魔族と技術
転移先は正面に鉄の扉。そして四方は外が見え、遥か下に居城が見える空中……結果、
「――うおおおおっ! 高い! ヤバイ! 死ぬ! 死ぬ!」
……なんというか、予想通りの反応を見せてくれてありがとう、アルト。
内心そんなことを思いながら俺は転移でやってきた仲間達を見る。こんな常識外れの高さは当然経験がないらしく、全員が心底警戒して歩調が慎重になっている。
「落ちたら、確実に死ぬでしょうね」
「エイナ! もしそうなったらなんとかできないのかよ!?」
「風の魔法を使えば……ソフィア様、大丈夫ですか?」
「うん、なんとか」
下を見ないようにしているソフィア。バールクス王国の城は結構高さもあったので彼女が一番高さに慣れているとは思うのだが、さすがにこのレベルとなると無理か。まあ下が丸見えだしな。
「それじゃあ、先に進むぞ」
「おいルオン! お前は平気なのか!?」
「転移した時に散々喚き散らしたよ」
適当なことを言いつつ、扉を開ける。そこからは壁の上半分はやはり透過しているが、下半分と床面については居城の床と同じ素材。下が見えることはないので幾分マシだ。
通路も同じような素材にしていないのは何か理由があるのだろうか。単に素材不足か、あるいは何か理由でもあるのか。
「……あのさあ、嫌なこと想像しちゃったんだけど」
唐突にキャルンが述べる。通路に入っても足取りが少しばかり重い。
「これ、魔族を倒したらこの建物って……」
「うわあああ! それはヤバい! 俺達全員死ぬ!」
「落ち着けって……」
オーバーリアクションを繰り返すアルトへ俺は言う。ゲームではグディースを倒した後、魔法が途切れ空中に存在する城は崩れ始めるのだが、それより先に転移魔法を使って逃れる――という流れとなっている。
まあ仮にそういうのが無かった場合でも、最悪魔法でどうにかなるだろう。
アルトがなおも喚く中、俺達は先へ進む――と、突如進行方向の床面に魔法陣が。魔力が発せられた瞬間、悪魔が出現した。
……なるほど、見張りを置くのではなく床に魔法陣を仕込んで生み出すのか。通路に透過する素材が使われていないのは、その辺りが関係しているのだろう。
俺達は交戦を開始するわけだが、仲間――特にアルトの動きが鈍っている。高さという恐怖を無意識の内に与え、ここに侵入した冒険者の動きを縫い止める……そう考えてこの城を生み出したのなら大したものだ。
とはいえ俺が積極的に動くことでどうにか事なきを得る……が、ここでキャルンがまたも声を上げる。
「ねえ、もし突然落とし穴でもあったら」
「やめろよ、そういうの!」
叫ぶアルト。俺はひとまずフォローを入れることにする。
「罠の類については知覚できるから、何かあったら言うよ」
「本当か!? 本当だな!?」
念押し具合に鬼気迫るものがある……こちらがうんうん首肯すると、アルトは「頼む」と告げ、移動を再開した。
ゲームでは罠の一つもなくそのままグディースの所まで辿り着くことができたけど……まあ警戒しつつ進むのがいいな。
「……しかし、疑問が残りますね」
ここで、唐突にイグノスが口を開いた。
「転移装置……おそらく魔族の居城専用といったものでしょうが、人間や精霊の技術をもってしてもこうした魔法は生み出されていない。魔族はそれほど技術的に発達していると?」
「いや、そういうわけではないと思うよ」
俺が答える。するとこちらに一同の視線が集まる。ふむ、改めて説明しておくか。
「転移装置は過去この大陸に住んでいた天使が保有していた技術だ。たぶんここの魔族は、そうした技術を模倣したんじゃないかな。魔族の力ならゼロから生み出すのは難しくとも、持ち前の魔力で再現はできるということだろ」
