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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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強化案

 室内はそこそこ熱気もあったが、外はひんやりとしていて今の体には気持ちよかった。庭園まで来ると、ソフィアは何気なく夜空を見上げた。


「……まさかこういう場所でドレスを着ることになるとは思いませんでしたよ」

「まったくだ。俺もこんな格好をするとは思わなかった」


 嘆息すると、ソフィアは笑った。


「大変似合っていますよ、ルオン様」

「どうも……ソフィアも似合っている」

「なんだか、照れくさいですね」


 互いに笑う。彼女が従者ということから、こうやって褒め合うなんてなかったからな。


「……さて、ソフィア。話ということだけど」

「はい、ルオン様も推測されているとは思いますが……戦いの話です。どうやら私が死の淵に立たされるようですね」

「まだそうと決まったわけじゃない」

「しかし、ロミルダの態度から察するに、それに近い状態ではあるのでしょう」


 ふう、と息をつくソフィア。


「不安はあります。しかし死ぬ覚悟というのは、ルオン様が救っていただいたあの牢獄で経験していますから、それほど衝撃は大きくない」

「そっか」

「ただ、これだけは言っておこうかと思いまして」


 そう前置きをしたソフィアは、顔を引き締めた。


「頼みがあります。ルオン様が私に対し策を講じるのは理解できます。しかし――」

「もし自分の身に何かあっても、無視して作戦は遂行しろってことか?」


 先んじて問い掛けた彼女の言葉が止まる。


「言いたいことはわかるよ。ネフメイザを打倒することを優先すべきであり、自分のことは後回しにしろと」

「はい」

「それは駄目だ。ネフメイザも倒し、ソフィアのことも守る」


 明言に、ソフィアは沈黙する。


「……本当は、ソフィアを戦わせないようするのが安全なわけだが――」

「私は戦います」

「そういうことだな。だから俺は、ソフィアのことを絶対に守ると約束する」

「――それは」


 彼女は、どこか躊躇いがちに問う。


「私が、バールクス王国の王女だからですか?」

「もちろんそうした理由もあるよ。けど、一番の理由は――」


 言葉が自然とこぼれる。目の前のソフィアがドレスで着飾りいつもと異なる雰囲気を発していたためか、それとも宴の熱気に当てられたか。

 ともかく、俺は言おうとした。しかし――


「ま、待ってください!」


 唐突に、ソフィアが制した……え?


