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賢者の剣  作者: 陽山純樹
竜の楽園

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侯爵を破る剣

 エクゾンの持つ『竜生石』の能力は極めてシンプルで、驚異的な再生能力が付与される。

 魔力が周囲に拡散した直後、突如エクゾンの体が再生されていく。一挙に、という表現が似合うほどの速度であり、初めて目の当たりにしたソフィア達は驚いているに違いない。


『……先ほどの質問に、答えてもらおうか』


 完全に傷を癒し、竜が問う。俺は肩をすくめ、


「さすがにそこまで事情を説明するほどお人よしじゃないからな」

『そうか……しかし、残念だな。それほどの力――』

「そんなことを語っていられる余裕はあるのか?」


 俺は問いながら魔力をちらつかせてみる。すると、エクゾンはにわかに反応。


『まだまだ余力はあるというわけか』

「ああ。それこそ、お前を塵も残さず倒すことができる」

『しかし、私を滅することはできん』

「それを補うのが、彼だ」


 言葉の直後、アベルが俺の隣へやってきた。


「先ほどのように、しくじりはしない」


 強い声音で彼は言う――侯爵はこの状況をかなりの不利と見たらしく、警戒の色をずいぶんと濃くしたした。


『どうやら、貴様がいる以上勝ちの目はなさそうだな』

「早々にあきらめるんだな」

『引き際を見誤れば、どうなるか私自身心得ている』


 好戦的ではあるが、さすがに自分の命を脅かされれば別か――しかし、エクゾンを逃すわけにはいかない。もしここで逃がす結果となれば、いつ何時アベル達に魔の手が伸びてもおかしくない。


「逃がすと思うのか?」


 アベルも俺と同じ考えか、魔力が収束した剣を構え問う。


「ここで決着をつけさせてもらう」

『味方が現れたとあって、ずいぶんと調子づいたな』


 アベルは何も答えない。


『まあいい。私とて問答をするつもりもない』


 翼を広げるエクゾン。だが俺は左手をかざす。


「悪いけど、ここで戦いを終わらせるつもりはない。逃げられると思うな」


 その言葉に、竜は俺を威嚇するべくにらみつける。


『さすがに、貴様の力を目の当たりにして簡単に逃げられるとは思っていないさ』


 その言葉と同時だった。突如竜の周囲に魔力が生じる。

 言ってみればそれは、巨大な力の塊だった。技術の構築など存在しないような、ただひたすら力だけを収束させたもの。


 肌でその魔力を感じ取った直後、俺はエクゾンの目論見を理解する。巨大な魔力を真正面からぶつけ、それに気を取られている間に引き上げる、ということか――ならばと、俺は詠唱を開始する。


