城内の脅威
「クウザ、アレーテさん、最大限に警戒してくれ!」
魔法により消し飛んでいく魔物を見ながら、俺は後方に向かって叫んだ。
次いで、気配を探る。入口にそこそこの戦力を割いているようで、消し飛ばしてもさらに襲い掛かってくる。
「邪魔だ!」
だが俺はひるまず『ルーンサイクロン』を使用し、例外なく吹き飛ばす。次いで、さらに声を発した。
「俺の記憶にある魔物ばかりだ……!」
――この場にいる面々は俺の作成した資料に目を通し、知識を得ている。魔物の姿形についても伝えてあるため……対処は出来るはず。
前方から迫る敵は俺が魔法や剣を利用し吹き飛ばしているのだが……撃破しきれなかった魔物達は横を抜けようとする。だが、フィリを始め他の面々は確実に対処している。知識もあって十分に戦えている。
「魔王の居城全てを把握しているわけではないが、案内はできる――!」
俺はそう明言すると、なおも襲い掛かってくる魔物を観察しつつ城内の様子を一瞥。黒を基調とした、荘厳美麗な装飾の施された城内。魔法の明かりによって室内は絶えず照らされ、視界の確保には困らない。
次に真正面にある廊下に目を移す。そこが正解の道。
「一気に魔王のいる場所へ向かう。ついてきてくれ!」
最短距離を駆け抜け、魔王の下へ――そう決めた俺は迷わず足を踏み出す。なおも魔物が迫ってくるのだが、その全てを問答無用で吹き飛ばす。
「罠については今のところないようだ」
クウザの言葉。俺は頷いた後、ガルクに呼び掛ける。
「ガルク、クウザ達と共に罠の警戒を」
『うむ、承知した』
右肩にガルクが出現。俺は差し迫る魔物達を一蹴しつつ、突き進む。
仲間達もそれに追随。ソフィアだけはエイナやシルヴィに守られ剣を握ってはいるが力を発揮しているわけではない。
護衛である二人も奮戦している。ソフィアを狙おうとする上級悪魔に対し、光属性の魔導技を放ち魔物の動きを止めたエイナに続き、連撃で一気に勝負を決めるシルヴィ。連携は十分。ソフィアの護衛を共にやってきたからこその動きだ。
他の仲間達もそれぞれ対応できている。フィリやコーリはタッグを組んで応じているし、アルトとキャルンについてもそうだ。ネストルは魔法使いであるラディやイグノスを護る形をとり、クウザなどの魔法使いは的確に援護している。幾多の戦場を乗り越えてきた結果とでも言うべきか。
真っ直ぐ進むと見覚えのある左右に進む分岐に到達。迷いなく俺は右へ進み、さらに魔物を蹴散らす。数は多いが、廊下は魔物達の動きも限定されるため外よりも対処が容易。この調子でいけばそうかからない内に魔王の所へ到達できるかもしれない。
そう思った矢先――視界に新たな魔物。ここで俺は立ち止まった。
「……ルオン様?」
ソフィアの声がしたのだが、反応できない。真正面――まだ記憶にある道を辿っていたのだが、その途中に見慣れない魔物がいた。
「どうやら、魔王も俺の存在から新たな種を生み出したみたいだな」
その言葉でソフィア達も警戒を行う……先へ続く道を阻むようにして立っている、白色の鎧騎士が一体。とはいえ、中身はなさそうな雰囲気。デュラハンなどのように鎧だけ動くタイプといったところか。身長は俺の倍あるので、巨大な部類に入る魔物と言える。
単なる魔物であれば俺も容赦なく魔法を使って粉砕していたのだが、やはり見覚えが無い。いや、それだけじゃない。あれは――
『……ずいぶんと、手の込んだ魔物を生み出したな』
ガルクが言う。俺が立ち止まった理由を察した様子。
『どうやら、不可思議な力を相当仕込んだ魔物のようだ』
「となれば、結構な力を持っているというわけだな」
俺は剣を握り直し、前に出る。直後、後方から魔物の雄叫びが聞こえたので、背後に呼び掛けた。
「目の前の魔物を倒す。後方からの敵は頼んだ」
「わかりました」
フィリが答えた。俺は「頼む」と告げ魔物を観察。
警戒し立ち止まったのは、不可思議な魔力を所持しているから――だけではない。嫌な予感がした。もしや、こいつは――
魔物――白騎士とでも言うべき相手が動き出す。右手には大剣。廊下は広いため十分振り回せる空間が存在する。
俺はまず『ホーリーランス』を使用し、その胴体を撃ち抜いた。全力で放ったのは間違いなく、普通の魔物ならば消滅してもおかしくない一撃だったのだが――
「……やっぱりか」
傷一つついていない。そればかりか、構わず突撃――その間にこちらは新たな詠唱を開始。
魔力を高める間に白騎士が接近し、横薙ぎを放つ。俺はそれを真正面から受けた。
常人なら弾き飛ばされるどころか耐え切れず両断されてもおかしくない一撃。けれど俺は難なく対応し、逆に押し返した。
左手をかざす。同時に生じたのは――光属性上級魔法『グングニル』だ。
神の槍が『ホーリーランス』と同様、白騎士の胸部に直撃する。相手は吹き飛び、轟音が響き……俺はさらに詠唱を開始する。
「ルオン様!?」
ソフィアが叫ぶ。今の攻撃に耐えられるはずがないと思っている様子。
しかし、俺は確信していた。まだ生きている。
光が消え、白騎士の生存を確認。次いで動こうとする相手に追い打ちの魔法を浴びせる。
氷属性最上級魔法『スノウユグドラシル』を。
刹那、まるで精霊コロナが守っていた大樹のように、氷が形成される。その中心に白騎士は閉じ込められ、軋んだ音が響く。
「さすが、だな」
クウザの声。視線を転じれば彼とその横にいるアレーテが呆然と眺めていた。
しかし、
「……駄目だ」
声の直後、氷が一部弾け、さらにヒビが入り始める。
「やはりか……予感は当たっていたな」
「ルオン様、予感とは――」
ソフィアが尋ねる間に白騎士が氷を抜け出す。見た目に外傷はない。
「これは……よほど強力な魔力障壁を?」
「正解だよ、ソフィア。けど、普通のやり方じゃない。もっと特別な障壁だ」
その言葉で――ソフィアは察した。
「まさか、賢者の力を……!?」
「そうみたいだ。魔王自身が抱えていた力を、この魔物に注いだということなんだろう」
力を分け与える……そんなことをすれば魔王自身が弱体化してしまうわけだが、不可思議な魔力を代用したということなのだろうか?
「選択肢は二つだ」
俺は剣を構え直し仲間に言う。
「賢者の力を持つ面々で攻撃を仕掛けるか、それとも――」
「私の技で一気に仕留める、ですか」
ソフィアの言葉に俺は頷いた。
「とはいえ、さすがに魔王相手でもないのに技を使うのはまずいな……手の内を明かすわけにもいかないだろ」
「ならば、私達の出番ですね」
エイナの声だった。さらに、オルディアも前に出てくる。
「後方はフィリやラディが対応するらしい。前方は俺達がやる」
「わかった……ソフィア、下がっていてくれ」
「よろしいのですか?」
「ああ」
返事をすると同時、白騎士が大剣を構える。
「二人とも、俺が敵の攻撃を抑える。その間に剣を叩き込んでくれ」
俺は指示を出した後、刀身に魔力を注ぐ。賢者の力を利用した障壁を用いている以上、攻撃は通用しないがやりようはある。
「――来ます」
エイナが声を発する。同時、白騎士が俺達へ向け進撃を始めた。