「わ、わかりました……私も、ルオン様のやり方に応じられるよう努力します」


 ……こっちが拍子抜けだった。いや、あの。


「ソフィア?」

「な、何でしょうか?」


 狼狽える姿も珍しいな……それでいてこっちの言葉をどこか警戒している。きっとさっきの続きを話そうとしても、止められるんだろうな。


 ちょっと戸惑ったけど……仕方なく、別の話題を口にすることにした。


「ソフィアのことについては……一応案はあるんだ」

「案、ですか」

「けど、侯爵達にしてみれば無茶苦茶なんだろうな」


 そう前置きをする俺。ソフィアも表情が真面目なものになる。


「この大陸には精霊はいない……が、それに近い存在がいる」

「そうした者と契約すると?」

「契約……まではいかないと思う。精霊のように決まった契約方法があるわけでもないから」

「どういった方なのですか?」

「この大陸では『竜精』と呼ばれている。竜人が精霊のように変化した存在だ」


 どういうメカニズムでそうなるのかは完全に解明されているわけではない。ただ、竜精という存在が生まれるのは事実で、力の大きな者がそこに至るケースが多い。


「なるほど……その力を精霊のように利用して、ということですか」

「このやり方は物語の中にもなかったから、成功するかどうかもわからないけど……もし使えるのなら、短期間で戦力増強できるのは間違いない」

「五人の騎士に対抗する戦士についても、同じような方法を?」

「いや……例えばアベルさんは現時点で既に実力があるから、しっかりとした装備があればなんとかなるはずだ。ユスカとカトラが問題だな」


 俺はここで一度言葉を切り、頭の中を整理しながら話す。


「ソフィアについては、協力してもらう竜精も強くあるべきだと思う。これについても候補は一応あるんだけど……」

「何か問題が?」

「そいつは竜精の中でもとりわけ特殊だからな。天使の力も混ざっている」


 ――そいつがいるのは隠しダンジョン的な扱いの迷宮。その竜精自体はなぜそうなったかという理由付けをなされていたため、現実となった今でも存在はしていると思う。


「ただ、本当にできるかもわからないから、現段階では案の一つと考えてくれ」

「わかりました……しかし」


 と、ソフィアは語気を強くする。


「そういう手段こそ、ネフメイザの裏をかけるのではないでしょうか?」


 ――確かに、そうだな。


「ただ問題は山積みだ。天使混じりのヤツについては、封印から目覚め侵入してきた俺達に喧嘩を売る。で、最終的に倒して終了だけど……交渉できるかどうかもわからない」


 けれどソフィアの言うとおり、やってみる価値はある。


「ルオン様、ならば明日はそこへ?」

「いや、まずはユスカとカトラの方かな。これについては侯爵達とも相談しようかと思う」


 宴の後にでも、などと考えていたのだが……酒を飲み続けた両者に思考能力は残っているのだろうか。


「あとは、こちらの活動がバレないように行動、ですね」

「そうだな」


 頷いた後――ソフィアは苦笑する。


「ルオン様」

「ん?」

「申し訳ありません、私のために」

「俺にとって当然だよ。気にしていない……それに」

「それ以上は、いいです」


 ソフィアは笑う。なんだか誤魔化された感があるけど……その表情を見れば、不安は取り除かれたようなのでよかった。

 会話も終わり、俺達は会場に戻る――そうして宴の時間は、ゆっくりと過ぎていった。






 宴の後、アナスタシアやエクゾンと話をする。明日以降どうするかということについて。ちなみにだが、あれだけ飲んだのに両者ともケロリとしていた。


「アナスタシアの方はあれだけ絡んでいたのに」

「言っておくが、わしは酔わんぞ」


 ということは、あの会話も素面同然で喋っていたということか。余計タチが悪い。

 ま、いい。ひとまず俺はソフィアと話をしたことについて伝える。すると、


「……ルオン殿は本当に荒唐無稽じゃの」

「荒唐無稽……」

「少なくとも、わしらには考えつかん。これはシェルジア大陸……精霊の大陸に住むおぬしら独自の考え方なのかもしれん」

「確かに、私達は竜魔石の力を引き出すことばかりに気を回してしまうな」


 アナスタシアに合わせ、エクゾンが言う。


「そして、物語の中で存在していた迷宮か……面白そうだ」

「魔物の質についても高い。激戦になるのは必至で、人選を考慮しないといけない」

「ならば、そこに向かう場合はわしも同行しよう」


 アナスタシアの言葉。彼女の領内の存在する迷宮なので、同行することに違和感はないか。


「明日、そこに行くのか?」

「いや、ひとまずユスカとカトラの能力底上げかな。そもそも竜精を俺が考える通りに扱えるかどうかもわからない。その検証が先だ」

「うむ、そうじゃな……ルオン殿の案はやってみなければわからん。それが実戦で扱えるのかを確認するにも、できるだけ早い方がいいじゃろう。ならば」


 一度座り直し、アナスタシアは言う。


「わしの領内に、親しくしている竜精が存在しておる。まずはその者と話をしてみるといい。それなりに知識もあるため、検証できるじゃろう」


 お、それは朗報だ。


「紹介状を渡そう。それと、場所は山岳地帯なのだが、結構魔物がおるから、ユスカとカトラの二人を鍛えるのに最適じゃろう」

「魔物は強いのか?」

「ルオン殿やソフィア王女のフォローがあればなんとかなる。問題は質よりも数じゃな。いつ何時襲われるかわからんような厄介な場所じゃ。しかし、それ故に一気に成長することができよう」

「なら、まずはそこへ向かうことにするよ」


 こちらが明言すると、侯爵達は頷いた。


「で、そっちはどうするんだ?」

「わしは領地に戻り、資料に基づき動くとする。エクゾンはアベル殿の名声を高めるのだったな」

「ああ。どういう状況であれ、そこは外せない。心配するな、元々一ヶ月程度で終わらせるつもりだった。予定は変わらん」


 エクゾンは笑みを浮かべる。なんだか怖い。

 ま、地位向上については彼に任せるとしよう。ひとまず方針は決定した。あとはネフメイザに気取られないよう行動することが重要だ。


「明日以降は、常に緊張感を持たないとな」

「頑張れ、ルオン殿」


 どこか面白そうに語るアナスタシア。俺は肩をすくめ――夜は更けていった。


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