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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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膨らむ疑問

「……俺やソフィアは、侯爵に同行することになるだろう」


 俺とアベルは一度部屋を出て廊下で話をする。侯爵は話し合い以後おとなしくしており、動く気配もないが……一応、注意する必要があるな。

 こちらの言葉に対し、アベルは少し思案した後、言う。


「この町にいる人員を別の場所へ移し、俺も屋敷へ向かうことにする。別所にいる組織の人間とそこで落ち合い、今後について話をすることにしよう」

「この場所以外にも人員が?」

「そう多くはないが」


 苦い顔つきのアベル。追い込まれたのは間違いないし、表情から苦しいのは見て取れる。だが、あきらめてはいない様子。


「それで……ルオンさんのおかげで窮地を救われた。感謝してもしきれない」

「俺達の目的とそっちの目的は一致している。ここは運命共同体ということで」


 返答に微笑を浮かべるアベル。ひとまず取り入ることには成功したようだ。


「わかった。今後もよろしく頼む」

「ああ。それで、侯爵の屋敷へ向かう前に、一つ確認したいことが」

「どうした?」

「組織の名簿とかはあるか? ソフィアの知り合いが混じっている可能性があるんだ」


 ――ユスカの存在を確認する上でいい方法としては、名簿を確認することかなと思ったのでそう言及。


 すると、


「存在はしている……基本他者に見せるわけにはいかないのだが、ルオンさんに頼まれては仕方がないな。後で持ってくるようにしよう」


 よし、とりあえず組織内にいるかの確認は出来そうだ。その後いくらか話をした後、出発は明日ということになり解散する。

 で、さすがに侯爵を放置しておくわけにもいかないので、俺は彼と同室となる。


「そう警戒しなくともいいだろう」


 侯爵はそう語るが……まあこっちについた方が利があると説得したので今更敵になることはないと思うけど。ただ、


「しかしまあ、ずいぶんとあっさりと味方に加わったな」

「色々と考えた末の結果だ」


 考えるような時間、あっただろうか……どこまでも含みを持たせる表情。なんというか、相手にするのが非常に面倒。


「他の侯爵も味方につけるのか?」


 ふいにエクゾンが問う。俺はしばし考え、


「そもそも、そう簡単に味方になるのか?」

「私と同じように説得すれば、なびく可能性は十分あるだろう」


 期待が持てる回答。ふむ、それなら――


「とはいえ、私のように簡単にはいかないだろうな」

「何故だ?」


 含みのある笑みをエクゾンは見せる……やはり何か根拠があるみたいだが――


「少々不可解な事柄がある」


 唐突に侯爵は言う……不可解?


「違和感程度であるため、今は私も話すことはできないが……どうやらこの戦い、まだ裏があるようだな」

「裏? ネフメイザのことではなく?」

「ネフメイザ自身、何かしら深謀を巡らせているということだろう」


 ……俺は天使の遺跡を探っていた竜人の騎士を思い出す。彼らがああして動いているということは、ネフメイザは単に皇帝の竜魔石の力を得る以外の何かをやろうとしているのかもしれない。


 俺はゲームの知識としてネフメイザが黒幕であるとわかっているわけだが……当然、動向の全てを把握しているわけではない。現在奴は目立った動きをしていないが、引き続き使い魔による観察が必要だ。


「ともかくだ。皇帝に反旗を翻す以上は騒動に巻き込まれる。さすがに他の四竜侯爵が出張ってくる可能性は低いと思うが、色々と警戒すべきだろうな」


 そう語るエクゾンの目は明らかに笑っている……予想はしていたが、元々の性格にも好戦的な要素があるようだ。


 ここからしばし沈黙を置いた後……ノックの音。返事をすると、外に出ていたソフィアが。


「ルオン様、アベル様から名簿が」

「ありがとう」


 それを受けとり確認し始める。文字もシェルジア大陸とは同じなので読めるのが幸い……結構分厚いのだが、それほどかからずに名前を探し出すことはできるだろう。


「気になる人物でもいるのか?」


 エクゾンが問う。俺は小さく頷きつつ文字を目でなぞる。そして――


「……これは」


 小さな呟き。


 一通り目を通した結果、ユスカの名前というのはついぞ見当たらなかった。ただ、ユスカの幼馴染であり、皇帝となる資格を持つ女性の名前を発見することはできた。

 これは何を意味しているのか……というより、組織に所属していないということを考えると、そもそも彼に関するイベントが発生していないということなのか?


