力の集約
「状況を理解したようじゃから、いよいよ本題に入るとしよう。わしがこの一連の情報を得て、まず考えたのがネフメイザのやり方じゃ」
「やり方?」
聞き返した俺に、アナスタシアは頷く。
「資料をしたためたリチャル殿は、四竜侯爵が一斉に集ったが故に人造竜などを用いて対抗した、とある。それを防衛するべくルオン殿を始めソフィア王女が立ち上がったということのようじゃが……これは誤りだと思うのじゃ」
そう告げたアナスタシアは、苦笑に近い笑みを漏らした。
「ルオン殿、資料にはネフメイザが最終決戦に備え準備をしていると書かれているな?」
「ああ」
「これは両者の思惑が一致していると考えることができる。ネフメイザとしてはギリギリまでわしらを倒せる戦力を集めたい。そしてルオン殿達は、できるだけ犠牲者を少なくしたい」
「その通りだ」
「そこをネフメイザは利用したと考える」
利用? 疑問に思う間に、アナスタシアは見解を述べた。
「リチャル殿が書いた資料には、最終決戦に備え準備したと書かれているわけじゃが……それは異なり、実はその準備こそ、ルオン殿やソフィア王女を抑えるための準備なのではないか、とわしは考える」
……は?
「いやいや、いくらなんでも――」
「資料を一読した時はそんなこと思いもしなかったのじゃが……この戦いの鍵を握る三人のうちの二人じゃ。あきれるほど繰り返したことにより、ネフメイザはそれだけの戦力を傾ける……そういうことなのではないか、と思う」
「俺に対して、か……ちなみに、鍵を握るもう一人は誰だと思うんだ?」
「ロミルダじゃな。力を目の当たりにしてわしはそう断定する」
「彼女は――」
「まだその力を確認してはおらぬな?」
四竜侯爵がそこまで話すということは……彼女は前回の戦いで相当な修羅場をくぐったということなのか。
「話を続けよう。わしとしてはネフメイザがどういう目論見なのかある程度理解できる。というより、おぬしらの行動方針を利用したと考える」
「……なるほどな」
エクゾンが口を開いた。
「ネフメイザとしては、ルオン君やソフィア王女を倒さなければ勝利しない。だが、二人は相当な実力を所持している。となれば、やることは一つ」
「そう。つまり――」
声のトーンを落とし、アナスタシアは言う。
「ヤツは、犠牲者をできるだけ少なくするという方針を逆手にとり……帝都でわざと人造竜などを使うことで、ルオン殿達が民衆を守るように仕向けるわけじゃ」
――ああ、そういうことか。
「卑劣ですね」
ソフィアが言う。アナスタシアはそれに笑みで応じた。
「そこまでしなければ勝てん、と考えたわけじゃな。つまり、帝都の民衆を利用することも、ヤツの計算の内ではないか、というわけじゃ」
……民衆を盾にすることで、俺達を倒そうというわけか。
「おそらくじゃが、ヤツは仕込んでいた策を解放し、民を襲う。当然ルオン殿はそれを止めに入る。その間に、さらなる切り札を発動させるというわけじゃな」
「……本来ならば侯爵達の連携すればいいはずが、それができないと」
「帝国軍の戦力を、侯爵達に振り分けたようじゃ」
「となると、俺やソフィアだけであの人造竜を始めとした敵を倒さなければいけないと」
「ギリギリまでネフメイザに悟られたくなければ、それをするしかない。無論、こちらの準備が整い次第先手を打つという選択肢はある。ただしこれは、ネフメイザに逃亡されるという可能性が高まる。この辺りは情報が欲しいところじゃな」
どこで攻勢を掛けるか――重要な判断となりそうだな。ともかく、時間もないのにやることが増えてしまった。
ここで資料に目を落とす。その辺りの情報は――
「……リチャルはどうやら、強力な武器を生み出そうとしていたようだな」
「うむ、そこには竜魔石を集めることについて明記されておる。ネフメイザにこちらの事情を悟られんよう策を講じる必要はあるが」
「そして……どういう武器を作成するかだが……」
