侯爵と元騎士
帝都から攻め寄せる軍とは異なり、四竜侯爵エクゾンは俺にとっても完全に予想外の登場。相当上空からの奇襲に、驚くしかない。
「元々、二段構えだったのか……?」
帝国軍と合わせて侯爵が動いた? 組織にトドメを刺すのであればそのやり方だってアリかもしれないが、どうにも引っ掛かりを覚える。そもそも、もしそうだとしたらエクゾンが軍と歩調を合わせずに動くのは変だ。
「いや、先にエクゾンが動いて後詰めに軍が……? それならまあ理解できるか」
ともあれ、敵は近づいてくる。さて――
「ルオン様!」
ソフィアの声。見れば、リチャルと共に走り寄ってくる。
「合流しました。それで、相手は――」
「四竜侯爵エクゾンだ。飛来するまでそう時間は掛からないから手短に説明する」
俺の言葉にソフィア達は押し黙った。
「以前竜魔石について説明したと思うが……皇帝と領主が所持する物は他の魔石と比べて大きい力を持っている。いや、途轍もない差があると言ってもいい。で、リチャル。竜魔石を含有している武器が無ければ延々再生する竜のことは話したな?」
「ああ……エクゾンという人物が、その能力なのか」
「そういうことだ。そして彼らが所持する竜魔石には特別な名がついている。エクゾンの場合は『竜生石』だ」
いくら攻撃しても再生する……まあ竜魔石を含んだ武器さえあれば対抗できるので、対処はそれほど難しくない……が、
「含有量とかで、その辺りも変わってきそうだな……」
ゲームでは竜魔石が含まれた武器とそうでない武器とで別れていた。場合によって使い分けると攻略が楽になるという形だった。
ゲームでは少しでも含まれていたら効果があった。けれど現実ではそう上手くいかないだろう。今から武器を探す時間はない。状況的に倒せるのは反乱組織の面々だけ。果たしてエクゾン相手に風前の灯である彼らが対抗できるのか。
「……町の方が慌ただしくなっていますね」
ソフィアが言う。見れば、町の入口付近で傭兵達が集まっている。反乱組織の面々だろう。
「侯爵の存在に気付いているようですが……私達に干渉してくる可能性がありますよ」
「かといって、町の中に戻るわけにも――」
と、ここで一人が近づいてくる。青い甲冑を身にまとう人物は――
「ここは危ない。退避してくれ」
――組織のリーダーである、アベルだった。
「あんたは?」
「……詳しく話せないが、この町で活動している組織の長をしている。とにかく、町に入っていてくれ」
……侯爵が組織を狙いにやってきたという認識なのは間違いなさそうだ。で、それを迎え撃つために町の外に出ている。リーダーがアベルであることは帝国側も認識している。青い甲冑を着込む彼は、上空にいてもすぐに発見できるだろう。
俺はアベルと視線を合わせる――能力のほどは一瞥しただけではわからないが、少なくともあまり強そうには見えない。レベルはどのくらいなのか……果たして侯爵に対抗できるのか。
ゲームでは侯爵の強さは主人公のレベルに合わせて設定されていた。とはいえ現実となった今そうかというと、微妙……加え、現在はゲームと状況が異なる。侯爵が相当強くなっていてもおかしくない。
俺が無言でいると、アベルは業を煮やしたかもう一度口を開こうとして――上空から、竜の咆哮が聞こえた。
「悠長にはしていられない雰囲気だな」
俺はそう声を発すると、アベルへ述べる。
「ちょっとした魔法で、俺も竜の存在に気付いたんだ。もしよければ付き合うよ」
「……言っておくが、死んでも知らないぞ」
説得は無駄だと思ったか、アベルは返答すると組織の面々に声を発する。
「相手は侯爵一人だ! ここで迎え撃つ!」
呼応するような鬨の声。全員がやる気を見せているわけだが……さて、俺はどう動くべきか。