『私のやることを理解したようだが……どう打って出る?』


 エクゾンは問う――アベル達が相手ならば、対抗は無理だろう。いや、それだけじゃない。よしんば受けたとしてもおそらく――


『これだけの力だ。相殺しきる前に魔力が拡散し、町まで被害が及ぶ』


 宣告するエクゾン――そう、奴の狙いは町まで巻き込むことを考慮したもの。

 俺が町を守るために動くと読んでのことだろう。それは正解であり、このまま真正面から受けようとすると、処理に手間取るだろう。


 その間にエクゾンが退くのは自明の理であり……それに追いつくことは可能かもしれないが、より確実性を求めるなら答えは一つだった。


「……もう一度言うぞ」

『何?』

「逃がすつもりはない」


 何をするのか、という疑問の表情がエクゾンに垣間見られた瞬間、俺は魔法を解放した。

 ――闇属性最上級魔法『エンド・オブ・クリーチャー』。漆黒が俺とエクゾン。そしてアベルを包む。


『なっ……!?』


 さしものエクゾンも驚いた。突如周囲が漆黒に包囲されたのだ。その反応は至極当然か。


「これは……」


 アベルも声を発する。ソフィア達は魔法の範囲外だったためか漆黒の中には見受けられない。


「巨大な塊も、全方位からの魔法攻撃ならば相殺できる」

『く……っ!』


 多少ながら焦りの色を見せたエクゾンは、自身の正面に形成された魔力の塊を放つ。あくまで当初の予定通り、といったところか。

 それに対抗するべく、俺は魔法を完全に発動すべく腕を振る。刹那、闇が轟きエクゾンと光へ襲い掛かった。


 直後、竜の咆哮が聞こえてくる。光は闇に飲まれその輝きを失くしていく。

 そこからは一瞬だった。竜の断末魔が途絶え、次いで奴が生み出した巨大な光の塊が、闇の中でズタズタにされてとうとう消えた。


「……さて」


 一つ呟いた後、魔法の効果が終わる。闇の奔流に呑みこまれた竜だが……影も形もなくなっていた。


「見た目、竜魔石も完全に破壊されているけど……」


 まあ魔石は魔力の塊だし、機能はきちんと発動しているだろう。


 闇が消えおよそ十秒。ここでとうとう竜が立っていた場所に魔力が迸る。そこからはまたも一瞬の出来事。体がまるで亜空間から引っ張り出されたように、出現した。


『……なるほど、言いたいことは理解した』


 エクゾンは俺を見据え告げる。


『逃げられる選択肢がないというわけか』

「なら、どうする?」


 問い掛けた瞬間、竜は唸り声を伴い声を発する。


『どちらにせよ、お前達の切り札が通用するかで決まるな』


 ま、そういうことだな。俺がどれだけ魔法を浴びせようとも撃破は無理。ならば、アベル達の力がどこまで通用するか――


「そっちの準備は?」

「できている……通用するかはやってみないとわからないな」

「最大限の援護はするつもりだ」


 その言葉に、アベルは一時疑問の表情を示した。

 なぜ俺がここまで協力するのか……しかし尋ねるようなことはせず、彼は剣を構えた。


「この一撃で、決める」


 明言の後、アベルは走り出す。俺はそれに追随し、魔力を収束させる。


 対する竜は俺達を押し潰すが如く迫ってくる。その狙いは間違いなくアベル――それを阻むべく、俺は『デュランダル』を発動する。


『食らえ!』


 声と共に爪を振り下ろす。それに対抗すべく俺は光の剣を薙ぎ、爪を弾く――いや、

 即座に切り返す。エクゾンも反応できず、先ほどと同じように腕を両断する。

 だが攻撃はやめない。アベルへ執拗に狙いを定め迫る。しかし、それも全て俺が弾き返した。


 刹那、アベルが前に出た。仕掛けるタイミングを計り、決着をつけるべく動き出す。

 次いで魔力が周囲に満ちる。先ほどと変わらない大きさ。大地に仕込んだ魔力も途切れていないらしく、呼応するように周囲に魔力が満ちる。


 アベルはそれらを一つに束ね、剣に収束させる――この時、エクゾンの動きに迷いが生じた。一度後退するか、それともなおも攻撃を仕掛けるか。彼の力を目の当たりにして、直撃すればタダでは済まないと判断したのだろう。


 その躊躇を俺は見逃さず後ろ足に狙いを定め光の剣を薙いだ。両断はできなかったが、それでも衝撃を加え動きを止めることに成功。


 アベルの前に、阻むものはなくなった。


 接近し、とうとうアベルの技が起動する。二度目の『ラストオーシャン』――ゲームでは一度の戦闘で使用回数があった。シナリオが進めばその回数も増えるが、精々三回が限度。今のアベルに二度目の発動はかなり負担を掛けるはずだが――それでも彼は剣を振るった。


 視界が青に染まる。先ほどと異なるのは、大地の魔力すらまとめ上げた、まさしく最高の一撃であるという点。アベルの持つ竜魔石の力を最大限に生かす、侯爵を滅することができる最良の剣戟。


 エクゾンが回避に移ろうとする。だが足を狙った俺の斬撃により動きが止まり――アベルの剣が、とうとう侯爵へと注がれた。



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