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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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とある兵器

 気配を隠す魔法を維持することができれば、とりあえずバレる可能性はなさそうだった。最初おっかなびっくり城内を歩いていたのだが……最終的に周囲を警戒しつつも普段通り進む。


『ルオン殿のことを警戒していない、などということはないだろう』


 移動の最中、ガルクが話し始める。


『ネフメイザとしてもルオン殿の魔法を知覚できるような方法は確立できなかった……ということかもしれん』

「そうだな……」


 推測を鵜呑みにすることはできないが、少なくとも現段階で俺に対する障害はない。どうにかなりそうな雰囲気。


『もう一つ考えられるのは、ルオン殿のこうした能力が規格外であるため、対策するのが無駄だと悟ったか』

「無駄、ねえ。けどそう仮定した場合、ネフメイザはどういう行動に出るかというと……バレても問題ない方法、といった感じか」

『帝都の中に魔力を張り巡らせている時点で、相当な備えを行おうとしているのは事実だろう。露見しても対応できるほどの準備をしている、というのはあながち間違っていないかもしれないな』


 ……その全てが俺に対する策だとは思わないけど、まあネフメイザは失敗を繰り返さないようにしているのはわかる。


『リチャル殿の魔法とネフメイザの魔法が同じなのかはわからないが、もし同一であるならば使う度に魔力が減るはずだ。それを補うために色々と工夫している……と、考えることもできそうだな』

「確かに」


 同意しつつ城内を進む。やはり魔力を探知するような設備はない……まあこの城内にはネフメイザ以外にも重役は多い。下手にそうした設備を施すと怪しまれる……ということだろう。


『それでルオン殿、どこに向かっているのだ?』


 ガルクの問い。その時、俺の目の前に地下への階段が。


「あの下だ」

『先ほど言っていた研究所か?』

「ああ」


 階段前には『関係者以外立ち入り禁止』の看板がある。地下についてはネフメイザの城とでも言うべき場所になっており、ある程度自由にできるようになってはいる。


「人の出入りはあるからあまりに怪しい行動をしていると他の人達も様子がおかしいことに気付くと思うけど……いや、その辺りだって上手くやっているということなのかな」


 述べつつ階段を下り始める。

 廊下を進み、いよいよ研究所内部へ入る段階となったのだが……ここで周囲を見回す。


「なんというか、あまりにも警戒が無さすぎるな」

『魔法が効いているのではないか? 少なくとも宮廷に入って以後、ルオン殿を見咎めるような仕草をした者はいなかったぞ』


 それならいいんだけど……俺は真正面にある扉を見据える。

 閉め切られた扉に対し、俺は手を掛ける。罠などはまったくなし。もし開けて誰かがいた場合……リスクはあるが、誤魔化せるだろうというのが俺の公算だった。


 扉がゆっくりと開く。ひとまず周囲に人はいない。深夜近い時刻ということもあって、研究員は既にいなくなっているようだ。

 ネフメイザはまだ起きているのか……疑問だったが中へ。一見して驚くのが、書棚の多さ。


 研究所というよりは図書館とでも言うべきほどの蔵書数。棚を見てみるとその全てが研究資料。あるいは研究員がしたためたデータ資料らしい。


「これだけの研究……ネフメイザが暴走を始める前からやってきた研究の集積か」


 呟きつつ歩く。足音を立てないように慎重になりつつ――その時、通路の奥に奇妙な物を見つけた。


「……何だ?」


 竜の首、とでも言えばいいのだろうか。それが見えたので近づいてみると……絶句した。


「おいおい……」

『これは興味深いな』


 ガルクが言う――脇には下へ続く階段があって、俺はその下の状況を高台から見下ろすような状況で眺めることができる。

 おそらく、実験場か何かだったのだと思う。ゲームでもこの場所については表現されていて、資料などが散乱し床などが魔法実験により焦げ付いているとか、そういう表現が成されていた場所だった。


 けど、今は少し異なる用途で使われている……竜の首どころではない。ちょっとしたホールくらいの広さを持つ研究室。その部屋全体を覆うほどの大きさを持った竜……それが目の前にいた。

 当然生きてはいない。しかし本物のように今にも動き出しそうだ。


「模型、とかじゃないよな」

『魔力を感じ取ることができる。人造の竜といったところか』


 ……巨大兵器、という表現が似合いそうな存在だ。こんなものゲームには登場しなかった。


「これもまた、俺達に対する策の一つなのか?」

『そう考えるのが妥当だろう』


 ネフメイザが俺達の存在を知っている以上、大掛かりな準備をしている可能性はあった。それは見事正解だったわけだが、それにしても――


「これを作成し、動かすには相当な労力が必要だぞ」

『確かに。しかし動力源については、どうやら謎の一つを説明できるようだ』

「ん? どういうことだ?」

『ほとんど内部に隠れているため判別が多少難しいが、間違いなく天使の遺跡に存在していた魔力が使用されている』


 ということは、この兵器を生み出すために天使の魔力を――これは相当大変な話になってきたぞ。


「……竜魔石だって使われているだろうな。だとすれば、武器入手が急務だな」

『これだけの存在だ。さすがに動かすにも時間を要すると思うが』

「ああ。けど急ぐべきだ」


 アベルならば短期間で強くなれるだろうし、この兵器完成前にどうにかできる……か? 正直不確定な要素ばかりだが、それでも急いだ方がいい。


「こんな兵器が暴れたなら、それこそ被害は甚大に出るだろ。ネフメイザの策が完成する前に、動いた方がいい」

『うむ、それには賛成だ』


 ……しかし、ネフメイザはどこまで準備をしているんだ? ここまでゲームと異なった行動をしている以上、やはり時空系魔法を使ってやり直していると考えた方がいいだろう。俺がどんな戦い方をしたか知らないが、ここまでする以上は相当コテンパンにやられたに違いない。


『ネフメイザの動きの一端は掴んだな。あと、問題は時空系魔法を封じることか』

「帝都の地底に流れる魔力などを利用すれば、ネフメイザ自身魔法を行使することはそう難しくないだろう。この辺りは再度協議する必要がありそうだ」


 同じ経験をしたリチャルのアドバイスがなければ、ここを突破するのは難しそうな雰囲気。しっかり準備したいところ。


「俺達はネフメイザの策を全て破壊し、なおかつ時空系魔法で逃げないようにしなければならない。よって、やらなければならないのは俺達の完全勝利だ」

『うむ……現時点でわからないのは、ネフメイザがどのようにして時空系魔法を使うだな』

「すぐに準備してできないのは間違いないと思う。それができるなら、侯爵が裏切ったりしている時点でやり直してもおかしくないだろ」

『その後、少女を捕まえるよう通達したことを考えるとまだ巻き戻ってはいないということだな』

「そうだと思う」


 推測だらけなのが問題が……と、ここで背後から足音が聞こえた。俺は素早く隠れる。気配隠しの魔法を使っている以上、バレることはないはずだが――


「……あ」


 俺は小さく声を零す。現れたのは男性二人。一人は白いローブ姿の研究者らしき男性。そして――


「どうだ、進捗は」

「現段階で、完成度合いはおよそ四割程度です」


 ――黒髪に悩ましげな表情の男性。美形に属する顔つきと、それ以上に注目するのは発せられる雰囲気。ひどく張りつめたものであり、常に肩を緊張させているように感じさせる。


 格好は黒い貴族服――彼こそ、この戦いの首謀者であるネフメイザだった。


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