王女と騎士
道中魔物を倒しつつ進んでいく間に、使い魔からさらなる情報を手に入れる。エイナ達は現在五大魔族との戦いに備えている。居城の近くにある村でバルザードやリリシャと共に休んでいるらしい。
そちらへ向かうとしよう……俺は近くに村があると言い、様子を見に行こうと提案。事情を知るソフィアは即座に頷き、アルト達も彼女の反応を見て承諾した。
「しかし、本当にキリがないな……レドラスとの戦いよりも、その範囲は広いんじゃないか?」
ふいにアルトが言及する。それは正解で、実験範囲は次第に周辺の国を越え始めている。もし放置するとなると、さらに厄介なことになる……ゲームでは一定範囲内で片付いていた話が、現実に起こった場合魔物がひたすら拡散し、被害が大きくなるということなのだろう。
やはり長い間放置することはできなさそうだ……結論を出した時、いよいよ目的の村へと近づく。
「騎士と話をするのは、ルオンでいいの?」
キャルンが確認を入れる。俺は一度ソフィアと視線を合わせ、
「……そうだな。それでいいと思う」
「そっちに全部お任せしていいの?」
「ああ、構わない」
話し合いが終わり――とうとう村へと到着する。騎士が村の入口を見張っており、厳戒態勢であることが窺える。
俺達が声を掛ける前に、騎士が気付く。そして一人が近づいてきて――
「冒険者達か?」
「はい。激増した魔物に対処している騎士達がいると聞き」
俺がそう発言すると、騎士は俺達を一瞥。ちなみに、ソフィアを見ても反応しない。
「そうか……我々はこれから魔族の居城へ向かうつもりだ。さすがにそうした役割を任せるわけにはいかないため、万一のこともあって周辺から離れた方がいい」
警告する騎士……ふむ、中に入るには理由がいりそうだな。
「……事情はわかりました。それで、実は騎士の中に知人がいまして。その方がここにいるかと思い、訪ねたのですが」
「その人物の名は?」
「エイナという方です」
こちらの言葉に騎士は一時沈黙する。どうするべきか対応に悩んでいる様子。
もし通してくれないのなら、さらに事情を説明する必要がある……と、ここで別の騎士が近寄って来た。
応対していた騎士に話し掛け、事情を聞く。それから少しして、
「……何か、身分証のようなものは提示できるか? さすがにただ知人に会いに来たと話すだけでは、通すことは難しい」
――俺はギルド所属である証を提示する。それに一定の効果はあったらしく、騎士は「わかった」と応じた。
「本物のようだな。しかしできれば中に入れたくない。ここに彼女を来させる形でも構わないか?」
「はい」
返事をすると騎士が村の中へ。待つことにしたのだが、ここでアルトが口を開いた。
「ずいぶんと物々しいな……決戦前だから当然なのかもしれないけど」
「戦う前に突然冒険者が現れたんだ。警戒するのも当然と言えるだろ。ただ、騎士エイナが来たのなら、それも劇的に変わる」
俺の言葉に、ソフィアが小さく頷いて見せる。
そうして多少の時間が経過し……足音と共に、エイナが姿を現した。
「話を聞き驚きました。ルオン殿、こうした場に何の用事で――」
そこまで言って、沈黙するエイナ。俺の隣にいるソフィアに気付いたからだ。
「……エイナ」
名を零した直後、エイナはただ茫然とソフィアに視線を移す。けれど俺は話し始めた。
「――以前、出会った時は状況から話すことができなかった。しかし今回、ようやく言うことができるようになったため、ここに赴いた」
「……ソフィア、様」
よたよたと、彼女はソフィアに歩み寄る。まるで視線を外せば消えてなくなってしまうと思っている態度で、視線だけは決して外さない。
「心配をかけて申し訳なかったと思っている……まだ話していないと聞いているから言うけれど、お父様も無事」
「――よかった」
声と共に、心の底から安堵したのかエイナは涙を零した。