「……さて、どうするか」


 ここで俺は考える。とはいえ現時点で取れる選択は――


「……なあ、エクゾン」

「何だ?」

「仮に、の話だが……皇帝を打倒し、空位になった場合、誰が次期皇帝になるのか推察できるか?」

「さすがに親族というわけにはいかないだろうな。となれば、しばらくの間は空位のままか。あるいは、皇帝という存在が消えてなくなるかもしれん」


 ――彼もまた、どうやら皇帝の資格については把握していないようだ。つまりこれは、この大陸におけるトップシークレットということになる。


 うーん、アベルという存在もいる以上、ユスカとは関わらなくとも問題はないかもしれない……が、皇帝の資格を持つ者は能力的にも高いので、できれば戦力として加えたいという面もある。


 考える間にエクゾンからさらに発言が。


「君達の武器についてだが、私の屋敷に到着した時点で作成することになるだろう」

「どのくらい時間が掛かりますか?」


 ソフィアが問う。それにエクゾンは「心配ない」と前置きした。


「精々五日ほどだ。君達の魔力を検査し、良い物を渡すようにしよう」


 武器の確保については問題なくなったと言えるだろう。残る問題はもう一人の皇帝候補――アベルに話をして、会ってみることにしようか。シナリオの枠外である以上、やれることはやっておくべき。ユスカの所在についてもわかるかもしれないし。


「出発は明日ですか?」


 ソフィアが問う。俺は頷き、


「ああ。今日は明日に備え休んでくれ――」






 翌日以降、情報収集を行いつつ侯爵の屋敷がある町へと向かう。移動手段は馬車。さすがにエクゾンを置いて行動するわけにもいかないので、こうなった。

 同行者としてはエクゾンに加えアベルと数人の傭兵。他の面々は別所に移るらしい。


 そして、町へ向かう間に一つの報告が入る……進行していた軍が突如、退却した。


「私が敵に回ったことを理解したようだな」


 エクゾンは笑みを浮かべながら語る。常識的に考えてそういうことになるんだろうけど……なんとなく、俺には違和感があった。


 いや、侯爵が裏切ったのだとわかれば退くのは至極当然。だが牽制的に軍を留めるのではなく完全な退却らしい。侯爵が攻めるような可能性に備え、戦力を減らさないようにしたのか?


 考えすぎかもしれないが……と、ここで俺はアベルに告げる。


「アベルさん、頼みが一つ」

「どうした?」

「今後戦っていく上で……俺達も独自に動く可能性がある。場合によっては俺が単独で、という可能性もあるわけだ」

「その実力ならば、しっかりと働いてもらわないとな」


 エクゾンが言う。なんというか、言い方からして相当戦わせる気だな。


「まあ、そういうわけだから当然ソフィアの護衛とかもできなくなる可能性があるわけだ。彼女の実力を考えるとそう心配しなくてもいいとは思うんだが……一応、数人くらいは組織との連絡役などを含め、俺達と連携して戦う人員が欲しい」

「……そのくらいならば融通は効く。人選は?」

「次の町にも組織の人間はいるだろ? 名前を言うから、その人物を会わせてもらえないか? そこからの判断は俺がするよ」

「わかった」


 頷くアベル。ひとまず会う段取りだけは整え……俺は、今後どうするか馬車の中で考え続けた。


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