帝都の状況
俺は単独で帝都へ向かうことにする……リチャルは魔物を作成後、後から来るように通達。ロミルダを救っても彼女を抱えて移動魔法は使えない。よって、リチャルの魔物によって移動について補おうというわけだ。
で、都へ向かうには当然、それなりに時間を要するのだが……魔法を駆使したことにより、一日程度で俺は到着することができた。そして現在の時刻は昼過ぎ。街道には人も多い。
事前に使い魔で色々と観察したところによると、四竜侯爵の残る二人は現在動いていない。さらに皇帝側の兵もエクゾンへ向け派兵の準備をしているといった様子も見受けられない。ただし、それはあくまで見える範囲での話で、実際はどこかで準備している可能性はあるので油断はできない。
エクゾン達もひとまず問題はない。加え領地に戻ったシュオンの身にも何か起こったわけではない……ということで、俺は何の障害もなく都に辿り着いた。
帝都と呼ばれるそれは、平原に建てられているため例えば山に登って外観を全て確認する、ということはできない。けれどその規模はこの大陸の中で最も大きいのだと一部分を見るだけでもわかるほどで、重厚な城壁が俺達を迎えてくれた。
『ずいぶんと厳重だな』
ガルクが感想を述べる。俺は町へ入る城門前で、中へ入ろうとする商人や旅人を見ながら会話をする。
「城壁は高いことに加え、帝都全体を覆っている……しかも、これだけじゃない」
『ほう?』
「町の中をさらに進んだらまた城壁がある。そして中央に宮廷……広い敷地の宮廷と町とはさらなる城壁で阻まれている。仮に攻城戦をする場合、三つの城壁を突破しないといけないわけだ」
難攻不落、と言われている帝都。ただまあこの大陸に国は一つしかないので、基本的にこの城壁が活躍するような事態にはならない……普通なら。
『物語の中で、反乱組織はこの帝都を攻めるのか?』
ガルクの質問。俺は首を左右に振った。
「反乱組織側が優勢となったところで、ネフメイザが話し合いの場を設ける。それは嘘で実際は主人公達を一網打尽にするための行動なわけだが……堅牢な帝都だけど、城壁が活躍することはないな」
『そうか』
「さすがに城攻めは勘弁願いたいけど」
俺は言いつつ、城門に視線を送る。入るためにはあそこを通過しなければならない。俺なら城壁を飛び越えられるけど、人目の多い昼間はやらない方がいいだろうな。
『ルオン殿、気配を消す魔法を使い潜入するか?』
「そうだな。さすがに俺の面が割れているとは思えないけど……できれば兵士とかと顔は合わせたくない」
というわけで人目のつかないところで気配を隠す魔法を使用し、城門へ。
馬車を駆る商人が兵士と会話をしているところをすり抜け、町の中へ入った。
「門を抜ければチェックは厳しくない。自由に動ける」
俺はそう述べつつ魔法を維持したまま周囲を見回す。
さすが帝都、といったところか。活況な様相が見て取ることができる。反乱組織と戦っているため厳戒態勢になってもおかしくないのだが、とりあえず兵士が周囲に目を光らせている以外に気になる部分はない。
路地裏に移動して魔法を解除。それから通りを歩き始める。
『まずはどうするのだ?』
「最初に宿を借りよう。そこから使い魔を用いて町の中を観察する」
『少女を見つけるためか?』
「使い魔で闇雲に探し回っても見つからないのは俺も理解しているけどな……『漆黒の剣』のメンバーでも見つけることができれば違ってくるけど」
とはいえ、一目見てわかるものなのかも不明。ロミルダのことは気になるが、ここからは手探りでやるしかない。
「運も絡んでくるな……ひとまず移動を――」
『ルオン殿、現時点で気になった点がある。いいか?』
ガルクの言葉。「どうぞ」と促すと、語り始めた。
『この帝都だが……魔力が濃いな』
「魔力? 俺は何も感じないが」
『ルオン殿は大気中の魔力に触れてそう感じているのだろう? 私が言っているのは地下だ』
「地下?」