「その……ずっとお助けしなければと思いながら、何もできず……」
「いいの。ありがとうエイナ。あなたも、国のため人々のために戦ってきたのだと、私もわかっている」
エイナの手を取るソフィア。その時、村の入り口にバルザードの姿が見えた。
「ルオン殿が来訪したと聞き、駆けつけたのだが……どうやら、それ以上のことがあったようだな」
「事情については、ゆっくり話がしたい」
俺はバルザードへ投げかける。次いでアルト達を一瞥した後、言った。
「まずは、中に入れてもらいたい。魔族の居城……そこに、俺達も赴く意志を固めているので、その辺りについても話をしよう」
ソフィアとエイナが話をする間に、俺は以前共に戦ったリリシャやバルザードの二人と話をすることに。場所は民家。この場にいるのは彼ら二人に、俺とアルトの仲間。まずはアルトと共にレドラスと戦ったことについて説明し――
「……ついては、俺達も魔族の居城へ向かう気でいる。反対しても、おそらくアルト達や王女は行くと告げるはずだ」
「私達としても、戦力に厚みが加わるのは好ましく思う」
バルザードは言う。ここで俺は一つ質問。
「ここに、騎士団の中枢的な面々はいないのか?」
「ああ。人員は増え、魔族に対抗できる勢力となりつつあるが、戦線が伸びているのも事実……よって、対応に苦慮している面もある」
バルザードの言葉には、後悔するような雰囲気も混じっている。
「これだけの規模で魔物が活動するとなると、本来ならば我々も相応の力を持って応じなければならなかった。しかし、それができないまま魔物達が勢力を広げてしまった」
「居城の魔族を倒すことができれば、おそらく止まるはず。ただその一戦で決着をつける必要があるな」
「そこに、俺達も協力するというわけだ」
アルトが続ける。
「過去に居城にいた魔族と戦った経験もあるからな……戦力になれると思う。共に戦わせてくれ」
「……協力、感謝する」
バルザードはそう言い、話し合いは終了となった。
俺達は一度解散し、民家を出る。するとソフィアとエイナが並んで歩く姿を捉え、そちらへ近寄る。
「……ルオン様」
「そっちも話は終わったみたいだな」
「はい」
「ルオン殿。事情を王女から伺いました」
エイナが俺へ向け口を開く。
「まず、ここまで王女を守っていただいたこと……深く感謝いたします。私としては、どれだけ礼を言っても言い足りないくらいのものであり――」
「そう気を遣う必要はないよ。それで、居城にいる魔族との戦いに俺達も加わることになった。その中で――」
「私も行きます」
ソフィアが言う。エイナを見ると、その言葉に賛同するような素振りを見せる。
「王女がこう言ったのなら、どれだけ言っても聞かないのは私もよく理解していますよ」
「……彼女も魔族に対抗できる強さは持っている。魔族も二人が向かってきたとわかれば脅威に映るはずだ」
「はい……ここで王女の名を明かすことについては、どうお考えですか?」
「現在、俺達はアラスティン王国のカナン王にも事情を説明している。彼らがバールクス王国の魔族の動きも抑制しているはずで。ソフィアの存在を公表しても、それは変わらないだろう。むしろ――」
と、俺は笑みを見せる。
「魔族をバールクス王国王族が討った、とあらば人間側に相当大きな影響を与えることができるはずだ」
「なるほど……」
エイナも納得の様子。俺は次いでソフィアを見る。
「そういうやり方でいくが、構わないよな?」
「はい」
首肯するソフィア。よし、ひとまずこちらの戦いについては体裁が整った。
あとは、フィリ達の方か。シルヴィ達はラディと共に今日くらいにはフィリと合流することになるはずだ。
あちらも、合流そのものは問題がないはず。夜に確認しようと思い――ひとまず今日は村で一夜を過ごすこととなった。




