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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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ある可能性

 カトラの言葉を聞いて、俺は動きを止めた。ちょっと待て、ユスカが兵士ではなく――


「……騎士?」

「え? あ、はい。幼馴染であるユスカは、現在騎士として皇帝の下で――」


 これは……俺は口元に手を当てた。この大陸では、俺の予想したものとはかけ離れた状況になっているのかもしれない。

 というより、あくまでシナリオの枠外であり主人公達は物語通りに活動している、などというのが幻想ということか。


「有名なのか?」


 なんとなく尋ねてみると、カトラはコクリと頷き、


「皇帝の秘策、なんて言われている騎士団所属であり、現在は魔物の討伐を主にしているみたいですが」

「なぜ、君の幼馴染が?」

「詳しい経緯はわかりませんが、どうも騎士から剣を譲り受けて――って、どうしましたか?」


 俺が驚いた表情をしていたため、そういう反応を示したようだ……しかし、これは話の根本から変わっているんじゃないか?

 ここで俺は、とある予感を抱く。可能性は二つ。けど、まさか。しかし――


「……ルオンさん?」

「あ、ああ。すまない。それじゃあ今後護衛してもらう人物を紹介するよ」


 無理矢理話題を戻す。色々確認したいことはあるが、まずは彼女とソフィア達を会わせることから始めないと。


 俺はカトラを引きつれ、ソフィア達のいる宿屋へ。引き合わせた後、俺はソフィアに彼女をお願いして、アベルへ報告。彼からすれば戦力として換算していない人物達だったためか、二つ返事で了承した。むしろその人物でいいのかという表情だった。


 で、部屋に戻った後、エクゾンに一つ尋ねた。


「護衛として協力してもらうカトラから聞いたんだが……皇帝側は特殊な騎士団を編成しているらしいな」

「ああ、現在は魔物などに特化して行動をしている面々だ。名はアベル君達の反乱組織『天の剣』に対抗でもするのか『漆黒の剣』と呼ばれていた」

「……どういう人物が所属しているのかわかるか?」

「さすがに全員はわからんが……」


 そう前置きして出た名前は――


「……リチャル、話がある」

「俺?」

「ああ」


 訝しげに問い返すリチャルを手招きして、俺と彼は廊下に出る。


「何か気になることが?」

「あくまで可能性の話だが……相当面倒な話になっているかもしれない」


 リチャルの頭の上に疑問符がつく。対する俺はまず、彼に問い掛けた。


「過去、魔王の戦いにおいてリチャルは何度も禁術を利用して時を巻き戻したよな」

「ああ」

「その魔法は、魔法に関する知識があれば誰でも行使できるのか?」


 質問に、リチャルは一考し、


「可能だとは思う」

「使用する際、条件が必要か? 例えば、特定の血筋でなければ、とか」

「そういうこともないな。使い方さえわかっていれば――」


 リチャルが口を閉ざす。何が言いたいのか理解したようだ。


「……ルオンさんはこう言いたいのか? 首謀者であるネフメイザが、時を巻き戻していると」

「そういう可能性に行きついたのは、エクゾンの口から零れた『漆黒の剣』の情報だ」


 重い口調で俺は語る。


「帝国側の騎士で構成されていた人物だが……その中には国を裏切り反乱組織についた人間も存在していた。なおかつ主人公のユスカと共に戦うような人物もいるんだ」

「つまり――」

「俺の考えはこうだ。ネフメイザはユスカの存在を危惧し、殺すのではなく手元に置いて利用しようと考えた。彼らの力はその気になれば自分の野望に対抗できるくらいに力を持つと考えれば……味方にしてもおかしくない」

