それぞれの願望
「そうだな、元々リチャルの話から南部侵攻が鬼門だとわかっていたが、それを難なく乗り越えたから、悪くないと思う。魔王の動向が気掛かりではあるけど、精霊達や神霊が協力してくれている。不確定要素はあるけど、悲観的な点もあまりないな」
「ほとんどルオン様のおかげですけどね」
「そうかな」
「そうですよ」
ため息と共に声音が漏れる。
「ルオン様は、どこまでも自覚がなさすぎます」
「……自覚、ねえ」
「南部侵攻のことであっても、ルオン様の助言がなければ耐えることも難しかったでしょう」
まあ、そうとも言えるか。
「大陸崩壊の魔法を食い止めるために神霊達を従え、さらに南部侵攻に際しあちこちに飛び回り魔物を倒し続けた……語りつくせぬほどの功績だと思います」
「そ、そうか」
なんか改めて言われると、どう返答していいかわからないな。
「……まあ、評価してくれるのは嬉しいけど、俺の場合は強くなった最初の理由は自分が死なないようにするためだったからなぁ。最初からこうやって戦うつもりだったのなら、もっと格好ついたのかもしれないけど」
「強くならずとも、回避できる手段はあったのでは?」
「そうだけど、ソフィアを始め助けたいと思った人がいたからな。強くなるのは、必須と言えた」
そこで俺は苦笑する。
「ソフィアと共に旅をすることになったのは、予想外だったな」
「ご迷惑……でしたよね」
「いや、これで良かったんじゃないかと思う。ここまで良い戦況に持ち込めたのは、ソフィアの頑張りもあったと思うから」
俺の言葉を受け、ソフィアは笑みを浮かべた。
「そう言っていただけると……嬉しく思います。しかしもっとルオン様のお力になれるよう頑張らなければ」
「そこまでしなくても……」
声を放った時、ソフィアの顔が曇る。急にどうしたと思ったのだが、先に彼女から声が。
「ルオン様は、この戦いが終わってもまだやることがあるんですよね?」
以前、話しあった時そう明言したな。
「ああ、そうだ」
「それは、お一人でやるつもりなのですか?」
「……今のところはそう考えている」
ソフィアの顔つきを見ていれば、何を言いたいのかわかるのだが……。
「あのさ、ソフィア」
「はい」
「そもそも魔王との戦いが終われば、ソフィアはバールクス王国に戻ることになる。俺の旅に帯同することは、難しいだろ?」
無言――ソフィアは肯定も否定もしない。
しばしの間、波の音だけが周囲に響く。嫌な沈黙というわけではないのだが、ソフィアがどう反応するのかちょっと鼓動が速くなってしまう。
「……確かに、ルオン様のおっしゃる通りです」
ソフィアが述べる。認めたが、表情は俺の言葉に真っ向から首を振ろうとする勢い。
「私はバールクス王国王女であり、本来ならば国のために動かなければなりません」
「なら――」
「ですが、こうして魔王を討つかもしれない力を得て……今後、人々を脅かす出来事があるのならば、それに使うべきではないかとも、思っています」
……なるほど、一理ある。
「私の、意見を言ってもいいですか?」
「ああ、構わないけど」
「……わがままを言えば、私はルオン様が何を知り、そしてこれからどうするのかを見てみたい」
ソフィアはこちらを顔を向ける。口を結び、俺に強く訴えかけるような目。
「ルオン様が語らないのは、様々な事情がおありかと思います。しかし、言えることが一つあります」
「……それは?」
「もし私が、ルオン様と肩を並べたら……きっと、ルオン様は話してくださいますよね?」
――何も答えられなかった。いや、内心ではそうかもしれないと思った。
『ふむ、実力か』
突如、俺の目の前に子ガルクが出現する。
『我も説明してもらっていないということは、実力が足りないと?』
「……いや、魔王との戦いとは少し違う話だから、ガルクにそれを説明するのも、と思ったんだよ。それにほら。ガルクは戦いが終わったら森に戻るだろ? 起こるかどうかもわからない懸念を告げ、気をもますのもどうかと思って」
『そうとも言えんぞ』
「は?」
聞き返すと、ガルクは笑い声を上げた後、言う。
『ルオン殿から離れるかどうかは、我の一存だ』
「おいおい、それってつまり――」
『何やら魔王との戦い以外でも関心事がある様子。せめてそれが何なのか見定めたいところだな』
……まさかの発言。けど、止めようにも止められないので、これ以上口を挟むことも難しいか。
「私も、同じ気持ちです」
次いでソフィアが主張。言いたいことはわかった。しかし――
『ソフィア王女の考えは、こうだな』
ここでガルクが語り出す。
『魔王を討つ強さを得ることができれば、ルオン殿に多少なりとも追いつくことができる。つまり、ルオン殿の従者として役目を全うできると』
……なんだか変な話になっている気がする。第一、魔王を討った存在が従者ってどういうことだ。
「そうですね」
ソフィアはあっさりと認める。ここで俺は一つ言及。
「というか、国の人が許さないんじゃないか?」
「説得します」
即答。思わぬ反応に俺は言葉を失う。
『できるのか?』
「してみせます」
『はは、そうか。ルオン殿、魔王を討てば否応なく認める他なくなりそうだな』
頭をかく。魔王のことがわきに追いやられているような気がして、なんだか奇妙にも思え――
「ソフィア、もしかして自身が魔王を討とうと考えているのは、俺と肩を並べようとするためなのか?」
「……変ですよね。まるで魔王との戦いが通過点にさえ聞こえてしまう」
ソフィアは苦笑する。
「無論、魔王を討つということは私の悲願でもあります。そのことについては間違いないですし、全力で応じるつもりです。しかし――」
「わかった」
俺の返事にソフィアは押し黙った。
「言いたいことはわかったよ……ただ正直、俺の一存で決められる話じゃないのは間違いないな」
「……障害をクリアしたなら、従者として共に旅を続けてもいいですか?」
「拒否する理由はないな」
俺からすれば無茶な話のようにも思えるんだけど……ここでガルクに視線を送る。
「そっちはどう言ってもついてきそうな気配だな」
『うむ』
即答。俺は苦笑するしかなかった。
「……少しルオン様と話をしたことで、落ち着きました」
ソフィアの顔には微笑。うん、良い表情だ。
「なら、明日以降どうするか話し合おうか」
「はい。ルオン様、何か思い浮かびましたか?」
「結局のところ、俺だって賢者の力は所持していないからな……ただフィリは無意識の内に使えていることから、何かきっかけでもあればいけそうな気もするけど……」
と、ここで俺は一つ思いついた。
「そういえば、今日試していない技があったな」
「え、何ですか?」
「切り札として習得した『スピリットワールド』だよ」
俺の言葉に、ソフィアも「確かに」と声を上げる。
「あれは他の技とはやり方が全然違うみたいだし、さらに精霊達の力を結集させた技だろ? その中にはソフィアの力だって収束しているはずで……」
「そうですね。一度検証してみる価値はありそうです」
ソフィアも同意する。希望を見出したという感じだろうか。
「では、今からでも検証を――」
「そう焦るなって。ゆっくり眠って体調を万全にしてからやろう」
ソフィアはちょっとばかり不服そうだったが……やがて「わかりました」と同意し、引き下がった。




