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賢者の剣  作者: 陽山純樹
神霊の力

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新たな目的

「ソフィア」


 背後から呼び掛けると、彼女は一瞬ビクッとなった。よくよく見れば彼女の肩にレーフィンがいる。まず彼女の方がこちらへ体を向けた。


「ルオン様、私達を探しに?」

「ああ……ソフィアに訊きたいことがあって」


 告げた後、ソフィアも振り向く。顔はちょっとばかり硬直していた。そうした表情を見せることがあまりないので、俺自身も戸惑ってしまう。

 というか、先ほど話し合いをした時は平然としていたはずだが……なんとなく言葉を待っていると、レーフィンが言った。


「ソフィア様は、先の戦いを思い出し色々思うところがおありの様子で」

「レ、レーフィン……」


 困った顔でソフィアは言う。一体何が……沈黙していると、彼女は息をついた。


「その……あの戦いを通して、私も考えたんです」

「怖かったか?」


 質問を投げかけると、ソフィアは即座に首を振った。


「そんなことはありません。その、私としてはルオン様の力を目の当たりにして、本当に素晴らしいと――」


 す、素晴らしいって……ソフィアも自身の口から発言した言葉にびっくりしたのか、口を止めてしまう。


「……聞かせてもらえないかな」


 俺が要求する。ソフィアは一度首をすくめたが、やがて――


「ルオン様が、その力を人々のために使っていらっしゃることは、私もよく理解しています」

「ああ」

「神霊との戦いを見ていて……なんといいますか、ルオン様の戦いぶりを見て、興奮したというか」


 ……やや言葉を濁すあたり、ソフィア自身も言葉で上手く言い表せないのかもしれない。

 その時の光景を思い出しているのかわからないけど、語るソフィアは顔が紅潮しているようにも見える……興奮したというのは間違いないんだろうな。


「レーフィンはどう思った?」


 なんとなく話の矛先を変えると、彼女はにっこりと笑みを見せ、


「私自身、話には聞いていたので呆然としてはいましたが、納得もしました」

「そっか。ま、何にせよ肯定的に捉えてくれて助かるよ」

「その、ルオン様」


 今度はソフィアが話し出す。


「一つだけ、よろしいですか」

「どうぞ」

「……ルオン様の実力から考えたら、私が言うのもおこがましいとは思うのですが」

「大丈夫」

「その、今まで色々とご無理をなさっていたのですよね?」


 無理、か……まあ移動魔法を駆使してあちこち飛び回るとかは、彼女の言う無理の一つに入るかもしれないな。


「魔王が迫る状況だからな。これだけの力を保有している以上、少しは頑張らないと」

「……私にできることは少ないと思いますが、もし何かあれば相談してください」

「わかった。ありがとう、ソフィア」


 礼を述べた瞬間――突如ソフィアは俺に背を向けた。


「どうした?」

「い、いえ。何でもありません」


 気になる反応だな……と思っていると、レーフィンがソフィアの肩を離れながら言った。


「お礼を言われて、感無量みたいですね」

「レ、レーフィン……」


 咎めるソフィア……旅をしていて従者として何かをやってもらって礼を述べたことはある。けれど、今回の礼はそれとは重みが違うと感じたんだろう。


「……そうだ」


 ここで俺は、後ろ向きのままであるソフィアに話し出す。


「俺としても、何か悩んでいることがあれば相談してくれ」

「は、はい」


 背を向けたまま頷く彼女。その姿がおかしくて俺はちょっと笑った。


「……それじゃあ俺は宿に戻るよ。レーフィン、ソフィアのことを頼んだ」

「はい……あ、ルオン様、一つだけ私からも助言を」

「助言?」

「フェウス様との戦いについて」


