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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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戦術変化

 一撃必殺、とまではいかないかもしれないが、『竜生石』を活用した拳がシュオンへまともに入った。


 結果、奴の体が大きく吹き飛び、先ほど破壊されなかった壁面に激突する。それで衝撃を殺すことができなかったか、彼が打ちつけた壁に亀裂が入る。


「があっ……!」


 さすがに効いたらしい。呻いたと同時、壁に背を預け座り込むように倒れる。


「同じ至高の竜魔石……その力をまともに受ければ、お前とて無事では済まないだろう?」


 エクゾンの発言。実際シュオンは動けないのか、俺達を見定めるだけで動こうとしない。

 いや、それは油断を誘っているだけかもしれない。俺はいまだ握りしめられている剣を見据える。下手に近づけば、さらなる魔力の刃が飛んでくるかもしれない。


「……なるほど、な」


 やがて、シュオンは声を発すると立ち上がり、俺へと口を開く。


「魔力の高さから攻撃を中断し、エクゾンを守ったか……まさか真正面から攻撃して通用しないとは思わなかったぞ」

「俺も、不安はあったんだけどな」


 口の端に笑みを浮かべ、こちらは応じる。


「けどまあ、なんとかいけるかもしれない……そう思った次第だ」

「過程がどうあれ、私の攻撃が通用しないのは理解できた」


 ずいぶんと冷めた口調でシュオンは言う。


「なら、どうするんだ?」


 俺は問う――が、どういう展開になるのか、おおよそ見当はついた。


 先ほどの全力の一撃……それでも俺には通用しなかった。シュオンとしてはエクゾンとて侮れない存在。全力の攻撃で片付けられれば、という思いがあったのだろうけど、それでは通用しない。


 ならば、もう一つ……『竜刃石』の最たる能力を使用する。


「気を付けろよ、ルオン殿」


 エクゾンが警戒を込め呟く。


「奴の戦い方は二つある。先ほどのように『竜刃石』の力を結集させて一撃必殺の攻撃を見舞うやり方。とはいえそれで通用しなかった以上、もう一つの手段……竜魔石の力を活性化させ、刃を生み出す手法に切り替えるだろう」

「こちらの方法は、お前もそれほど苦手ではなかったな。よって、できればやりたくはなかったんだが」


 シュオンはやれやれといった様子で声を発する。


「とはいえ、さっきまでのやり方では通用しない……ならば」


 魔力が生じる。エクゾンと戦った時、彼が発したような、濃い魔力。


「この方法しかあるまい」


 魔力の渦が、旋風のようにシュオンの周囲に舞う……ゲームでも同じような流れだった。最初は普通に攻撃をしていたが、HPが減ってくると戦法を切り替える。変更する理由は違っていたが、戦いの流れは変わっていない。


 次の瞬間、彼の周囲には色や形が様々な剣が、切っ先をこちらへ向けて空中に出現する。


「……確か、剣の力を吸収し自分のものにできる、だったか?」


 エクゾンが問うと「そうだ」とシュオンは答えた。


 ――『竜刃石』は竜魔石が含まれる武器を解析し、その特性を魔石の中に封じることができるという。記憶した剣を魔石の力によって復元することが可能で、しかもシュオンはその全てを自在に操ることができる。

 剣だけでなく、槍や斧なども散見される……それらを飛ばし武器の雨によって相手を仕留めるというのがもう一つの戦法。とはいえこれにはいくつか弱点もある。


 まず、単発攻撃力が落ちる。先ほどまでの直接攻撃は威力が途轍もなかったわけだが、この戦法では一点に魔力を集中できなくなるのでそれだけ威力が落ちる。エクゾンの再生能力があれば十分対応できるはずで、だからこそ彼も使用しなかったわけだが……その圧倒的な物量により封殺される可能性もあるので、油断はできない。


 ゲームで言うなら、先ほどまでの戦法が一撃死すらありうる物理攻撃で、今回の戦法は物量によりハメ殺しする、といった感じだろうか。実際ゲームにおいても圧倒的な武器の嵐により何もできず仲間が沈むこともあった。単発攻撃力が高い戦法ならば回避などを行えるので対処もやりやすかったが、今回はそうもいかない。


