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賢者の剣  作者: 陽山純樹
精霊世界

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特別な能力

「文の一つの寄越さなかったから、死んだかと思ったぞ」


 現れた男性は、青い髪を持つ細目の人物。その髪も寝ぐせが多少見えるくらいで、あまり手入れしていないんだろうなと容易に推測できる。


「ああ、ノーデイルじゃないか。久しぶりだな」

「久しぶり、じゃないっての」


 ため息をつく男性――ノーデイル。


「友人か?」


 シルヴィが歩み寄りクウザに問い掛ける。するとノーデイルは俺達へ視線を移し、


「おいクウザ。この人達は?」

「現在共に旅をしている仲間だ」

「お前に仲間……?」

「何だその疑うような目は」


 クウザが言うとノーデイルは「何でもない」と答え、俺達へ向き直った。


「旅の御方、ようこそアカデミアへ。私はクウザの友人であるノーデイル=マリバーと申します」


 ……少なくとも、ゲーム上に出てきた登場人物ではないな。

 それから俺達は彼に自己紹介をして、改めて俺が口を開く。


「えっと、マリバーさんはアカデミアの研究者、ですか?」

「ノーデイルでいいですよ。ルオンさんのおっしゃる通り、私はアカデミアの研究機関に所属する者です」

「お前、宮廷に入ったんじゃなかったのか?」


 クウザが問う。するとノーデイルは肩をすくめた。


「最初はそうだったんだが、俺は実力が足らず結局研究所働きだ。給金安いが、まあそれなりの生活ができているからいいのかもな」

「……他の友人は?」

「全員残っているよ。というかその中の一人、アレーテは出世頭だな」


 自分のことのように誇らしげに言うノーデイル。


「町に寄りつかなかったお前は知らないだろうけど、なんと魔術師団の隊の一つを任されるまでになっているんだぜ」

「ほう、それは興味深いな……ただ、今回ここを訪ねたのは別の要件があるんだ。そちらを済ませたい」


 そう言うと、クウザはソフィアを手で示した。


「ソフィアさんは四大精霊全てと契約した人物だ。今以上に強くなるため、こうしてアカデミアを訪れた」

「へえ、となると精霊関係か……教授については俺が当たってみよう」

「いいのか? なら頼むよ」

「任せとけ」


 彼らが会話を行う間に、先ほどの名前……アレーテについて考える。


 その名前も、ゲームには一切出てこなかった。俺の知っている人物は確か魔術師団に所属している人物ではあったが、隊長とかではなかったはず。となると、クウザと関わりの無い人物ということかな。


 俺達はノーデイルの案内に従いアカデミアの敷地へと入る。建物の中は外壁に反し白を基調としており、清潔感の漂う雰囲気が存在している。


「一つ訊くが、クウザはここに戻ってきたというわけじゃないんだろ?」


 ノーデイルが問う。対するクウザは「無論」と答えた。


「ルオンさん達とやることがあるからな」

「そうか……魔法の腕の方はどうなんだ? 少しは上がったのか?」

「おかげさまで」


 返答にノーデイルは笑う――クウザの実力は、現在大陸の中でも上位に位置しているとは思う。無詠唱に近い魔法攻撃もある上、上級魔法を行使できる能力も持っている。


 宮廷魔術師の中で、上級魔法を使える人間がどのくらいいるのか……考える間に突如ノーデイルは立ち止まる。


「ここで待っていてくれ」


 そう言って、彼は近くにあった扉へ近づき中へ。多少の時間の後、彼が部屋から出てきた……女性の教授を伴って。


「精霊と契約しているというのは誰かしら?」


 見た目、三十過ぎくらいだろうか。化粧っ気がないにも関わらず肌が結構綺麗だったりするのだが、眠っていたのか目がちょっと充血したりもしている。

 癖のある黒髪に茜色のローブを着るその女性。俺達を一瞥した後、ソフィアを注視した。


「ふむ、あなたか」

「わかるんですか?」

「ま、研究している身だからね。それに以前、あなたと一緒で精霊と契約していた時もあったから」


 あくびを噛み殺しながら女性教授は言う。


「私の名前はヘッダ=ブランズ。ヘッダでいいわ」


 そこから俺達は自己紹介をする――その後、ノーデイルが俺達へ彼女について解説した。


「ヘッダ教授は、過去冒険者をしていたという経歴を持っている。ルオンさん達とも話が合うだろうし、目的にも合致しているんじゃないかな」


 ほう、それはよさそうだ……俺が頷くと、ヘッダは笑みを浮かべ部屋へ入るよう手で示した。


「長話になりそうだから、お茶でも飲みながらにしましょうか。まずは、あなた達が何をしたいかから聞かなくちゃね」






 ノーデイルは席を外し、俺達四人とヘッダで話をする。お茶は助手らしき男性が運んできてくれた。


 教授の部屋、というと研究資料で埋まっているなんてイメージを俺は勝手に持っていたのだが、彼女の部屋はそういうわけでもなかった。整えられた書棚。きちんと掃除された床や机。ただ備品に関する予算があまりないのか、家具の類の中に補修した形跡が散見する。


「へえ、なるほど。四大精霊全ての力を使って、か」


 俺達の説明を聞いて、ヘッダはそう感想を漏らした。


「精霊同士の魔力を融合させるのは、理論上は不可能ではない。けど、ほとんどの人間はそれをすることが難しい」

「何か理由が?」

「ええ。私も似たようなことをした記憶があるからわかる」


 そう前置きし、お茶を飲んだ後ヘッダは説明を始めた。


「簡単に言うと、人間が持つ魔力の質的な問題なの。魔法剣を始め、人によって合わない装備品があるじゃない? それと同じで、精霊にも相性がある……といっても、精霊の契約は精霊側が契約者の魔力に『合わせる』ことで行われるから、契約ができないというわけじゃないわ」

「人によって、得意な属性や不得意な属性があるって話ですね」


 俺が口を挟むと、ヘッダは「正解」と応じた。


「例えば私は地属性と相性がよかったから、冒険者をやっていた時は地属性をメインに使っていた。けど逆に、風属性との相性が悪かった。魔力を使う以上、どうしてもそういう得手不得手というのは生まれてしまう」


 ――例えば俺は、全属性の魔法が使えるけどその中でも得意であったり苦手であったりというのは存在している。もっとも、修行で無理矢理全ての属性を引き上げていたりはするが。


「まあ、不得意でも鍛えれば得意な属性と同じレベルで魔法が使えるようにはなる。ただ、四精霊の力を融合させる場合、そうもいかない」

「全部が得意でなければ駄目、と?」


 ソフィアの質問。ヘッダは即座に頷いた。


「私の場合は、どうしても風の力が融合できなかった……だからソフィアさん。精霊の力を融合させる力というのは、非常に珍しいというわけ。加えその手法は間違いなく強力な武器になる」

「もし今から鍛錬するとなると、完成にはどれくらいかかりそうですか?」

「残念だけど、わからないわね。けど今の段階で力を融合させているということだから、何十年も掛かる話ではないと思うけど……前例がないから、こちらからは何も言えないわ」

「そうですか……」

「けどまあ、何もしないうちからあきらめるというのは良くないわよ。まずは試してみましょうか」

「はい……ここで、ですか?」

「一応訓練場みたいな場所があるから、そっちに移動するということで」


 ヘッダの言葉と共に、俺達は席を立ち移動する。ソフィアは本当にできるのかという厳しい表情を浮かべていたが、ヘッダの方は彼女に一定の可能性を見出した様子。


 ソフィアの技が実戦で活用できるのか……それは、ヘッダがどう見るかで変わってきそうだった。


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