白い騎士
白騎士の動きは直情的であり、賢者の力を利用して一気に片をつける魂胆だとはっきりわかる。
魔王からどういう指示を受けているかわからないが……俺は周囲の仲間に指示を送る。
「同じように賢者の力を持った敵が現れるかもしれない。全員警戒を!」
言葉と同時、迫る白騎士を迎え撃つ。愚直と言っても差し支えない白騎士の一撃を、俺は真正面から受けた。
見た目からすれば、俺があっけなく吹き飛ばされてもおかしくない状況なわけだが――押し返す。
次いで、斬撃を両腕に浴びせる。白騎士は大剣を取り落すようなことはなかったが、それでも大きく動きを鈍らせた。
「今だ!」
言葉と共に、オルディアとエイナが俺の左右から前に出る。白騎士は俺の斬撃による硬直から抜け出せず、二人の剣をまともに食らう。
俺がどれだけ攻撃しても傷一つつかなかった鎧に、剣の筋が生じる。だが一撃では倒せない。続けざまに双方とも剣を繰り出す。
連携――とは少し違うだろうか。両者が白騎士を左右から挟み好き勝手やっている、とでも言えばいいだろうか。
白騎士は魔王から賢者の力を貰っているのは間違いないが、賢者の血筋かつ五大魔族から力を得ている二人の剣の前にはまったく意味を成さない――結果、鎧は大きく損傷し、白騎士は後退を余儀なくされた。
「ルオン様!」
そこに、後方からソフィアの声。視線を転じる前に魔力を感じ体を傾ける。
刹那、雷撃が真っ直ぐ白騎士へ放たれた。ソフィアの『ライトニング』だ。
魔法は白騎士を追撃する形となり、さらに鎧を損傷させる。
「ソフィア王女……」
「援護がゼロというわけにはいかないでしょう」
エイナの言葉にソフィアは言う。
「それに、賢者の力を所持する相手です。こちらも相応の動きをしなければ」
「わかった。ならソフィアは魔法で援護を」
俺が言葉を発すると同時、白騎士が動く。かなりのダメージであるのは間違いなく、この戦いの終わりがそう遠くないことを予感させる。
白騎士は損傷したが――構わず再度突撃を敢行する。ここにきて、俺は疑問を抱いた。
精霊や竜に裏切り者を仕込むなど深謀を巡らせる魔王が、賢者の力を用いて魔物を生み出した――そいつの動きはひたすら突撃で、他の魔物が見せるような思慮は見受けられない。
オルディアやエイナの対応を見て取っても作戦は変わらない……この白騎士は魔王にとってどういう役割なのか?
疑問が生じる中で、俺は『デュランダル』を起動する。無我夢中で走る白騎士に対し、オルディア達の前に出て剣を見舞う。
先ほどと同様、剣同士がぶつかり合う。鎧が損傷しているためか先ほど以上に力がない。一気に抜ける――そう確信した俺は力を入れた。
押し返した結果、大きくのけぞる白騎士。そこへ、再び左右からオルディアとエイナが。
加え、後方からソフィアの魔力――俺が横を逃れると同時、まずエイナ達の剣が入った。
斬撃は易々と鎧を薙ぎ、動きを大きく縫い止める。そこへソフィアの『ライトニング』が入った――結果、とうとう白騎士は崩れ落ちる。
その瞬間、突如鎧が発光した。
「っ!?」
驚きながら、俺は咄嗟に光の剣で滅びかける鎧を弾き飛ばす。自爆でもするのかと思ったが、結果として鎧は光を生じた後、消滅した。
「……今の、何だ?」
疑問がオルディアから漏れる。その次に言葉を発したのは、俺の肩に出現したガルクだった。
『何か魔力を発していたようだが……無害だな』
「滅びる寸前に魔法を使おうとして、不発に終わったのか?」
俺の疑問にガルクは『わからん』と答える。
『一度調べてもいいかもしれんな』
「こちらも終わりました」
後方からフィリの声。目を移せば、魔物を撃破し終えた仲間達が。
「大丈夫みたいだな」
「はい。先へ進みますか?」
「ああ……ただしさっきの光が気になる。一度体の調子を確認した方がいいな」
提案した後、クウザやアレーテが確認するべく動き出す。一方俺は――何が狙いだったのか考えたが、答えが出ることはなかった。
結局、仲間達に異常は見当たらず……先に進むことになった。
魔王の居城の構造は確かにゲームの時と比べ複雑だったが、俺の記憶を頼りに正解の道を進んでいく。途中、幾度となく魔物に阻まれるが、その全てを俺や仲間達が滅していく。