 とはいえ、だ……この戦い方は燃費も悪く、長期戦に向かないという欠点もある。よって、この戦い方で来るとなれば、シュオンは短期決戦を狙うはず。


「覚悟はできているか?」


 問うシュオン。語る間にもどんどん剣の数は増え、彼の周囲を埋め尽くさんばかりとなる。


「……この技の前に立っていた者などいない、とでも言うつもりか?」


 冗談のように問うエクゾンに対し、シュオンは肩をすくめた。


「あいにく、そういう会話に興じるつもりはない――消えろ」


 刃の雨が飛来する。瞬間、俺は対抗すべく魔法を発動。

 突如、俺とエクゾンの正面に氷の壁がせり上がる。氷属性中級魔法『アイスウォール』。分厚い氷の壁によって敵の攻撃を阻む効果がある。


 先ほどまでの直接攻撃ならば一刀両断していたに違いないが、今回の攻撃は違う。結果、大量の武器は壁に激突しせき止められる。


「上手いな」


 シュオンの声。しかしこれで終わりじゃない。大量の武器はシュオンの操作によっていかようにも動きを変える。

 とはいえ、その操作を始める前に動くだけの余裕はある。ほんの僅かな時間ではあるが……エクゾンへ視線を向け、どう動くか確認する。


「一撃一撃が軽いとはいえ、さすがにあれだけの物量で押し込まれたら動けなくなるな」


 エクゾンは言う。そうなった場合、刃の雨を受けて下手をすると彼は――


「私の再生能力が尽きるが早いか、奴の魔力が底をうつ方が早いか。私にとっては先ほどよりマシになったが、勝算としては微妙だな」

「なら、俺がどうにかするさ」


 言葉と同時、氷の壁が消える。奥に見えたシュオンの周囲には先ほどと同様、刃の群れが俺達に向けられている。


「――レスベイル」


 言葉と同時、俺の真横に鎧天使が出現する。


「使い魔か。そいつを盾にするつもりか?」


 眉をひそめ、警戒を露わにするシュオン。


「エクゾンさん、守りはこっちに任せてくれ」


 そう明言し、俺は剣を構える。


「ただ拳を当てる……それだけを考えてもらえれば」

「わかった」


 頷くエクゾン。その口の端には笑みが。


「やれやれ、まさかこの私がここまで助けられるとは」

「この借りは以降の戦いで返してもらえればいいさ」

「いいだろう」


 言葉と同時、刃の群れが襲い掛かる。物量で一気に押し込む気のようだ。しかし――


「レスベイル!」


 声と同時に精霊が動く。魔力が轟き、エクゾンを護るように障壁を形成する。とはいえ前方まで障壁を生み出してしまうと進めなくなるため、左右と上を防御。背後はレスベイル自身が守る。

 そして真正面から飛来する攻撃には、俺が対応――大量の武器を魔力を込めた斬撃を振ることによって吹き飛ばす。


「なるほど――そういうことか」


 シュオンが言う。なおも武器が飛来し、俺はその全てを吹き飛ばす。


 彼は短時間で決着をつけるべくこの手段を用いたわけだが……俺なら持久戦に持ち込める。なおかつ武器の飛来には多少なりともムラがあるため、僅かに生じる隙を利用し少しずつ前進できる。障壁を全方位に張って耐えるという手もあるが、それをすればシュオンは他の場所へ攻撃を仕掛けるだろう。よって、それはやらない。


 エクゾンに被害が及ばないことを優先しつつジリジリと近づく……全ての攻撃を防ぎ切るとなると相当神経を使う作業だが、俺とレスベイルならばできる。

 狙いを俺達に絞ったことで、シュオンの攻撃は屋敷に被害をもたらしてはいない……これは俺達を沈めるべく攻撃を集中させていることも理由に入るだろう。


 シュオンはなおも攻撃を繰り出すわけだが……ここで彼の瞳に迷いがチラついたようだ。長期戦となれば、不利になる――


 そう判断したシュオンによって、攻撃の流れが変わる。その瞬間、俺もまた対応すべく動き始めた。


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