討伐隊
『――気配的に、怪しさは感じなかったが』
昼となり、アカデミア内にある食堂で昼食をとる。その最中に発せられたガルクの発言。
ちなみにやっている講義が少ないせいか食堂にも人は多くない。冒険者である俺達は目立つのではないかと思ったが、ヘッダと共にいるからか、残り少ない学生は、視線を一度送るだけで干渉してくることはなかった。
そして先のガルクの発言。ヘッダがいるのでガルクが表に出てくることはないのだが……それに同調するかのように、レーフィンが姿を現し発言した。
「見た目の印象については多少あるかと思いますが、物腰や雰囲気からは何も感じ取れませんでしたが」
「……ふむ、どうかしらね」
ヘッダが呟く。それを見た俺は、彼女に質問。
「マリオンという名前でしたが、知っていますか?」
「ええ。アレーテとは別の隊で隊長をしている人物ね。評判は悪くないと思うけど」
「とすると、私の勘違いでしょうか」
ソフィアが言うと、ヘッダは肩をすくめた。
「精霊も感じなかったと言う以上、単に印象が悪かったという話にすることもできると思う。ここからは、ソフィアさん達が納得するかどうかの問題よ」
「わかりました」
話はそれで終わり……ソフィア達は午後も検証を行う。時間が掛かりそうだと思いつつ、俺は彼女達の訓練風景を見ながらシルヴィ達に言及する。
「アレーテさんが来た時点で使い魔に観察させている。ソフィアが気になったというマリオンという人物も同じく」
「もしおかしな行動をすれば、こちらもすぐにわかるというわけだな。ちなみにだが、ルオンはソフィアの言葉についてどう思う?」
「賢者の末裔として、何か直感が働いたという可能性もあると思っているよ。ま、使い魔を用いているから、何があっても対応はできる」
「それなら心配する必要はないな。ちなみにだがルオン、討伐隊に参加することは難しくなったな」
「マリオンという人物の登場で戦いも打ち切られたからな」
クウザが困った表情。とはいえ、あのまま勝ったとしても認められたかは別問題だ。
「クウザ、戦った結果がどういうものであれ、たぶん不採用になったんじゃないかと思う。あの戦いは、どちらかというとアレーテさん個人の意思が強いように思えた」
「……私に何か因縁でもあったと?」
「クウザの能力をおぼろげながら理解していたようだし、思うところはあったんじゃないか?」
「よほど気に入られていたみたいだな」
シルヴィが言う。するとクウザは首を傾げた。
「私が? まあそれなりに交流はあったが……」
「何か嫌なことがあって、向こうは根に持っていたんじゃないか?」
「……あり得るな」
心当たりがあるのか? まあその辺りはとやかく言わないけど。
「ともかくだ」
俺は気を取り直し、二人へ言う。
「クウザの知り合いとも会ったし、気になる人物もいた。こうまで関わった以上は、色々と行動しようじゃないか」
「ルオンさん、手はあるのか?」
「討伐隊が出発したら、後を追っかければいいだろ。シルヴィはどう思う?」
「遠方から観察するというわけか……よし、ボクも参加しよう。ルオン、ソフィアはどうする?」
「ソフィアも同行すると言うだろうし、一緒に行くことになるな。どういう戦いになるかわからないから、人数は多い方がいいだろうし」
――どういう魔族なのか、そしてどういう戦いとなるかまったくわからないため、注意が必要なのは間違いない。
それと、アレーテの実力……クウザとの真っ向勝負から推測すると、結構な強さを持っているのは間違いないだろう。クウザも本気ではなかった思うが、それでもああまで応じることができたということは、実力があるのは確定的。
「……ひとまず、動きがあるまでは様子見だな」
そう口にするとシルヴィ達は頷き、話し合いは終わった。
討伐隊が動かない限り、俺達もソフィアの修行を眺めるだけになるわけだが……この間に俺も魔王に対抗する術を調べようかと思っていたのだが、どうも神様は俺達を休ませる気はないらしい。
翌日の早朝、俺は目を開けた直後に使い魔からの報告を受け取った……それは、
「――マジか」
呟き飛び起きる。支度を済ませ仲間と合流し、開口一番俺は告げた。
「討伐隊が、動き出した」
「え、今日?」
驚いたシルヴィが問い返す。それに俺はすぐさま頷き、
「既に町を離れている……予定を変更するが、構わないな?」
「異論はありません」
ソフィアも同意。よって俺達は素早く行動を開始する。
使い魔が確実に討伐隊を追っているため、それを追うことは難しくない。加え、ソフィアが怪しいと言及したマリオンという人物についても観察している。もし怪しい行動をとったら、即座に動ける。
「一気に向かおう」
俺の言葉と共に、全員動き出す――町を出ると全員が高速移動を開始する。
その最中、言葉を発したのはシルヴィ。
「ソフィア、マリオンとかいう人物に嫌な予感を覚えたって言っていたが、それはつまり魔族と関わりがあるという話か?」
「……レーフィンなどが気配的に何も感じなかったと言っている以上、私の気のせいだと思うのですが」
「俺はソフィアの意見を支持するけど」
こちらが言及すると、ソフィアが驚いた。
「ルオン様?」
「レーフィンに加えガルクも怪しくないと言っていたが、それはあくまで魔力面の話だろ? 人間として魔族と内通している可能性だってある。そうした直感は、ソフィアにあるんじゃないかと俺はなんとなく思う」
「賢者の末裔だから、ですか?」
「その辺りのことが関係しているとは思う」
予言めいた直感を持っている彼女を思い出せば、何か感じ取ってもおかしくないと思う。どちらにせよ不安要素があるなら観察しておいた方が無難だ。
「で、もし内通していたとしたら、どうなると思う?」
シルヴィが問う。俺はしばし考え、
「どんなに精鋭を揃えても、内通者がいて情報が筒抜けだとしたら、非常にまずい展開になるだろうな」
「ボクも同感だ……裏切り者がいるケースというのは多いのだろうか?」
「多いかどうかはわからないな……ま、そういう人間は基本、魔族に使い捨てにされるんだけどな」
マリオンと言う人物が裏切り者だとすると、そういう末路が待っているだろう……と思っている間に、今度はクウザが口を開いた。
「ルオンさん、どういう戦いになるかわからないが、私達からすると不安要素ばかりの戦いだな」
「ああ、そうだと思う」
「……もし私達が介入して、どうにかできると思うか?」
「魔族の能力次第だな。けど、俺達が動いたらそれなりに成果は望めると思うぞ」
言及した直後、俺達の視界に騎士や魔法使いが列を成して動く姿が見えた。俺達は彼らの視界に入らないように物陰に隠れ、その様子を観察することにする。
「……魔族の住処がどこにあるのかわからないのが問題だな。先回りすることも難しい」
「魔族がいる場所は数日かかるという可能性もあるな」
シルヴィの言及……まあ確かに。これは長期戦になるかもしれないな。
「……見つからないように動くとしよう。全員、注意してくれ」
俺の言葉に全員頷く――それから討伐隊の動向を観察。移動速度はそこそこだが、まだまだ先が長いように見える。
斥候でも出して魔族の状況を窺うようなことをしてもよさそうだが、それもない。俺と同じで使い魔を用いて偵察しているのかもしれない。どちらにせよ、現時点で俺達が魔族の住処を突きとめる手段はない。
根気よく彼らを追うしかない……そう考えた俺だったが――変化が訪れたのは、その日の夜だった。