一番の問題は、アベル達の能力と四竜侯爵の一人であるエクゾンの能力がどの程度であるのか、という点。両者の間には決定的な差が存在するのか、それとも容易く覆せるくらいのものなのか。
とはいえ、簡単に覆せるのであればこんな状況になってはいないだろうし……だとすれば能力に隔たりがあると考える方が自然か。
それを確認するために様子を見るか……? いや、さすがにそんな余裕があるのか――
色々と考える間に、竜が近づいてくる。俺は相手の能力を探れないものかと思い、体の中にいるレスベイルへ呼び掛ける。
応答はした……体の内にいても魔力解析はできるのだが、さすがにこの距離だと厳しいみたいだ。
周囲の状況が慌ただしくなる。ソフィアやリチャルが俺に視線を移し指示を待っているのだが……やがて、
「ひとまず、侯爵の出方を窺うか」
俺が述べるとソフィア達が頷く。
そして――竜が俺達の上空に差し掛かった瞬間、飛来する。
『町の外に集まったか』
腹を打つような重い声だった。それと同時、俺やアベル達の真正面に竜は下り立ち――咆哮を上げた。
見た目は、銅色の竜。シェルジア大陸で見かけた竜と似たような姿で、四肢を持った西洋竜。
ただ、内に秘める魔力が相当なものだと俺には理解できる……竜魔石の力は様々だが、エクゾンの持つ『竜生石』は再生以外にも目の前のような姿に変化できる。
『直に貴様らを滅する軍が来るのだがな。その前に私が蹂躙してやろうと決めたのだ』
「――負けるつもりはないぞ」
アベルが応じる。組織の面々は戦闘態勢に入り、戦う気満々でいる。
『貴様らに私を滅することができるのか?』
「この場所にいて、お前に対する策を講じていないと思われているとは。甘く見過ぎなんじゃないか?」
『ここまで窮地に追いやられている貴様らがどの口で言う』
竜が唸る。迫力に圧倒されてしまいそうな状況だが、アベル達は退く気が無い様子。
このまま交戦すれば、犠牲は免れないはずだが……先ほど語っていたことは気になる。対抗策がアベル達にはあるらしいが――果たして効果があるのか。
『ふむ、いいだろう。実際に戦えばわかる話だ』
竜が言う。それと同時にアベルが一歩前に出た。
剣を抜き、構える。竜に対抗する騎士――という感じだが、傍から見たら無謀極まりない状況。
エクゾンもどうやら同じことを思っているらしく、嘲笑に近い視線を投げている……そこで、
『そちらも私に敵対する者達か?』
俺達に問い掛けた。
『それとも、巻き込まれた人間か?』
「一応、あんたの気配に気付いて駆けつけた人間だ」
――そう答えた瞬間、奇妙な沈黙が訪れた。
まるで俺のことを品定めするかのような……まだこっちは手の内一つ明かしていない。ゲーム上で魔力の解析能力が高いなんて描写はなかったし、俺達の力を見定め驚いているという雰囲気ではない。
ならば、なぜ……考える間にエクゾンは視線をアベルへ。
『まあいい。言っておくが元騎士。私と戦うのは無謀だぞ』
「その言葉、貴様に返そう」
冷厳な言葉。いよいよ戦いが始まる……そう思いながら戦闘準備に入る。
『策があるようだな。下手に介入せず、まずは彼らの動きを見るべきだろう』
ガルクが言う……変に横槍を入れて肝心の策が潰れてしまうのもまずい。仮にアベルの策が広範囲系の技や魔法だとしたら、俺達が動くだけで発動を躊躇ったりする可能性もあるし。
アベル達に危機が迫れば対応しよう……ソフィアもそうした考えなのか、剣を抜くだけで待機している。
俺は双方の動向を窺う。まだ動かない。タイミングを計っている。
そして――竜が一歩踏み出すと同時、アベル達もまた呼応するように動き出した。