「なるほど、しかしなびくのか? 主人公達は皇帝の暴虐に反対の意を示しているんだろ?」

「やりようならいくらでもあるさ。例えば竜魔石の力を利用して意思を掌握するとか」


 そういう手法がなかったわけではない。そしてネフメイザならそうした竜魔石を手に入れる可能性はあるわけだ。


「あるいは、ユスカが時を巻き戻しているという可能性もある」

「主人公が……?」

「まあ単なる兵士で、物語の中でもほとんど魔法を使っていた人物ではないから、可能性は低い。もしかすると、彼もまた俺と同様転生者という可能性もあるわけだが……」

「最悪の可能性を想定した方がいいかもな」


 俺は頷いた――そう、ネフメイザが時を巻き戻し、謀略を巡らせている……これが現状としては嫌なパターン。


「ルオンさん、こう考えると天使の遺跡に対し色々していたのも納得がいかないか?」

「俺達がこの大陸へ来訪する可能性を潰すためということか?」

「そうそう」

「実際はここに来てしまったけどな……けど、果たして本当にそうかという疑問は付きまとう」


 どういうことかとリチャルは首を傾げる。それに対し俺は説明。


「俺達が天使の遺跡を利用してこの大陸に入って来た……なんて、俺達がこの大陸の誰かに直接言ったら話がこじれるし、言わないと思うんだよ。となると心でも読んだか、あるいはネフメイザと出会った時に話したか」

「確かに、事情を話すような状況は想像できないな」

「となれば心を読むことだけだが……そういった魔法はこの大陸には存在しないんだよな。少なくとも俺の記憶では」

「なら、天使の遺跡の件は俺達と関係ない?」

「かもしれない……俺達にできることは、現状でネフメイザがどこまで把握しているのか……それをつかむことか」


 杞憂だと思う部分もある。しかし『漆黒の剣』などと称し騎士団を編成している状況だ。可能性を考慮して対処するべきだろう。


「仮にネフメイザが時をさかのぼったとして……カトラが反乱組織にいた事実から、彼女が活躍していないのは間違いないと思う」

「ユスカさん達を手元に置いたのは、時を戻す前に脅威となるとわかったからだな」

「たぶんな……しかしリチャル。時間移動の魔法は自身の魔力を削るんじゃなかったのか?」

「削るが……それによって力を失うにしても、ネフメイザが何かしら竜魔石に対し調べていることから、力を穴埋めする手段を構築しようとしているのかもしれない」


 そうかもしれないな……しかし、もしそういう事態であったならば、今後のことを考えないといけない。


「ネフメイザの存在を警戒する場合……今までのやり方じゃまずいかもしれない。奴の裏をかく、作戦を考えないと」

「ここはやっぱり侯爵を味方につけるべきか?」

「その方法もありだとは思う。戦力を集結させれば、ネフメイザも窮地に追いやられるだろうし……しかし、こうなると面倒なことが一つ」

「再度魔法を使われないようにする、ということか」

「ああ。ネフメイザが何周したのかはわからないが、同じようにピンチになったら時間移動の魔法を使うだろう。それは奴の存在を取り逃がしたことに繋がる……せめてその時間移動の魔法を封じる手段があれば――」

「なら、役割分担するか」


 リチャルの提案。それに俺は首を傾げた。


「分担?」

「俺達が語っているのはあくまで可能性……しかし、想定していたことが本当だとしたら……できるだけ対策を立てておきたい」

「その通りだな」

「なら、そうした魔法を行使したことがある俺が、ネフメイザの時空系の魔法を止めてみせるさ」


 ――確かに、リチャルが適任。けれど何度も時間移動を繰り返した彼はその代償として魔力も小さくなっている……いや、待て。


「なら足りない魔力を補うべく、竜魔石を使うといいな」

「竜魔石?」

「竜、と名はついているけど通常の魔石としても活用できなくはないんだ。だからそれを利用し、リチャルの魔力を補強すればいい」


 と、ここで俺はさらに思いつく。


「そうだな……俺やソフィアだって今後戦うんだ。実力的に問題はないけど、できることはやっておくべきだな」

「何をするんだ?」


 リチャルの問いに、俺は笑みを浮かべながら答えた。


「俺やソフィアもまた……『創奥義』を習得しよう、という話さ」



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