事前準備
一日と掛からないくらいの旅路を経て、目的地へと辿り着く。その場には剣を生み出すための準備が進められており……って、おい。
「いくらなんでも多すぎやしないか?」
「多すぎて困ることはないと思いますが」
エイナが言うけど……いや、あの。用意された場所は大きめの工房だが、そこに職人らしき人がごった返している。
準備をしておいてくれとは言ったが、さすがにここまでとは予想していなかった。
「これ、確実に興味本位で来ている人間いるだろ」
「まあ、そうでしょうね」
苦笑するソフィア。
「カナンに協力してもらって集めたのですが……やはり、誰もが興味を持っているというわけですね」
……そりゃあ、神霊達の力を結集した武器だからな。どんな物が生まれるのか興味を抱くのは当然であり、俺も参加するなどと誰もが手を挙げる状況になってもおかしくないわけだけど。
「……剣の作成に支障がなければいいけどな」
俺が呟いた時、茶色いローブを着た男性が俺達に近づいてきた。
年齢は三十代から四十代の間といったところか。正直言って特徴も少ない黒髪の男性。
「お待ちしておりました」
その言葉と共に一礼。代表して俺が応じる。
「……どうも」
「では、こちらに」
彼に先導され中へと入る。すると――
「お、来たわね」
工房の中にいたのは、人間の姿をしたフェウスだった。
「……待っていたのか?」
「大方仕事は終わったからね。いやあ、結構人間て魔法技術が発達しているのね。正直驚いたわ」
「……もしや、フェウス目当てでここに来た人物とかもいるのか?」
「おそらくな」
別の声。見れば、アズアが奥から出てくる――まあ、神霊が来る以上こうなって当然か。
「さっさと始めよう。肝心の素材は?」
「あ、えっと――」
「そう焦る必要もあるまい」
次もまた別の声。見れば、アズアの後方から白いローブを着た男性が。
その姿は……言ってみれば、前に見た少年ガルクが成長したような姿で――
「おい……もしかしてガルクか?」
「その通りだ。何か問題があるのか?」
笑みを浮かべるガルク。大勢の人と関わるということで、大人バージョンになったな。
ソフィアはそんな中前に出て素材を差し出す。フェウスが受け取ると、工房の中央にある石造りの台に置いた。
「精霊コロナもいるのね。説明してくれる?」
「神霊であるあなた達の力を加えるということで、素材の魔力許容量をとにかく増やすことを追求した逸品よ。元々の硬度も現存する素材と比べ最高に位置する物だけど、魔力を加えることでさらに増す」
「これに私達の力を加えて剣にするの?」
「最初に魔力を加えた時、形状が変化するようになっている。あと柄の部分とかは……デザインはソフィア王女に任せるけど」
「それについては我らが」
人間側の代表が進み出る。
「王女から話を聞き、望む形の物を用意します」
「わかった。で、一度形状を変えたら元に戻らないから、慎重に」
「剣に変化させたら、本番というわけね?」
「ええ。そこからは神霊や精霊達の力にかかっている……もちろん私も協力するよ」
「うむ。頑張ってもらわなければ」
アズアが言う。ガルクが「お前が仕切るな」とでも言いたげな表情を示したが、何も言わなかった。
俺は台に置かれた剣の素材を眺める。一見何の変哲もない物だが、神霊の力を収束させることのできる能力を宿している。
「そうねえ、まずは話し合いからいきましょうか」
ここで、コロナが提案する。
「デザインが完成するまでに時間が掛かるでしょ? ならその間に私や神霊達は話し合ってどういう風に魔力を入れ込むか決めることにするわ」
なるほど……ソフィアに視線を送ると、頷いた。
「では、そのような形に」
「決まりだ。それじゃあ始めるか」
俺が声を発すると――各自、動き始めた。
見た目ソフィアの意向に従いシンプルにして無駄な装飾を抑える。なおかつ彼女が扱いやすいよう、一般的な長剣くらいのサイズにする。
そうした言葉に従い作業を進める人々を見ながら、俺は素材とにらめっこをする神霊達に質問する。
「俺は何をすればいい?」
「では、ルオン殿には剣の特殊能力を付与してもらおう」
ガルクが言うと、俺は首を傾げた。
「特殊能力?」
「うむ。この剣にどういった性質……例えば身体能力を向上させる魔法を組み込むなど、必要なことがあればそれらをイメージしてくれ」
「責任重大だな」
「頑張ってもらわないとな」
ガルクが言う。ふむ、まあそういうことなら全力でやるけれど。
しかし、特殊能力か……能力上昇の魔法を加えるというのがベターだと思うけど、それで本当にいいのだろうか?
神霊達の力を入れる以上、どんなことでもできそうな気がするけど……あれもこれもと多機能にすると、どの特殊能力を使用するか、など混乱だって生じる。余計に訓練が必要になるだろうし、あまり数は多くしない方がいいだろう。武器である以上、攻撃能力を補助するような物が望ましいかな。
ただ、これだと今すぐ決めてしまうのも……個人的にはどのような魔法を使えるようにするかカスタマイズできるのが望ましい。
「……なあ、コロナ」
「なあに?」
「完成した剣についてだけど、封じ込めた特殊能力の修正はできないのか?」
「たぶん無理ね」
「魔王の状況に応じ、戦略を変える必要だって出てくるわけだし、変更できる余地を作るとかは?」
「うーん……それなら新たに魔法を付与できる余地を残しておく?」
「いや、個人的には限界ギリギリまで神霊達の力を注ぎ込んだ方がいいとは思っているよ。つまり剣の刀身に紋章なんかを描き、付与する魔法を変えることができるとかできないかなと」
説明を行うと、コロナは「なるほど」と呟く。
「そういうことね。まあそのくらいの魔法なら、少し調整すればいけるかしら。とはいっても、紋章を描くのって結構大変じゃない?」
……俺が武器に特殊能力を加える場合、魔力を武器に付与するのが主で、紋章を描くということはしなかった。やり方自体は一応知識もあるが、あくまで基本的なことで俺が考えるような効果は望めない。ここは専門的な知識を持っている人間が必要だろうか。
「ああ、ルオンさん」
と、ここでリチャルが声を上げた。
「紋章については、俺に任せてもらえないか?」
「……いいのか?」
「紋章付与は研究したこともあるし、この場にいる専門家の知識を集めれば結構な物ができると思う。ルオンさんはどんな効果がいいのか考えてくれないか?」
「わかった。ならリチャルに任せるよ――」
色々と思考を巡らせつつ、俺も行動を開始する。こうして、神霊と人間達が協力して、魔王を討つための剣の作成が始まった。
神霊達の話し合いについては丸一日かけて終わる。さらにリチャルは人間達を取りまとめ、こちらも一日くらいでまとまった。そしてソフィアの方も――
「……よし、一通り終わったな」
といっても、あくまで準備段階なわけだけど……。
「剣を作成し始めたら、それほど時間は掛からないと思うわ」
フェウスが語り出す。
「けど、一気に生み出す以上少しでも気を抜くと満足のいく剣には仕上がらないから、全員これからは気合を入れ直して欲しいわね」
「もちろんだ」
頷く俺。ソフィアを始めとした面々もまた表情を引き締め、フェウスはにこりと笑みを浮かべる。
「なら、始めましょうか」
素材が置かれている台に目を移す。いよいよ――と思った直後、フェウスは両手をかざす。刹那、手から魔力が溢れ出た。




