王と神霊
「神霊達の魔力を注いだけど、使い方としては基本は使用者の力を増幅させる役割に終始しているわ」
外に出て解説を始めるコロナ。工房に集った人達も興味を抱いている様子だが、剣の力を多少なりとも警戒しているのか、遠巻きに観察している。
「使用者……この場合はソフィア王女になるわけだけど、魔力を込めることで神霊の力が共鳴し、力が大きく増幅する」
「えっと……」
「ま、実際やってみればわかるよ」
投げやりだな、おい……ソフィアも同じことを思ったか小さく苦笑しつつも、刀身に魔力を注いだ。
その結果――突如、大気を震わせるような魔力の胎動が剣から発せられる。まるで大陸に眠る魔力がソフィアを中心にして渦を巻くようであり、彼女が精霊と化したかのような――って、言い過ぎか。
「わっ、と……」
ソフィアとしてもその魔力の大きさに苦戦しているらしく、声を上げる。こればかりはさすがに俺達の力を借りるわけにもいかないため、大変そうだ。
「私達も協力します」
そう述べたのはレーフィン。ソフィアの横に出現し、アドバイスを行う。
「我ら契約精霊も助力し、力を制御します」
「わかりました」
刹那、さらに魔力が膨れ上がる。
「こうやって周囲に魔力が生じているのは、魔力自体が拡散しているということ。そういう風にならないよう処置はしたと言ったけど、さすがに制御できないようではその効果も意味ないわね」
ここでコロナが解説する。
「剣の機能がきちんと果たされるためには、相応の訓練が必要ということね」
「わかりました」
「頑張れる?」
「大変ですが……やってみせます」
頷いたソフィアは、一度魔力を閉じ俺へ言った。
「最低でも数日は、時間が必要です」
「当然だな。訓練する場所はどうする?」
「一度、砦に戻りましょうか」
なら、それで――結論が出て、それから工房にいた面々が引き上げ始める。その中で俺はなおも剣を振るソフィアを見守ることにして――ふいに、フィリから話し掛けられた。
「ソフィア王女が制御できたら、決戦ということですよね?」
「に、なるな。さて、どうなるか……」
ソフィアの訓練状況、魔王の動き、そういったものを加味して今後の算段を立てなければならない。
その辺りは、神霊達と話し合い考えることにしよう……結論付け、俺は口を開いた。
「俺達がソフィアを守り、彼女が魔王を討つ……その方針は変わらない。賢者の血筋達を全員集め、居城に乗り込んだ時のことを話し合うとしようか」
「そうですね」
フィリは同意――俺達は、精霊と共に剣を振るソフィアを眺め、一日を終えた。
その後、俺達は砦へ戻り、今後のことを協議。その間にソフィアは剣の扱い方をおおよそ把握し……僅か数日で『スピリットワールド』をきちんと扱えるまでに至った。
以前の剣では『スピリットワールド』を行使する場合、最大出力は壊れるため不可能だったが、今回は違う。全身全霊の力と最強の剣……まさしく、魔王に対する切り札だ。
こうなれば当然、話は魔王との戦いへ向く――
「……いよいよ、というわけか」
場所は騎士団の砦。バルザードと協議にやってきたカナンと話をするため、俺と王は会議室で対面した。
「魔王側は迎え撃つ構えなのか、魔物達もほとんど動いていない……こちらが動いた時、相手もまた動き出すことでしょう」
「まず予想されるのは、居城の前で多数の魔物との交戦か」
「はい。その数は軍と言っても差し支えないほどだと思います」
「激戦が予想されるな」
「俺の能力ならば、対処はそう難しくありませんが……」
「ルオン殿ばかりに戦わせるわけにもいかないだろう。それに、どれほど強かろうとも一度に対応できる魔物の数には限界がある」
確かに……ここでカナンは笑みを浮かべた。
「ルオン殿の実力ならば、ソフィア様を魔王の下まで連れて行くのは可能だろう……貴殿はそちらに集中してほしい。南部の侵攻を跳ね除けたばかりであるため、軍の立て直しもあまりできていないが……魔王の居城へ向かう面々については、現在準備中だ」
そう述べると、王は立ち上がった。
「あと少し……待ってもらえないか」
「わかりました」
頷く俺に、カナンは笑みを浮かべ退出した。
一人残された俺は、頭をかきつつ今後どうするか思案する。
「俺にできることは、ソフィアを守るべく……精霊を鍛えることかな」
『協力しよう』
ガルクの声。俺は「頼む」と応じ……動き始めた。
それから――剣の作成を始めるべく精霊コロナに会いに行ってから、およそ十日。南部侵攻からほとんど日が経っていないにも関わらず、カナンは人間側の軍勢を取りまとめ、決戦に赴く軍の態勢を整えた……王の手腕が凄まじいと考えるべきだろう。
リチャルの魔物達も今回の作戦に組み込み、なおかつ竜や魔狼達も参戦すると改めて報告を受け……まさしく、総力戦という状況だ。
「一番の問題は、魔王がどんな手を使ってくるかだが……」
作戦会議の場で、カナンはこう話す。
以前使用した会議室で話をしているのだが、ここにいるのは俺とソフィアとカナン。そしてアラスティン王国将軍であるボスロのみ。他の面々は準備に勤しんでいる。
「ルオン殿、どのようなことが考えられる?」
「俺の能力を理解している以上、俺とソフィアを引きはがす策をとるでしょう。あるいは、ソフィアを孤立させるか……」
「そういった罠などに対する防御は、ナテリーア王国の魔法使いアレーテが申し出た」
「彼女が?」
「また、あなたの仲間であるクウザ殿もそれに協力すると……あの二人の実力に加え、ソフィア様と契約する精霊の力もある。罠などについては問題ないはずだ」
「そうですね……また神霊も、協力するとのことです」
『うむ、当然だ』
ガルクが出現し話す。
『魔王を倒すための作戦だ。喜んで協力する。とはいえ魔王側も我らが動くことは予測済みだろう。我らが居城に踏み込まないよう行動してくる可能性は高い』
「つまり、居城に踏み込む際は、神霊の方々の協力がないという前提で動くべきだと……ルオン殿、魔王へ挑むための戦力は整えたが、さすがに人間側の兵力全てを傾けることはできないため、了承してほしい。またソフィア様の護衛である騎士エイナや、冒険者であるフィリ殿は戦うつもりのようだが」
「俺が行くなとも言えませんし、彼らの意志を尊重してもらえれば」
「わかった……南部侵攻以上に苦しい戦いになるかもしれない。ルオン殿、大丈夫か?」
「ええ」
俺の返事にカナンはどこか申し訳ない表情を示す。
「本当ならば、私も戦いに出るべきかもしれないが……」
「いえ、魔王は窮地に立たされているとはいえ、人間側に干渉してくる可能性もゼロではありません。カナン王はそうした可能性を考慮し、対処して頂けると」
「わかった」
『貴殿らに対しても、精霊達は協力する』
今度はガルクが述べる。
『魔王は攻め込んだ我らの動きを止め、王を始めとした人間を直接狙う――という可能性もある。それを防ぐには、我らの協力が対処としては最も容易だろう』
「ガルク殿、申し訳ありません」
『構わんさ』
笑うガルク――これもまた、ゲームのシナリオとは大きく異なる部分。神霊という存在が、人間に協力するという事実。
決して俺が「人間を守れ」などと言っているわけではない。しかしガルクを筆頭に精霊達は協力姿勢を見せている。きっと魔王との戦いが終わっても、このような関係は続くだろう。それは間違いなく、この大陸に良い結果をもたらすはずだった。