 精霊からのアドバイスとなると、大いに気になる。表情を戻し言葉を待っている間にソフィアも向き直り、やがて、


「最後にフェウス様が放った攻撃についてです」

「フェウスが自分自身の魔力を、俺にぶつけたやつだな」

「はい。ルオン様としても、あの攻撃については予測できなかったのではと思います」

「そうだな。確かにギリギリまでわからなかった」

「ルオン様からすれば、フェウス様の全力にも対応できたと考えていたのかもしれません。ですが、やはり最大の攻撃を受けるというのは、一定の危険が伴うと思います」


 ……なるほどな。俺もレーフィンが何を言いたいのか理解できる。


「魔王との戦い……いや、高位の魔族との戦いでも、ああした全力の攻撃を受けないよう注意した方がいいという話だな」

「そうです。ルオン様の実力からすれば過ぎた助言かもしれませんが」

「いや、重要だ。俺がいくら強くとも、相手がそれを上回らない保証はどこにもないんだ」

「……それに際し、もう一つだけ」


 さらにレーフィンの話は続く。


「今後の戦い……南部侵攻や魔王との決戦の中で、ルオン様は緊急時の対応のために動くことになるかと思います」

「俺もそれに異論はないよ」

「その中で――魔王が準備をする大陸を崩壊させる魔法」

「ああ」

「例えルオン様でも止めるのは難しいと思いますが、万が一……」

「ああ、そういうことか」


 俺は声を上げる。ソフィアもまたレーフィンが何を言いたいのか察し、彼女を見る。


「最悪、魔王の仕込んだ魔法が発動し……それを食い止めるべく、俺が無茶をしかねないと思ったんだな」

「……そういう状態となってしまった場合、どうすればいいのか私も色々と悩みます。発動してしまった以上、どうしようもないと割り切るのか、ルオン様が持てる力を発揮し食い止めるのか……けれど、大陸を崩壊させるほどの魔法と正面から相対すれば――」


 死ぬかもしれない、とレーフィンは言いたいわけだ。


 正直、その魔法だけは対応できるのかまったくわからない。ゲーム上でもイベント扱いだったため、威力が設定されていたわけでもない。

 もしここで「死ぬつもりはない」とか言ったら、死亡フラグが立ちそうだな……そんなことを考えつつ、俺は口を開いた。


「――ガルク」

『うむ』


 俺の右肩に子ガルクが現れる。


「今の話を聞いて、どう思った?」

『我も最悪の事態となれば、ルオン殿が無茶をしそうだと思ったよ』

「……正直、そうなったら逃げそうな気もするけどな」


 冗談っぽく言うのだが、レーフィンやソフィアの表情は変わらない。


「言いたいことはわかる。俺も衝動的に行動してしまう可能性も、否定はできない。だから、策が絶対成功するよう頼む」

『任せておけ』


 ガルクが言う……南部侵攻と魔王の放つ魔法が最大の問題であるため、レーフィン達が神経を尖らせるのも理解できる。

 今は、全力でやるしかない……そう心の中で思った後、俺はソフィアへ顔を向けた。


「ソフィアも元通りとなったみたいだし、宿に戻ろう」

「はい」


 二人揃って歩き出す……その時、俺はふと考える。


 現状、俺が単独で大陸崩壊の魔法を止める手だてはないだろう。その魔法は五大魔族が大地に仕込み、さらに魔王という膨大な魔力を持つ存在が放つもの。俺がどれほど強かろうとも、人間の器を超えているのは明白だ。


 けど……可能性が低くとも、手段を探してみるのも一つの手だろう。丁度アカデミアへ向かう。さすがに魔王の力を凌駕する方法が書かれた書物なんてあるはずもないが、ヒントとなる何かは見つかるかもしれない。


「やることが、増えたな」


 小さく俺は声に出す。ソフィア達には聞こえなかったようで、その言葉に応じる者はいなかった。

 俺は賢者の血筋ではないため魔王を討つことはできない。けれど、それ以外のことならば、できる限りのことをやろう――そう改めて決心し、ソフィアと共に宿へと戻った。


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