最後の光
オルディアの言葉通り、魔物達は強引に突撃しに乱戦という形となる。竜達はブレスなどで攻撃しつつも消極的な動き――敵からすれば、突撃に警戒して様子見、という風に映っているだろうか。
「このままいけば、ノストアが近づいてくるだろうな」
戦場の中、俺は呟きながら魔法で生み出した槍を振る。先日の戦いと比べ魔物の質は上がっているが、まったく問題ない。
やや後方にはレスベイルとオルディア。両者も戦っているが、ここにきてオルディアが特に奮戦している。
五大魔族を同時攻略したことにより、ゲームと比べレベルがやや低いように思えた。しかし彼がここまで戦えているということは、急速に成長――戦場で戦ったことは、そのきっかけとなったのかもしれない。
――ちなみにオルディアの持つ剣の力は魔王側も把握しているが、彼の中に眠る賢者の力が大きく作用し威力を上げる……ゲーム中剣の力を行使した時、魔族の反応はどの場面でも驚きだった。よって彼の存在はノーマーク。
『高ぶっているな。彼も』
俺の考えに同調するかのようにガルクが発言。俺は「そうか」と短く答えた後、槍を薙ぎ――視界に、魔族を捉えた。
「お出まし、だな」
五大魔族ノストア――黒い翼を持つ堕天使であり、手に握る長剣からも翼と同様黒い炎が上がっている。さらに彫刻を思わせる彫りの深い顔は人間とは異なる無機質さが際立っており、人々に恐怖を感じさせるには十分な見た目。
奴は俺を見定めると悪魔達と共に進軍を行う。俺は周囲の敵を全て消し飛ばしつつ、相手を見据える。
なおも近寄ってくる魔物を倒そうとした時、突如敵が後退。ノストアの指示か――と思った時、とうとう目の前に五大魔族がやって来た。
「ずいぶんと暴れてくれたな、人間」
蠱惑的な、女性を虜にしてしまうような声音。
「だがそれもここで終わりだ」
「お前が俺を倒すってことか?」
「その通りだ」
自信に満ち溢れた返答。そこで俺は大袈裟に肩をすくめてみせる。
「……俺の能力を知っているなら、あんただけでは勝てないと考えてもよさそうだが」
「思い上がるな、人間」
その声音には、多少なりとも怒気が備わっていた。ただそれは同胞を倒されたことに対する怒りではなく、俺の態度に「お前なんて楽勝」という嘲笑的な感情があると思ったようだ。
「所詮は人間。どれほど力を持とうと、限界がある」
……西部と北部の情報が届いていればもっと警戒してもよさそうだけど、賢者の力という切り札があるから増長しているのか。
『罠などはなさそうだな』
ガルクの声。となると、やっぱり俺のことを甘く見ているのだろうか。
「ま、いいや。議論をしていても始まらない」
俺はそう述べると、槍を構えた。
「どちらにせよ、戦えばわかる話だ」
「その通りだな」
ノストアが握る長剣からさらに黒い炎が迸る。奴の通常攻撃はその黒い炎を利用したもので、居城にいる間は単発の攻撃力が高かった。まともに食らえば今のオルディアでも相当なダメージを受けるだろう。
俺は背後にいる彼を気にしつつ出方を窺う。果たして――
「ここでお前の進撃は終わりだ」
宣告し、ノストアが猛然と俺へ向かう。こちらは迎え撃つ構えを示し――奴が放った斬撃を、俺は槍で受けた。
ゴアッ――と、炎が小規模な爆発を上げる。剣を防いでも炎の攻撃による二段構え……とはいえ俺はまったくのノーダメージ。反撃を試みる。
槍を一閃。綺麗な横薙ぎはしかとノストアの体に入る。力は結構入れた。幹部クラスだとさすがに一撃とはいかないかもしれないが、それでも十分なダメージを与えられるはずだった……賢者の力を利用した障壁がなければ。
「無駄だ」
ひどく冷徹な声音。刹那、反撃として斬撃を繰り出す。
受けるか避けるか一瞬迷い――俺は後退を選択。それと同時、オルディアが前に出た。
「ほう?」
まさかここで――と、ノストア自身も感じているのだろう。
「オルディア、自分から死ににきたか」
嘲るような言いぐさでノストアは対応しようとする。だが、オルディアの方が一瞬早い。
その僅かな時間は――紛れもなく、オルディアが攻撃するのに十分な時間。
ノストアよりも、オルディアの攻撃の方が早い。刹那、彼の握る剣から力が解放される。
「――これは」
呟いたノストアだったが、時すでに遅し。次の瞬間オルディアが渾身の一撃を叩き込み――奴が吹き飛んだ。
ノストアは無様に倒れたりはしなかったが、それでも動きを止めた。
「追撃するか――」
「待て」
逸るオルディアを止める。ゲームと比べ力を保有していたのか、まだ消滅しない。とはいえその魔力が大きく失われているのがわかる。
「……なるほど、貴様は囮で本命はオルディアだったか」
ノストアはゆっくりと動き出す。
「賢者の力……オルディア、貴様はその末裔だったはずだな。陛下自身利用価値があると判断しそこまで力を与えたというのに――」
「魔王に感謝でもしておくさ」
皮肉を告げるオルディア。対するノストアは――握り締める剣から放たれる炎が、一際高く噴き出した。
「まだだ、人間共」
声と共に突撃を敢行するノストア。威嚇のためか刺々しい魔力がこちらに降り注がれるのだが、それが張子の虎であることは一目瞭然だった。
全力の攻撃を、俺は真正面から受ける。賢者の力を利用した障壁はまだ健在のようだったが、先ほどのように精密なわけではない。全力の一撃なら十分効くだろう。
トドメの一撃を放とうとした直後、オルディアが横に来る。俺が槍を放つと同時、オルディアは一歩踏み込んで剣を振り下ろした。
俺と彼の攻撃が入ったのは同時。直後、ノストアは言葉を失くし――そのまま、消滅した。
『……あっけないものだな』
ガルクが言う。それに同意するように小さく頷いた瞬間、賢者の力が解放され、光が目の前に出現した。
オルディアがそれに手を差し出す。戦いが始まる前の時点で彼には賢者の力を取り込めるかは話してある。結果は――
光は招かれるようにオルディアに向かい、その体へと入った。
「……これで五人、賢者の力を宿した者が生まれたわけだ」
俺は呟く。ソフィアにラディ、フィリにエイナ。そしてオルディア……本来主人公であるアルトの代わりにソフィアが入ったのは俺が救い共に戦った結果。
「本来なら、大陸崩壊の魔法を発動する条件が整ってしまった。けど――」
『任せろ』
ガルクの言葉が頭に響く。俺はそれに頷いた後、周囲を見回す。
ノストアが滅んだためか、悪魔の動きがずいぶんバラバラになっている。このまま放っておけば四方に散らばるだろう。すぐに対処しなければ。
「よし、それじゃあ――」
『待て、ルオン殿』
ここでガルクが声を発した。
「どうした?」
『それについては竜達に任せよう』
「……魔王が近いからか」
『うむ、直にこの平原に到着する』
その言葉の瞬間、竜達が吠え悪魔達を滅し始める。指揮がなくなり混乱している悪魔達はいとも容易く滅んでいく。
「……大丈夫そうだな。なら、任せるとしようか」
『うむ。ここからは我らの仕事だ。ルオン殿、レスベイルを介し地中の魔力については把握できるはず。我らの戦いをとくと見ていてくれ』
その言葉の直後、平原にさらなる敵影が。しかしノストア以上の圧倒的な気配――いよいよ魔王が目の前に、と思い自然と力が入った。




