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賢者の剣  作者: 陽山純樹
精霊世界

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裏切り者

 夜、討伐隊は野営を行った。夕方前に街道から進路を外れ、森の中へと入る。使い魔を通し観察するとずいぶん野営の手際がよかったので、討伐へ向かう際予めこういう場所をピックアップしておいたのだろうと想像できた。


「多少距離はあるが、大丈夫なのか?」


 シルヴィの問い掛け――俺達は現在、討伐隊からは多少離れた場所で野営をしている。周囲はやはり森で、火ではなく魔法を利用した明かりを用いて辺りを照らしている。


「討伐隊だって夜は周囲の警戒くらいはするだろ。気が立っているだろうし、あまり近寄らない方がいいって」


 俺は頭上にある夜空を見上げつつ、シルヴィに語る。


「それにほら、この距離でも俺達なら対応できるし」

「そうかもしれないが――」

「ルオン様、状況はどうなっているんですか?」


 ソフィアの問いに俺はしばし目を伏せ使い魔からの情報を受け取る。


「今のところ異常はない。アレーテは騎士とかと談笑しているし、マリオンという人物にも動きはないな」

「もし彼が裏切り者だとしたら、行動するのは皆が寝静まった後か?」


 クウザが言う。俺はしばし考えた後返答。


「見張りをするどこかのタイミングで抜け出す、とかじゃないかな」

「使い魔はそれも把握するのか?」

「俺が寝ていても動くようになっているから大丈夫だよ……さて、ここで一つ問題だ」


 と、俺は仲間達に告げる。


「もし内通者がいたとしたら、その人物と魔族が接触する可能性はある」

「そうなれば、ルオンにも追跡できるというわけだな」

「ああ。追跡して魔族の拠点を見つけ出すことは可能だ。もしそうなったら、俺達もいくつか手段がある」


 語った後、俺はソフィア達を一瞥しつつ話し始める。


「一つ目は、見つけた内通者を縛り上げて討伐隊に報告するやり方……ただしこれは、メリットというものがない。使い魔を用いて見ていましたなんて言っても相手が信用するかどうかわからないし……クウザがいるにしても、まあ俺達の言葉を信じる可能性は低いだろ」