城内で交戦を行い続けたことにより、各面々の能力も高まっている。最早俺達を止められる魔物は存在しないと言ってよかったし、残るは魔王との決戦だけだった。
「……よし、これで終わりだな」
俺は『グングニル』を放ち撃破した魔物を見据える。大きな広間であり、滅した相手は本来この居城における中ボス。とはいえ、俺にとってみれば撃破はそう難しくない。
「終着点は近いのか?」
ふいにアルトが質問。俺は即座に頷き、
「こいつが現れたということは、魔王が待つ広間はそう遠くない。休憩するか?」
「体力的には問題ないさ。というより、ほとんどそっちが倒しているからな」
肩をすくめるアルト。他の面々もまだまだ戦えるという表情であり、俺としても安心する。
「……魔王の能力についてですが」
ここで、ソフィアが話し始めた。
「ルオン様の資料から特性は把握していますが……それ以外の攻撃をしてくる可能性はありますか?」
「俺がいる以上、何か別の手を打ってくる可能性はゼロじゃない」
――ここまで、賢者の力を付与した白騎士以外にゲームと異なる要素は存在していないし、罠もない。アレーテやクウザからすれば拍子抜けもいいところかもしれない。魔王としてはそんなことに力を費やすより、直接対決を行う時に備え少しでも力を残す方を選んだのだろうか。
「さっきの魔物は、ソフィア王女がどのような技を使うのか確認するためだったのかもしれません。けれど失敗に終わった」
エイナが言う。俺は彼女に同意し頷いた。
「そうかもしれないな……ソフィアの全力は見せていない。これはかなり大きいと思う」
四大精霊の力を結集させ、なおかつ神霊達の魔力を注ぎ込んだ剣。そしてなによりソフィアの鍛錬の結果……魔王に対する最高の切り札が生まれた。
あの剣戟を一撃当てさえすれば……一太刀で決着がつくのかはわからないが、勝利を引き寄せる最強の一撃なのは間違いない。
俺達は少々休憩した後、広間を抜け先に進む。城の奥へ進むたびに少しずつ魔物の数が少なくなっている。入口に近い場所ほど魔物を多く配置したのか……色々と推測しつつ、俺達はなおも進む。そして――
「……着いた」
俺が呟くと共に、仲間達全員が表情を引き締める。
城の入口にも似た重厚な漆黒の大扉。それが魔王の待つ広間に繋がっている場所だと、はっきりと俺は記憶していた。
「……ま、ここまで来たのなら今更という感じだな」
俺は一つ呟いた後、扉に手をかける。大した力は入れていないが、ゆっくりと扉は開いた。
広間が見える。その奥には――
『待っていたぞ』
魔王の声。俺やガルクを除いた面々は初めて相見える存在であり、全員が警戒を示す。
『ここまで難なく来られたのは、貴様達にとっては想定内といったところか』
魔王の視線がどこを向いているのかわからないが、先のセリフは俺を見ながら発したものだろうと推測くらいはできる。
俺はソフィア達を先導する形で室内へ。一方の魔王は動かない。魔物などをけしかけて分断させるなんて策をとってきてもおかしくないのだが、それもない。
「ずいぶんと余裕じゃないか」
俺が声を出す。魔王は、僅かな間を置いた後応じた。
『なぜ余裕なのかは、戦ってみればわかる』
「……やはり、対策を立てているということか。賢者の力を注ぎ込んだ魔物を参考にして、何か思いついたか?」
『ああ』
いとも簡単に答える魔王。ハッタリではなさそうだが――
「ルオン様」
「心配するな、ソフィア」
ソフィアの声を、魔王と対峙しながら俺は耳に入れ返事をする。
「全力であの技を使用することだけを考えてくれ」
次いで俺は後方に指示を出す。
「魔王は俺が食い止める。全員で、ソフィアを守ってくれ」
『一人でどうにかなると思っているのか?』
魔王が問う。それに対し、俺は笑みを浮かべ、
「ああ、そのつもりだ」
『……まあいい。お前ほどの力があれば、確かにやりようはいくらでもあるな』
「ずいぶんと評価してくれているみたいだな」
『そうかもしれんな』
語る魔王の声音には、どこか余裕があった……いや、少し違うだろうか? まるでこれから放つ策に対し、俺達がどう驚くか楽しみにしているような――
『始めるとしようか』
魔王が言う。それに合わせ、俺は剣を構える。
――魔王との最後の戦い。それが今、始まった。