――過去、この大陸には天使が存在していた。その名残は大陸各地に存在している天使の遺跡によって証明されているわけだが……確かどこかで読んだ文献よると、他の大陸にも転移装置で移動する技術があったらしい。
「この居城にいる魔族は、魔物を生み出す以外にも仕事があるってことかな」
キャルンがコメント。確かにと俺は頷き、
「ただ、さすがに天使の力を戦闘に応用して、とかは無理じゃないかな。魔族の力と天使の特性は正反対だろうし」
「そっか……ねえルオン。この大陸から天使がいなくなった理由とか、知ってる?」
「いなくなったというより、移り住んだってところかな。俺達のいる大陸に天使の姿は皆無だけど、そういった存在と出会える場所はあるから」
もっとも、天使達が今回の戦いに参戦しないのは……まあ色々あるのだろう。
どちらにせよ、そうした存在の救援を待つなんてナンセンスであり、俺達なりのやり方で対応するしかない。
そうこうする内に、またも俺達は転移の魔法陣を発見。アルトが「勘弁してくれ」と嘆くのを聞きつつ、俺がまず入って確認する。
そこは、さらに上空。大地がひどく遠くにあるが、まだ宇宙空間というわけじゃないが……成層圏に近く、下に雲があったりする。
「うわあ、マジかよ……」
転移先がまたも扉以外丸見えだったため、アルトは呟く。
「ほら、アルト。先に進もう」
「ルオン、何でお前は平気なんだよ……」
「単に表情に出ていないだけだって」
そんなやり取りをしつつ次のフロアへ。一応分岐だって存在するのだが、迷路のように複雑ではないし、探索自体は楽。上へ進んでも敵の強さも変わらないため、この調子ならば体力や魔力を温存した状態で五大魔族グディースと戦うことができそうだった。
で、俺は道中考える。現在五大魔族の三体目と四体目を同時に戦っているわけだが、魔物の強さは三体目とほぼ同義。おそらくこれはシルヴィ達も同じだろう。
となると、この戦いは予想以上に楽かもしれない……と思った後、油断するなと心の中で警告を発する。
そうこうするうちにさらに転移装置を発見。確かゲームではこれが最後の転移だったはずだ。
「勘弁してくれよ」
などとのたまうアルトを無理矢理引っ張りつつ俺達は転移。そこで見えたのは――
「これは……」
最初にエイナが言葉を零した。
大地がひどく遠い上、空が相当暗い。もう宇宙空間に入り込んでいるんじゃないかというくらいの場所であり――こういうのって、最終ダンジョンとかの演出ではないだろうかとゲームをやっている時ツッコミを入れた憶えがある。
「……綺麗、ですね」
そしてソフィアが感想を漏らした。俺もこういう形で世界を見下ろしたことなどないため、彼女と同様少々感動を覚えたくらいだ。
前世と同様、この世界が球体なのだとはっきりとわかる。俺達が住む大陸以外の場所もはっきりと見えるが、一番目を引くのは海の青。雲の白と相まって幻想的な光景を見せている。
「おい、さっさと行こうぜ」
アルトが言う。彼にとって世界を見下ろすというのは、ただただ恐怖でしかないのだろう。
ここで、一つ思う。ゲームをやっている時あまり気にしていなかったが、このグディースの存在は他の五大魔族と比べ異質と言える。本来の目的は魔力を大地に注ぐことのはずだが、それとは正反対に空に居城を構えている。もう既に事を成し終えたのか、それとも天使の技術の研究を優先しろということなのか――
「ルオン様」
ソフィアに呼び掛けられる。俺は思考を中断し、先へと進むことにした。
そこから幾度が魔物を撃破し……仰々しい扉の前に到達した。見覚えのあるその扉の奥には、間違いなくグディースがいる。
「この先に――」
「間違いないだろうな」
アルトの言葉に俺は応じ、仲間達の表情を確認。余力があるのは間違いない。これなら――思いながら、俺は扉に手を掛け開け放った。