「ならば、一番わかりやすいのは拠点に先回りしてボク達が攻撃するということだな?」


 シルヴィが言う。そのやり方もありだが、俺は難しい顔をした。


「それについては、魔族と配下の魔物のレベルを考慮しないといけないし……」

「何か問題があるのか?」

「いや、討伐隊を編成するだけの規模だとしたら、結構な数の魔物がいる可能性もある。そうなったら俺達だけで対処できるのかな、という疑問もある」

「ルオンが本気を出すわけにもいかない状況だから、先回りして撃破は厳しいと?」

「こればっかりは魔族の拠点がどういうものかを見てからでもいいかな。砦とかだったらやりようはあるけど、洞窟とかだと中を確認することは難しいから」

「なら、他の手段というのは――」


 ソフィアが発言したその時、俺は手で声を制した。


「ちょっと待った」

「どうしましたか?」

「使い魔から報告だ……どうやら、マリオンが動き出したらしい」


 用を足しに行くのかと思ったが……違う。使い魔をできる限り近づけ、観察を行う。


「マリオンはどうやら見張りを抜け出して動くみたいだな……いや、これは――」

「魔族か?」

「そのようだ」


 クウザの言葉にそう答えると、彼は途端に険しい表情をした。


「ソフィアさんの予感が当たってしまったか」

「みたいだな。ともかくわかってよかった。さて」


 と、俺はここで短く詠唱。さらに鳥型の使い魔を生み出した。それに反応したのはソフィア。


「それは?」

「使い魔を経由して、声を飛ばすことができるんだ。同じような鳥型なのは、似たような使い魔だと相性もよくて声が聞き取り易くなるからだな」


 使い魔が地面に。ソフィア達は俺へ近づき、固唾を飲んで使い魔を見守る。


『――見つからないよう、抜け出せたのか?』

『確認しなくとも、そうボロは出さないよ』


 聞き慣れない声の後、マリオンの声がした。相手は魔族と考えていいだろう。


『討伐隊の詳細についてだが、戦力についてはこれで合っているな?』

『ああ、戦力はこれで間違いない。ただ、個々の戦闘能力まで克明に記しているわけじゃないぞ?』

『そこまで期待はしていない。人数の多寡などを把握できれば十分だ』

「やはり、情報は筒抜けですか」


 ソフィアが苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。


「このまま戦えば、討伐隊は窮地に陥りますね」

「だろうな。討伐隊の面々がどれほどの実力なのかわからないが……精鋭がいたとしても、相手に動きを読まれていたらどうしようもないな。もし放置していたら、この戦いで大きな犠牲が生まれることになる、というわけか?」


 疑問を口にした時、さらにマリオン達の会話が聞こえた。


『明日の昼、我らの拠点に到達するな? 手筈は問題ないか?』

『心配性だな、あんたの主人も。手順は全て頭の中に入っている。問題ない』


 どうやら、何かしら罠を仕掛けている様子。さて、どうするか。


『いいだろう。確認は以上だ。お前達が我らの領域にまで到達した時点で、作戦を決行する』


 その言葉の後、会話は途切れた。魔族は引き下がったらしい。

 使い魔で確認すると、マリオンも討伐隊の所に戻っていく。


「……このまま進めば、討伐隊は地獄か」


 クウザが言う。硬い表情を見せつつ、彼は俺に問い掛ける。


「ルオンさん、どう動く?」

「まず相手の魔族……アレーテさんを観察していた使い魔を用いて、追跡を開始した。魔族相手だからバレる可能性もそれなりにあるが、どうにかする。で、罠があるってことは間違いない。それにどう俺達が応じるか、だけど……」

「作戦、という言葉を考えれば、魔物などを伏せておいてタイミングが来たら一斉に攻撃、とかいったところじゃないか?」


 シルヴィが発言。まあそれが妥当だろうと思いつつ、俺はクウザに話し掛ける。


「クウザ。一つ確認だが、討伐隊は罠の対策くらいはしているよな?」

「宮廷内の戦力がどういったものか具体的に知らないが、その辺りについては当然対策していると思う。ただ情報が筒抜けであるとしたら、その対策をかいくぐって、という可能性もあるかもしれない」

「できればどういう作戦なのかを確認したいところだが……」

「マリオンに尋問でもするかい?」


 シルヴィが悪そうな笑みを見せた。それも一つの手段ではあるけど――


「……内通者がマリオンだけとは限らないんだよな。それとさっきの会話で俺達についての言及がなかったから、たぶんこちらの存在は認識していないはず。仮にマリオンを捕まえたら大なり小なり討伐隊にも影響が出るし、なおかつ魔族側にも俺達の存在を看破される……見つかっていないというアドバンテージは利用したいところだけど」

「なら、まずは魔族の拠点について把握してからですね」


 ソフィアが言った。視線を送ると、彼女はこちらと目を合わせ、


「魔族がどのような作戦なのか……レーフィンやガルク様に協力を仰げば、ある程度把握することができるのではないでしょうか?」

『うむ、魔物の位置などは、把握できるかもしれん』


 突如俺の右肩にガルクが出現し、述べた。ならば――


「使い魔による追跡は続いている。拠点を見つけたら討伐隊より先回りして、対応を考えることにしよう」


 そこまで言うと、俺はクウザに顔を向けた。


「俺達の動き次第では、結構な恩を売ることができそうだけど、どうする?」

「……私としては、彼らが速やかに討伐することだけが望みだ」

「わかった。戦いの途中で遭遇した場合は……臨機応変に対応するってことで」


 話し合いは決し、俺達は休む――おそらく夜のうちに拠点は判明するだろう。それまで仲間達は休むことになり、俺は闇夜の中使い魔と連絡を取り続けた。


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