力の奪取
移動の間に使い魔で騎士に関する情報を得る。人数は五人。一様に全身鎧姿であるため、俺達が最初に遭遇した騎士と所属は同じだろうと予想される。
次にロミルダに視線を送る。迷っていた表情が完全に消え、戦う気概を見せている。先ほどの強い言葉から同行を承諾したが……力があることは自覚し、戦えると思っているのかもしれないが、戦闘経験は皆無だろう。目を向ける必要はありそうか。何がきっかけでそうなったのかは…今後、尋ねればいいか。
やがて、騎士達が森に足を踏み入れた。俺達も別所から森へ入り、進んでいく。
さて、この時点でどうするのか俺の考えを伝えておくか。
「以前遭遇した騎士達は、天使の遺跡の魔力を奪い取っていた」
そう語り出した時点で、視線が一時俺へ集まる。
「今回騎士達が狙うものが同じような遺跡ならば、間違いなく力を奪おうとするはずだ。どういうやり方でそれを実行しているかは、まず知っておきたい。最初は泳がせる」
「私達はどうすれば?」
ソフィアの質問。
「遺跡内には魔物だっているだろうからな……騎士達は遺跡で目標を達成した後、即座に撤収するだろ。使い魔で観察した範囲では相手は竜人の騎士……ソフィアの力なら十分勝てる相手だ。もし逃げる場合、追討を頼む」
「ルオン様が討ち漏らした相手を、ということですか?」
「そう考えてもらえればいいよ」
「俺達も同じように、ということでいいんですよね?」
ユスカが確認の質問。俺は首肯しそれに応じた。
その間にも少しずつ森の中を進んでいく。全員が目的を成すためしっかりとした表情。士気は高いとみて間違いなさそうだ。
そして目的地に近づいてくると、俺は全員をいったん停止させた。
「使い魔からの情報によれば、これ以上近寄ったら音で気付かれる。まずは遠くから観察しよう」
その後、しばしの沈黙が訪れ……茂みをかき分ける音が聞こえてきた。
気配を殺し、様子を窺う。使い魔を通して確認すると、重装備の騎士達は茂みをものともせず歩を進めている。
ふと、俺は彼らの装備に注目する。天使の遺跡に存在する魔力を手に入れるわけだが、道具などを持参していない。もしそういうのがあれば、こちらが奪って使うことだってできるはずだが――
例えばネフメイザが騎士に魔法を教え、それを利用して魔力を回収するとかだろうか。考える間に騎士達は進んでいく。
できれば気配を隠して近づきたいところだが、森の中ではどう足掻いても歩く音が生じる。気付かれ戦闘になっても負ける道理はないが、彼らは計画を中止するだろう。よって、待機だ。
と、ここで騎士達に動きが。突如立ち止まり何事か話し始めた。しかし内容までは聞き取れない。
可能性として高いのは、魔法により隔絶とした天使の遺跡に入るべく何かやっているのかもしれない。
「どうします?」
ソフィアが確認。俺はしばし考え……発言した。
「気配隠しの魔法を使って、近づいてみる。もし問題が無ければソフィア達を呼ぶよ。何かあれば……その時は臨機応変に動くしかなさそうだ」
その答えにソフィアは「わかりました」と了承。ここで騎士達に視線を送ると、彼らが光に包まれていた。
おそらく、地面に魔法陣か何かを発生させ、それにより遺跡に潜入した。
『天使の遺跡の所在はわかっているが、単純に入れるというわけではないようだな』
頭の中でガルクの声が響いた。
『同じ時を繰り返すネフメイザがここに遺跡があると知っているが、肝心の入り方については魔法を行使して対応、といったところか』
「シェルジア大陸とは異なり、天使の遺跡はまだ隠れているケースが多いようだな」
俺は一つ呟いた後、改めて方針を告げる。
「まず俺が確認する。ソフィア達は様子を見ていてくれ」
そう言い残し俺は移動開始。気配隠しの魔法を行使し、徐々に遺跡入口へ近づいていく。
少しすると騎士達もまた歩み始める。見えない扉でもあるかのように彼らの姿が消え……俺はゆっくりとそこに近づく。
魔法の効力は続いている。無理矢理遺跡への道をこじあけているような感じであり、常時魔法を維持しないとまずいのだろう。でなければ、騎士達も出られなくなる。
「もし踏み入って相手が気付けば、作戦は失敗だな」
『その場合、敵がどのように魔力を得るのか知ることはできないが、とりあえずネフメイザの目論見は潰すことができる』
「そうだな。それでよしとしよう」
ガルクに返答し、俺はやや間を置いてから足を踏み出す。試しに騎士達を観察していた使い魔を空間に飛ばしてみるが、通れない。人間専用らしい。
果たしてどうなるか――足を踏み入れた瞬間、ほんの少しだけ浮遊感を抱いた後、問題なく天使の遺跡が存在する異相空間に侵入することができた。
前方に騎士を発見。音さえ立てなければおそらくバレないだろうと思いつつ、少しずつ近づいていく。
やがて遺跡が視界に入る。石造りなのはこれまで見た他の遺跡と大差ないのだが、特徴的なのは寺院のような佇まいをしているということ。見上げるくらいに高く尖った屋根は、他の遺跡と一線を画する存在であると強く認識させる。
「何が目的でこんな物を建てたのか……」
小さく声を零しつつ騎士が中に入るのを確認。俺も追随し中に入ると、広間のような場所が出迎えてくれた。
あちこちに存在する窓から陽の光が入り、室内は存外明るい。ただ中はがらんどうであり、瓦礫くらいしか目を向ける物がない。
集会所のような機能でも果たしていたのだろうか……? そんなことを思う間に、騎士達が動き出した。
彼らはまず、剣を抜いた。次いで広間を移動し、円を描くように立つ。
「始めるぞ」
一人が声を発すると、全員同時に床へと剣を突き立てる。瞬間、剣が発光を始め、徐々に地面に眠る魔力が剣に吸われ始める。
『剣そのものが道具になっている、ということか』
「そうだとしても、疑問があるな。前に遭遇した騎士の剣は、力なんてなかったように感じられたが」
『力の吸い上げはこうして行っているが、別の手段で力を封じるのではないか?』
ガルクがそう予想した直後、新たな変化が。吸い上げていた力が一人の騎士へと注がれる。
「よし」
声を発した当該の騎士――よくよく見ると彼の剣だけ柄頭に手のひらに乗るくらいのサイズをした水晶球が存在し、わずかに光っている。
そこへ力が収束するのか、と思っていたら一気に力が吸い寄せられる。同時、剣に力が一挙に集まり、やがて球体へと吸い込まれた。
ここまで観察して確信する。彼らの動きは非常に手慣れたもの。様々な場所で力を集めているのは間違いなさそうだ。
「終了だな」
力を収束させた騎士が言う。彼は剣を地面から抜いた後、水晶球へ手を伸ばしそれを柄から外す。
「使い魔の準備をしておけ」
「はっ」
騎士の一人に命ずる。その人物は即座に踵を返し、外に出た。使い魔……それを用いて城へ水晶球を運ばせているのか。
隊長格の騎士が持つ水晶球からは確かな魔力を感じ取ることができる。ここから考えるに、最初に遭遇した騎士達は既に水晶球を移送した後だった、ということだろう
『どうする?』
ガルクが問う。水晶球を運ばれてしまえば敵の目論見通りになってしまうが――
「いや、まだ吸い取った力を移送するわけじゃない。どうやらまだやることがありそうだし、もう少し様子を見よう」
「――隊長、遺跡の構造を確認いたしました」
その時、外に出て行った騎士とは別の人物が声を上げた。




