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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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272/1082

それぞれの情報

 剣が一時目標を絞り、俺へと殺到する。こちらを優先して倒す、というわけではないだろう。おそらく動きを止め、隙が生じた段階でエクゾンへ攻撃を仕掛ける、といったところか。

 あるいは、何か別に策があるのか。俺は最大限の警戒を行いながら、今までよりも強く剣を振った。


 こちらへ向かってくる武器を、全て吹き飛ばす。シュオンの表情が渋いものに変化する。攻撃力が足らない――などと思っているのかもしれない。

 だが、剣に一点集中の手法でさえ通用しなかった。彼としてはどんどん戦法がなくなっていく。


 その時、彼の動きにさらなる変化。というより、逡巡する気配が。俺はこの変化を見逃さなかった。一気に前進し、剣の間合いに入れる。


「っ……」


 シュオンが呻くのを俺は確かに聞いた。このまま決着をつける――そう思いさらに近づく。


 彼は動けない。現状の勢いで攻撃し続けるにはやはり動きを止めなければならない様子で、もし後退すれば隙を生じさせることになる。当然一気に俺やエクゾンが仕掛けるのは明白であり、シュオンとしてもこの戦法に限界を感じているだろう。

 なら、どうするのか――次の一手を放つ前に、俺は仕留めるべく声を上げる。


「行け!」


 エクゾンへの言葉だった。それは彼も察したらしく、俺の背後から一気に前に出る。

 当然彼へ武器が集中するのだが、俺はそれを一薙ぎで対処する。シュオンが苛立った表情を見せ、さらにエクゾンが踏み込み、


 そして、


「――終わりだ」


 エクゾンの宣告。同時、彼の拳が再びシュオンへと突き刺さった。






 壁が砕ける音に加え、シュオンが倒れ伏す音。空中に浮いていた武器が消え、戦いが終わったことを俺達に知らせる。


「……厄介な相手だったが、君の能力ならばさほど問題はなかったか」


 エクゾンが言う。俺は肩をすくめた。


「竜魔石を含んだ武器があれば、もっと被害も少なくできたと思うけど」

「屋敷の損傷具合は結構なものだが、この様子ならば人的被害はなさそうだ。私としてはそれで満足」


 彼はそう述べると倒れ伏すシュオンに視線を向ける。


「さて、と」


 歩み寄る。そこでシュオンも目を開けた。


「……やれやれ、俺の負けか」

「もう一つ技があったはずだが、出す暇はなかったようだな」


 エクゾンの言葉で、俺はゲームの光景を思い出す。


 確か刃の群れを一点に集結させ、巨大な武器に変化させる技だ。エクゾンが語っているのはおそらくそれだろう。先ほど剣に『竜刃石』の力を収束させていた時とやり方は似ているが、刃の群れを用いた時の最高威力なのは間違いない。


 とはいえそれはイベント技であり、物語の中では所有していた竜魔石の力を活性化させた皇帝候補の誰かが力を封じる……という形で終わった。これは伏線の一つであり、その人物の力がいかに強いかを暗示させるイベントとなる。


 俺なら受けても大丈夫なはずだが、考えなしに防御すると周囲に被害が及ぶのは間違いない。下手をすれば屋敷中が無茶苦茶になっていたはずで……それを出す前に倒せたのは、良い点だろう。