資料には、手に入れた竜魔石を一点に集積させる旨が記載されている。
「複数の武器より、たった一つだけ強力な武器がほしいというわけか」
「の、ようじゃな。しかも理由がネフメイザの逃亡防止」
「おそらく地底に存在する魔力を利用して逃げることができるんだろ。それを封じるような力がいる、ってことかな」
「うむ。おぬしらは適宜竜魔石を確保し、対策に講じてくれ」
「お前が仕切るな」
エクゾンが不満そうに述べる。
「まあお前が提供した情報は非常に有意義だったことは認めよう。だが、最終的に判断するのはこちらだ」
「主導権もわしはいらんよ。そちらが思うように戦ってもらえればいい」
と、ここでアナスタシアは肩の力を抜いた。
「わしはこの来訪の後、表向きは静観しながら、おぬしらと連絡を取り合うらしい。よって、わしは連絡ルートの構築を行うことにする。エクゾン、残る四竜侯爵――といっても一人じゃが、そちらに注意した方がよかろう」
「わかっている」
頷いたエクゾンに対し、アナスタシアは笑みを浮かべる。
「それとこの世界本来のロミルダについてじゃが、きちんと対処する故、安心してくれ……と、話はここまでじゃな」
そこまで言うと、アナスタシアはエクゾンに笑みを浮かべた。
「ところでな、エクゾン。資料によると、交渉がどうにかまとまったということで、ちょっとした宴――もとい、会食をしたと書かれている」
「……お前のことだ。前回の時はこれも対価の一つだとのたまって、半ば無理矢理酒を飲む口実を作ったんだろう」
「うむ、わしもそう思う」
……酒好きという設定だったかな? まあでも、こうやって話をしているんだからそうなんだろう。
「少しは息抜きの機会も設ける必要があるじゃろ」
「……ネフメイザがその光景を見ているわけでもあるまい。事情を知っている面々ばかりのこの状況で、やる必要があるのか?」
「いいや、ここはやっておくべきじゃろ。それこそ正しい流れである以上は」
……なんだこのやりとり。アナスタシアは単に「理由をつけて酒を飲みたい」ということなんだろうけどさ。
「……アナスタシア、訊きたいのだがやる理由がないだろう」
「資料を読んではいるが、わしはユスカという人物もアベルという人物も知らん。顔合わせくらいはしておくべきじゃろ」
「もっともな理由だが、酒を飲んで騒ぐ必要はないな。それにお前のことだ、私の所有するワインをタダ飲みしたいだけだろう」
にらみ合う両者。双方とも火花を散らすような眼光だが、内容はしょうもないことである。
フォローを入れるべきなんだろうか……と思っていると、やがて視線をそらしたのはエクゾンだった。
「……まあいい。いずれ『天の剣』の面々とはそれなりの場で話はしたいと思っていた。友好を深める意味でも、やって損はないだろう」
「ということは、いいのじゃな?」
嬉々とした笑みを浮かべ問い掛けるアナスタシア。してやったりといった感じか。
「お前が話の起点になったのは引っ掛かるが、やっておいて損はない」
と、エクゾンは俺達に告げる。
「名目は親睦会ということにしておくか……皇帝との戦いに際し、私とアナスタシア、そして『天の剣』の面々が顔を合わせる」
決定。俺達としても否定する理由がないので、頷いて同意する。
「よおし、ではエクゾン。早速今日やろうではないか」
「……屋敷が破壊されたこともあるし、そう派手なことはできんがな」
「盛大にやるわけではあるまいし、問題ないじゃろ。わしとしては皇帝候補であるアベル殿と顔を合わせるのが楽しみじゃな」
どのみち組織の面々と話をする必要はあっただろうし、そういう機会だと思えばいいのか?
「急ではあるが、朝なのが幸いしたな。段取りについては大急ぎでやれば間に合うだろう。アナスタシア、お前はどうする?」
「ロミルダに会わせてくれ」
「……ルオン君、そちらは頼む」
「わかった」
頷き、アナスタシアもまた「よろしく」と告げ――騒々しい話し合いは終了した。




