるのか?」
「ああ、彼女には重要な局面を任せることになるだろうから、とびっきりの竜精を……アナスタシアの領内に、大きな森林地帯があるだろ」
「うむ」
「その一角に、地下迷宮があるのを知っているか?」
突如、シャスタは笑い出した。知っているみたいだな。
「あそこの竜精は知っているぞ。一度だけ目覚め、話をしたことはあるが、正直協力してくれるかはわからん」
「だけど、力は持っている……だろ?」
「確かに。私が知りうる中で最も力を持った竜精だ。天使混じりだが。まあヤツならばネフメイザと繋がっているわけでもない。相性については考慮する必要はあるが、行く価値はあるな」
「そこに、次は向かうんですか?」
ユスカが尋ねる。だが俺は首を左右に振った。
「悪いが、ユスカ達は連れて行けない」
「かなり危険な場所だということですか?」
「俺とソフィア……あとは山の戦いから考えると、ロミルダか。あ、ソフィアも課題は残るか。竜魔石の力が必要になる局面もあるだろうから、現在持っている武器でどこまで対応できるか」
「それについては一つ案があるぞ。彼女の剣を渡してもらえないか?」
シャスタの唐突な提案。ソフィアは少し沈黙した後、彼女に剣を渡した。
「ふむ、エクゾンはなかなかの物を渡したようだな……これをこうすれば」
彼女はおもむろに指で剣の腹部分をなぞり始めた。その指の軌跡に合わせ、刀身に青い文様が刻まれていく。
「……魔力を注入しているのか?」
「ああ。魔力保有量なんかを底上げできる」
お、それはいいな。俺は自分の腰にある剣を渡そうとしたが、
「ルオン殿は無理だな」
あっさりと断られた。
「って、おい。せめて検証くらいは――」
「規格外の魔力を抱えるルオン殿の場合、私が何かやっても大して変わらん。ソフィアさんについてはエクゾンがうまーく調整してあるから、対応できる」
……不服ではあるが、俺はこれでやるしかないってことか。
「しかし今回向かう迷宮ならば、ルオン殿も活躍できるだろう」
「奥にいる竜精を倒すのに、か?」
「うむ」
……侯爵との戦いや、魔王との戦いで神霊を従えたのと同じやり方だな。倒せないからこそ全力を出せる。
「確認だけどその竜精は、竜魔石の力がなければ倒せないんだよな?」
「私くらいだと普通の攻撃でも通用するが、ヤツの場合はそうもいかんだろう」
「なら、存分にやらせてもらうよ」
「……できれば間近で見させてもらいたいが、私の方はやるべきことがあるからな。屋敷で頑張ることにしよう」
シャスタはカトラとユスカに目を向ける。
「ルオン殿、私が二人を指導しよう。カトラ君は私との連携強化。そしてユスカ君は騎士としての技量があるから、そこをみっちり鍛えよう」
おお、なんだか迫力がある……というか、楽しそうだな。
ユスカとカトラはどういう訓練を想像したのかわからないが、若干顔を引きつらせた。お手柔らかに、といった感じだろうか。
「で、ルオン殿はさっさと目的の竜精を従えればいい」
「……正確に言うと、従えるのは俺じゃなくてソフィアなんだけどな」
「どちらでも変わらないだろ。叩きのめせばきちんと従ってくれるはず」
扱いひどいな……俺は嘆息した後、言った。
「なら……次に俺達がやることは、迷宮に奥にいる竜精と会うことだな」