『宿をとったらレスベイルを利用して魔力探知をしてみるといい』
そうガルクに言われ……俺は手近にあった宿に入り部屋を取る。個室で一人になると、言われた通りレスベイルを生み出した。
「魔力の分析、と」
範囲とかは特に考えていなかったのだが……レスベイルを介し魔力探知を行った瞬間、俺は小さく呻いた。
「これは……」
『ルオン殿、物語においてこの状況は普通だったのか?』
問われ、俺は何も答えない。というより、
「いや……さすがにここまでの詳細はわからなかった」
――中央に位置する宮廷を中心に、魔力の流れが存在している。宮廷の地下に大きな魔力が存在し、そこから放射状に城壁へ向け外へと拡散している。さらに城壁に沿い円状に魔力の流れが存在し、さらに二つ目、三つ目の城壁へ向け魔力の流れが存在している。
……こうやってレスベイルを利用して魔力探知をしなければわからない。しかし一度察知すれば地下に大きな魔力が存在しているのをはっきりと認識することができる。
「宮廷だけでなく、帝都内全域に魔力があるのか……ただ、探知機能はないみたいだな」
『そんなことをすれば町の人間に気付かれるからだろう』
「だな。しかし、これはどういうことなのか……」
ゲームだと……うーん、ネフメイザは竜魔石の力を利用したのは間違いなかったけど、こんな風に魔力を張り巡らせているような描写はなかった。
『……推測だが、こうやって町全体に魔力を巡らせているのは、地に眠る魔力を利用しようとしているからだろう』
ガルクがさらに見解を述べる。
『例えば、此度の戦いにおいて危機的状況に陥ったとする。それに際し地底から魔力を吸い出し自身を強化する……ただし、アベル殿が同じように地の力を利用した際、侯爵に対し思うようにダメージが与えられなかったな? その事実を考えると、地に眠る力を利用するにしても一工夫がいるはずだ』
「そうした研究を、ネフメイザが行っていると」
『かもしれん』
……これがゲームとは異なる状況であるとするなら、やはりネフメイザは時空系魔法を行使し、俺達に対する準備をしていると考えていいだろう。ここまで大掛かりなのが気になるけど……。
『ルオン殿に対抗するためだったりしてな』
「……俺一人に対抗するにしても規模がでかすぎるだろ」
どういう理由にせよここまで準備していることから、過去に戻ってやり直しているならネフメイザは俺達にこっぴどくやられていることになるな……さて、
「どういう理由であれ、これが俺達に対する準備だとしたら、しかるべき対応をしなければならない」
『そうだな。こうした魔法の欠点は、起点となるポイントを破壊すると機能しなくなるという点だ』
「破壊?」
『例えば外周部と二つ目の城壁の間で魔力を遮断すると、その間に存在していた魔力は消え、魔法が機能しなくなる。あるいは宮廷内にあるであろう魔力の制御点……そこを破壊した場合、魔法そのものが機能しなくなるな』
「なるほど」
『無論ネフメイザはその辺りを考慮してこうした処置を施しているはずだが……ふむ、なおかつ地下に何かあるな』
「確か、宮廷地下に研究施設があったはず」
『ほう、研究?』
「本来は竜魔石に関する研究場所だったはずだが……」
――これだけ魔力が地底に存在しているとなると、その辺りも違うのか? ロミルダのことを含め、できればこちらも調べたいところだが――
「まあいい。ひとまず使い魔を用いてロミルダの捜索だ」
『見つかるかな』
「そればっかりはわからない……けど、できる限りのことはする」
もしネフメイザに見つけられたらどうなるのか……想像して険しい表情となる。
この帝都でやることは大きく二つ。一つは無論ロミルダを探すことで、もう一つはネフメイザについての調査――もっとも、後者についてはロミルダの動向次第か。
「やれるだけ、やるしかないな」
使い魔を最大限用いた人海戦術でいこう――そう決心し、俺は魔法詠唱を開始した。




