天の剣
翌日から、俺達は移動を開始した。俺とソフィアは移動魔法を行使するが、問題はリチャル――
「ま、二人の迷惑にはならないようにするさ」
彼はそう語り……情報収集を行っている数日でグリフォンのような魔物を生み出していた。
色は漆黒。人目を避けるように生み出されたそれは、リチャルしか乗せられないが十分な速度を持つ移動手段となった。
とりあえず移動手段については目途が立ったので、一路反乱組織がある場所へ向かう。大陸で言うと南東部に当たる。皇帝直轄領を離れ、四竜侯爵の領土内。
「軍の移動速度についてはどうですか?」
向かっている途中ソフィアが尋ねてくる。俺は使い魔と連絡を取り合い――
「中央から進む以上、俺達と比べて遅いのは間違いないよ。到着する前に、色々とやっておきたいところだな」
「まず反乱組織に入れるかどうかだけど」
リチャルが言う。俺は頷き、
「真正面から入れてくれと言っても信用しないだろう……なので、本拠となっている町に入り込んで様子を見ることにしよう」
「ルオン様、主人公を探すんですか?」
「そうだな……それで、敵が襲来するという事実を反乱組織に伝えても信用してもらえないだろう。少々やり方はアレだけど、敵軍を利用するしかない」
「利用?」
聞き返したソフィアに、俺は笑みを浮かべる。
「簡単に言うと、俺達の力で敵を追い返すということだ」
「なるほど、ルオンさん達の実力なら敵を成敗するのはそう難しくないな。それを利用して組織に入り込むと」
納得の表情を浮かべるリチャル……彼の言う通り、その辺りのことについてはどうとでもなりそうな状況。
「……ソフィア、一応確認だが」
「はい」
「ソフィアのことがバールクス王国王女だということは、俺達が言わなければたぶんバレないと思う」
「そうですね。私自身、この国の方々と会ったことはありませんし、問題ないかと」
「わかった。その辺りの事については基本話さない方向で」
「はい」
よし……と、ここでリチャルが俺に問い掛けてきた。
「ルオンさん、俺は戦力としてカウントされているのか?」
「……魔物を大量に使役することができれば、それだけ戦力アップにもなる。反乱組織側は窮地に追い込まれている。リチャルの助けは何よりだと思う」
「恐怖されないことを祈るよ」
茶化すような言動と共に、リチャルは肩をすくめた。
「で、ルオンさん。組織のある町へ入り込んだら、当面様子を見るのか?」
「そのつもりだけど……まあ、主人公とリーダーだけは見つけたいところだな」
「そっか……あ、それとルオンさん。一つ確認なんだが、討伐軍というのは反乱組織を狙い定めて攻撃するのか?」
「いや、現在行われている所業から察するに、町ごと焼き払う気でいるのかもしれない」
「疑わしき者も全て等しく滅するというわけか」
「ああ。そこは間違いないと思う」
「なおさら、戦わなければなりませんね」
ソフィアが力強く言う……俺も同意し、二人と共に先へと急いだ。
できれば武器を調達したいところだったが、現状旅費程度の資金しかないので断念。四竜侯爵に対抗できる物となるとやっぱり値は張るので……今回の戦いについては、あきらめるしかなさそうだ。
まあ、魔力的な相性さえ合えば使えるので、最悪誰かの武器を拝借するという手もあるか……色々考える間に俺達は進む。
やがて、さしたる障害もなく俺達は町へ辿り着く――名はプオリテ。町の規模としてはそれなりだが、交易路でないため町を歩く行商人の数などは少ない。
一応、背は低いにしろ城壁なども存在している町なのだが、正直防衛戦をやれるような場所じゃない。反乱組織側が軍が侵攻している情報を手に入れ、その準備をしたとしても……対抗するのは数と質両方で厳しいだろう。
「二人は宿を手配してくれ」
俺の言葉にリチャルは「任せろ」と応じ、去っていく。一人残った俺は、町の中を歩き出す。
事前に使い魔を用いて町の状況については調べていた。圧政の影響がここでも出ており、人々の表情は暗い。
さらに言えば、これから町の人々はわけがわからないまま帝国軍に蹂躙される……反乱組織に協力する人も中にはいるはずだが、全部ではない。そういった人達からすれば、理不尽極まりないだろう。
「さすがにそういった凶行は止めないと」
もし戦う場合……仮に四竜侯爵を相手にすることになっても、対応はできる。倒すことは無理だが、食い止めることは可能なのでやりようはいくらでもある。
で、当の反乱組織はどういった行動をしているのか……その辺りを調べられないかと思って今歩いている。現状、物語とは逸脱した状況であるわけだが、反乱組織内がどうなっているのかをできれば調べたい。
使い魔で調べた限りでは、ユスカの姿は確認できなかったのだが……さて。
俺は町の通りにある酒場に入る。昼間だが一応開いており、中には多少ながら人もいる。この場所には時折反乱組織のメンバー……というか、リーダーがいるのだが――
「あ……」
店の奥に位置するカウンター。そこに、俺が見つけたいと思っていた人物が。
おそらく、酒場で誰かを待っているのだろう……綺麗にとかされた金髪はこの酒場に不釣り合いなほどで、後ろ姿の時点で気品を感じ取ることができる。座る姿だって場違いであり、貴族であるような印象さえ受ける。
実際のところは騎士階級――いや、元騎士であるため、その辺りについてはあながち間違っているというわけではない。
名はアベル=フォンティアス。ユスカが所属する反乱組織『天の剣』を率いる人物であり、また皇帝になる資格を所持する三人のうちの一人。
美形、長身、そして頭脳明晰に剣の腕も高いとくれば、最早悪い部分を探すことすら難しいほどなわけだが……彼の世渡りの上手さが災いしたのだろう。ネフメイザに目をつけられ、それに気付いて騎士を脱退。その後、皇帝の暴走から組織を結成した。
物語の中では相当人々の支持を集め、またユスカを始めとした面々の功績もあり、神格化されているくらいの人物だった。組織を形作る上で重要な要素と言えるカリスマ性を十分所持する人物であり、組織のリーダーとしての資格に足る人物と断言できる。
俺は席につきつつ彼の様子を眺める。決して動かない背中を見ながらどういう心情なのかを考える。組織存亡の危機。加え首都からは討伐軍が押し寄せている……その辺りの情報を彼が知っているかどうかはわからないが――
ふいに視線を感じたか、彼は振り向いた。俺は一度視線を逸らしやり過ごす。しばらくした後もう一度目を向けると、傭兵らしき人物と話していた。
聞き耳を立てられる距離ではないが……ここでガルクが発言。
『会話については、我が魔法を使えば聞き取れるぞ』
「……そんなことできたのか?」
『ルオン殿と旅をしている間に、少しばかり魔法を構築したのだ』
「なんでまた?」
『ルオン殿は騒動に首を突っ込む性分らしいからな。我としても何か援護できる手法がないか探していたわけだが……例えば、敵から情報を盗み聞きするというのは良いと思ってな』
「そっか……」
『言っておくが、我も普段は使わんからな。現状は緊急性が高いと思ったためやるまでだ』
「わかってるよ。俺も盗み聞きの趣味はない……早速だが、頼むよ」
呼び掛けると、ガルクは魔法を使用した。
ほんの僅か――アベル達にも気付かれない程度の魔力が俺を包む。視線を送られたら怪しまれるかな、と思ったが二人は会話に集中している。
そこで、俺の耳に会話が飛び込んできた。




