侯爵のスタンス
少女――と、聞いて俺は驚いた。それは、もしや――
「少女? 貴族の娘か?」
「例えば大臣の娘が行方不明になったとか、そういう話ではないらしい。帝都内で捜索活動をしているのは間違いないようだが」
エクゾンの質問に対し、アベルは言う。二人にとってはさして価値のない情報だろう。
「探すほどの存在となると、ネフメイザの親族だろうか」
アベルが推測を述べるが、それをエクゾンが否定する。
「現状、ネフメイザがこの戦いの首謀者であるという情報は皆無。加え、彼を支持する人間は多い……彼の親族が狙われるという状況が思い浮かばないな」
「彼の政敵はどうだ?」
「敵がいないわけではないだろうが、大臣すら丸め込んでいる彼だ。そうした敵が宮廷内にいるならば即座に看破し、易々と対処できるはずだ。関係者ではないかもしれない」
そこまで言うと、エクゾンはソフィアに視線を送った。
「君のことを探しているという可能性も一瞬考慮したが、少女である以上違うだろうな」
「おそらくは」
頷くソフィア……ここで俺はアベルに質問する。
「その情報は、いつのものだ?」
「帝都から来た人間は、この町に急行してきたからな……数日前、といったところだろう」
数日前……捜索しているということは、帝都に行けばまだ間に合うのか?
少女と聞いて、俺が思い浮かんだのは――最後の皇帝候補である少女。名はロミルダ=カルラッティ。
元々潜在能力が高く、皇帝候補の中で一番強くなる……のだが、加入した時点で一般人同等レベルの能力しか保有していないため、戦闘に参加させても役に立たない。
彼女については覚醒イベントというのが何度か存在し、それによって能力が上昇し戦力になっていくのだが、上昇具合は他の二人の成長度合いに比べて低く、どうしても見劣りする。レベルを上げるにしても結構面倒。
加え、彼女にはもう一つ欠点がある。それは技や魔法の少なさ。アベルは技中心、カトラは魔法と技をバランスよく覚えるという形なのだが、ロミルダの場合はほとんど習得できない。じゃあどうするのかというと、アイテムやイベントで覚えさせていくことになる。
ステータスは最終的に他の二人を抜き去るのだが、能力以外の要因が足を引っ張っているのが問題で、彼女を利用して戦っていくというのはちょっとしたハンデとなっている。ただ、その苦労に見合った強さは持っている。高レベルになると専用技もいくつか覚えるし……ただまあ、そこに至るまでが面倒なのは確か。
また、仮にロミルダだとして疑問がある。彼女が最初にいる孤児院の場所は帝都ではない。なぜ彼女が帝都にいるのか……そして、なぜネフメイザが探しているのか――いや、これについては答えは出ているか。
すなわちネフメイザは、彼女の存在により敗北し過去へ戻った。よって、彼女をどうにかしようとしている。
アベルの話によると、数日前の情報……今から行けば間に合うか?
「気になるようだな」
エクゾンが言う。視線を合わせると、笑みを浮かべる彼の姿が。
「私やアベル君からすれば首を傾げる内容だが、ルオン君は何かを感じ取った様子」
どう説明すればいいだろうか。少女について心当たりがあると説明しても、その詳細を語るとボロが出るのでは――
「……先に言っておくが、私自身は君がどういう考えであれ後悔はしていないし、死を回避するために動くつもりでいる」
唐突に語り出すエクゾン。一体――
「そうだな、この辺りで私のスタンスを明確にしておくか」
そう前置きをして、エクゾンは語り始める。
「君が語った戦う理由については筋が通っているし、納得のいくものだった。しかし、だ。私は君達と共に行動するうちに、それが嘘ではないかと考えるようになった」
「嘘……?」
アベルが眉をひそめる。対するエクゾンは「まあ待て」と言い、彼を手で制する。
「とはいえ、例えば私を騙してどうにかする、といった詐欺まがいのことをするようには見えなかった。第一、そういうことをするのならルオン君の力があればいくらでもできるだろう。つまり、私と手を組み成し遂げたい目的があるということだ」
――エクゾンはおそらく、俺達と接する間に色々推察していたのだろう。怪しまれないよう行動していたはずだが、侯爵として何かを感じ取った、ということか。
「それこそ、ネフメイザの打倒……しかし、聡明なルオン君はどうやら察している。現状ネフメイザを討った場合、この大陸に混乱を呼び込むことになると。例えば単なる復讐ならば、その力を振り絞りネフメイザを打倒できる。それをしないということは、この大陸に混乱をもたらさないよう……つまり、ネフメイザ打倒後のことを考えて策を練っている」
それもまた、正解だ。
「さっきも言ったが、私はルオン君が語った戦う理由については、嘘だと思っている。これは半ば私の勘であるため、もし私の誤解であったならば謝罪しよう。しかし、私にとって君の嘘は些細なものだ。最終目的がネフメイザ打倒――それも大陸に余計な混乱をもたらなさいように、ということなら私も賛同すると言いたいわけだ」
――エクゾンはどういう事情であれ俺達の目的に賛同するから、事情を話してくれと要求しているのか。
「ここまで言えば私が何を主張したいかはわかったはずだ。ルオン君の回答を聞こう」
俺はソフィアに視線を送る。彼女はただ頷き返しただけ。従者である彼女は俺の行動に従うということ。リチャルも同様の様子。
……まあ、本当の事情を詳しく話していないため、今後策に齟齬が生じる危険性もある。エクゾンが協力姿勢を見せてくれているのならば、それに乗っかるのが最良と言えば最良。
しかし、
「……侯爵の言い分が正しいとして」
「うむ」
「それを話すにしても……まず、やらなければならないことがある」
「少女の救出か?」
はっきりと頷く。アベルなんかはどこまでも疑問符が頭に浮かんでいるが、口は挟まない。
「いいだろう。皇帝側もシュオンが撃退された以上、攻め手に困ることだろう。私達に当面危機はない。やるべきことをやるといい」
「助かる……ソフィア」
「はい」
「この屋敷に残り、護衛を」
護衛、という単語を聞いてエクゾンは「ほう」と声を零す。
「彼女の実力を拝見していないが……相当なものなのか?」
「それを確認しても構わないが、事情については俺が戻って来てからで頼む。それと、もし彼女に危害を――」
「しないさ。それをするメリットも無い……うむ、今のルオン君が見せる表情の方がいいな」
俺は疑問の表情を示す。対するエクゾンは笑い始めた。
「思案する顔を見せられるよりも、話すと決意した顔を見せてもらった方が、私としても気持ちがいいという話さ」
「そうか……悪いけど、少しの間留守にする。できるだけ早いうちに戻ってくるつもりではいる」
「ああ」
「それと、リチャル」
視線を送ると、わかっているという顔つきで彼は応じた。
「移動用の魔物だな」
「定員は……リチャルを含め三人くらいか。できるだけ急いでもらいたいが」
「侯爵の屋敷にある竜魔石を利用できれば、翌朝にはそれなりのものをこしらえるよ」
「そう言われては、提供する他ないな」
あっさりと同意するエクゾン。俺は「頼む」と告げ――全員に言った。
「少女について調べるため帝都に行く。もし見つけた場合は……この屋敷に連れ帰ることになるから、そのつもりで頼む」