「敗者ということで、私の話を聞いてもらおうか……と、その前にネフメイザがお前に語った内容を聞かせてもらおう」

「……喋ると思っているのか?」

「ここまで完膚なきまでに負け、生殺与奪の権利は私が握っている。命と引き換えにそのくらいの報酬があってもいいだろう?」


 エクゾンの主張に、シュオンは笑う。あきらめを大いに含んだものだ。


「仕方がないか……そうだな、私もさすがに死にたくはない」

「で、どういう内容だ?」

「最初に語った内容でほとんどだが……ネフメイザ殿はお前が反旗を翻した理由に、自分の命が脅かされると考えた、と語っていた」


 シュオンは上体を起こし、さらに続ける。


「しかしそれは間違いだとネフメイザ殿は語った。よって私に説得、もしくは制裁を……というのが、依頼内容だった」

「それを信用したのか?」

「言葉をそのまま鵜呑みにはしないさ。ネフメイザ殿が何をしているのかくらい、私も理解しているからな。ただ私は、彼が信用してもらうべく行動で示したため、従ったのだ」


 行動? 心の中で反芻した時、シュオンは驚くべき内容を告げた。


「ネフメイザ殿は、私に信用してもらうよう魔法を使用した」

「魔法だと?」

「そうだ。自身の魔力を利用したもの……ネフメイザ殿は、私にとある魔法を与えた。今の私はその魔法を行使することによって、ネフメイザ殿をいつでも殺せるようになっている」


 ……おいおい、それはまた。


「エクゾン、お前はおそらくこう考えているはずだ。反乱組織を潰せばネフメイザ殿に最早敵は無い。となれば次は我ら侯爵を標的にする、と」

「それもネフメイザの言葉か?」

「いかにも。それは事実であり、私も考えないわけではなかったが、ネフメイザ殿自身がそれを否定すべく魔法を行使した。それにより、私は彼の主張が正しいと判断。今回ここに赴いた」


 ……シュオンは魔力の知覚能力が高い。だからネフメイザが行った魔法自体が紛れもなく本物だと直感したのだろう。よって、彼はネフメイザを信用した。


 だが、エクゾンを倒すためにここまでやるのか? ゲームにおけるネフメイザは演技が上手く、狡猾で基本自分を危険に晒さないよう行動していた。だが一転、現実では侯爵を説得するためにリスクを冒している……と、ここで俺は思い浮かぶ。


 仮に、ネフメイザが時空系の魔法で時を遡っていたとしたら……この世界には二人のネフメイザがいることになる。

 その片方――つまり、本来この世界にいるネフメイザを利用して、そうした魔法を施したのか?


 この場合、二人は同じ魔力のはずでシュオンが魔法を使えば両方死ぬ可能性もあるが……いや、何周もやり直していると考えれば、その辺りの課題はクリアしているのかもしれない。


「ふむ、興味深い話だ……しかし、私としてはその魔法が効かないのではと推測する」

「何?」


 エクゾンの言葉に、シュオンは疑問の表情。


「私の魔力知覚がどのくらいか知らんわけでもあるまい」

「そこは信用しているさ。だが、私は何かしらの方法でその辺りを誤魔化すことができるのでは、と考える」

「何か根拠でもあるのか?」


 僅かな沈黙……エクゾンが根拠なくそう主張するとは俺も思えない。


「不可解な情報がある」


 そうエクゾンは語る。俺にも以前言っていたな。


「私が独自に掴んだ情報だ。反乱組織に対抗すべく編成した『漆黒の剣』という組織……彼らの中に天使の遺跡を調べる部隊が存在する」


 ――初耳の情報。というより、エクゾンはその事実をどこかで知ったのか。


「どうやら彼らは天使の遺跡に眠る力を奪い取っているらしい。これは仮説だが、その力を用いて、シュオンが魔法を使っても無事なよう対策を施したのではないか?」

「……単に、戦いに向け力を得ているだけではないか?」

「ならば、秘匿されているのはおかしいだろう? 秘密裏に行動している……私が偶然その存在を確認しなければ、気付くことすらなかっただろう」


 シュオンもここで難しい表情を示した。どうやらこの戦いにはまだ裏があると考えた様子。


「そうだな、まずは話をしよう。ただ、これ以上屋敷を破壊されるのは勘弁願いたいため、武器については没収させてもらうが」

「……私を殺す気はないということか」

「その通りだ。私としてはシュオンを味方に引き入れた方が状況が良くなるからな」


 ……しばし、双方が視線を合わせる。とはいえシュオンの方も敵意はそれほどなく、これ以上の戦闘はなさそうな気配。


 ――やがて、


「いいだろう……話をしようじゃないか」


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